第20話 続 俺だけ?転生者を始末ですわ!
ついに始まる、ネタバレという名のショータイム。
両手を広げて劇の開催を宣言するルディアはえらく上機嫌だ。盛り上げてやる義理もないが、億を超える年齢をして張り切る、その哀愁漂う姿に免じて、乾いた拍手だけはくれてやった。
「キラが感じたその感覚。転生者の魔力が漏れ出したとか、変に裏読みする必要はありません。その正体は見たまま、この小屋が魔力を発しているのですわ!」
「小屋に? 物に魔力なんて帯びるのかよ!?」
「そりゃあ持ちますわよ。キラも魔力の込められた石や剣とか、聞いたことあるでしょう? 魔石や魔剣、魔道具という物体の最たる例ですわね」
そ、そっか。物に力が、なんて現実ではオカルト染みているけど。ここは異世界。物に魔力が宿るのは当然だし、先程のダンジョンのような空間や、あるいは呪文や言霊という概念があるように、言葉にすら魔力は備わるのかもしれないな。
「正確に言うと小屋ではなくて、この”土地”自体に宿っております。そしてこの地は、魔力を高める『パワースポット』なのですわ!」
「パ、パワースポットって、あの神社や山川で言うような、アレか?」
「遠からずってとこですわね。力を与えてくれるという点は同じかもしれないですが、気休めのような占いや風水と違って、この手のパワースポットは、そこに居るだけで、まま力を与えてくれますの。目に見える魔力としてね」
まるで泉質の良い隠れた名湯のようだ。
だから転生者は、一人こんな辺ぴな所に住んでいたのか。スポット自体を動かすことができないから。
「そして、重要な点がもう一点! あの魔力ほとばしる転生者、実は始めから強いという訳ではないのですわ。あなたも当初、転生者にはそれほど強い魔力を感じなかったでしょう?」
「確かに、ダンジョンや小屋には感じたけど、転生者自身は、あの液体を飲むまでは特に何も感じなかったな」
「そうなのです! 彼らは元は一般人。転生直後も最弱なのです。ですが、アイテムやパワースポットを駆使して強くなる」
なるほど、そういうケースもあるんだな。成長過程がある分、最強転生者に比べれば幾分マシかもしれない。努力をしてるかと言われれば話は別だが。
だがしかし、一つの疑問が頭に浮かぶ。それは、転生と共に得られる力と違って、このパワースポットというものは、現に異世界に存在してしまっている。それはつまり――
「転生者が強くなれた理由は分かったけど。でもこれって、転生者だけじゃなくて、この世界のみんなが強くなれてしまうんじゃないか? こういうスポットのある世界なんだろ?」
「……今、なんと言いました?」
「え?」
何か、不味いことを言ってしまっただろうか。眉を吊り上げ詰め寄るルディア。その様は真剣とも、不機嫌ともとれる。
「だから! 今! キラは! 何と言ったのですか!?」
あ、圧がすごいのだが……
その胸に聞けと言わんばかりに、突き出す指が俺の胸部を圧迫する。
「い、言うよ。今言うから! えぇと、転生者が強くなったのは分かる。でも、パワースポットのある世界なら、転生者”だけ”じゃなくて――」
「ソレデスワァアアアアアア!!!!!!!」
腕一本にも満たない距離で大声を上げるルディア。その迫力に、某スタジオの宮〇アニメーションのように、全身の毛が逆立った。
「”だけ”なのですわ! これらのスポットは転生者のみの専売特許。他に使える者などいないのです! 転生者”だけ”。だからモンスターがいなくとも、宝は誰にも取られない。この者の正体は『俺だけ転生者』なのですわ!」
「意味が分からんっ!!」
自分の頭で考えたいが、転生者のバリエーションは、俺の想像を超えて奇天烈過ぎた。名前だけでは要領を得ない括り。果たしてそれが、どのような”らしくなさ”を内包しているのか。
「分からなくて結構! 徐々に学んでいきなさい。ネタバレを焦らすのも、キラの思考力を高める為。キラが一人でも戦うことができるように。遊びでやってる訳ではないのですわ」
「なんだよ。いずれは俺の側を離れるような言い種だな」
「…………」
えっ?
「いいですか? 俺だけ転生者は、先程も述べたように弱者も弱者、最弱者でのスタートが基本なのですわ。しかし、”俺だけ”が使えるアイテムやスキル、ダンジョンや魔力スポットを使って、あっという間に急成長。最弱期間など、ものの一話で終わりを迎え、以降は最強無敵のロードを歩んで行くのですわ!」
「な、なんだよそれ! そんなのって、転生直後から最強と、なんら変わりはないじゃないか!」
「その通り! そしてこの手の物語のタイトルには、大概にして、あるフレーズが記されているのですわ!」
「そ、それは?」
『”最弱”だけど――』
その言葉に煽られるようにして、俺の右手が輝きを放った。
さてここで質問だ。果たして俺は、何に対して”らしくない”と思ったか。
努力もせずに最強になれたから? 俺だけしか使えないという、ご都合主義の設定に? ノンノン、今日の俺は、一筋縄ではいかないのだ。
「ふふ、今回キラは、どう”らしくない”と感じたのかしら?
それを、今ここで! そのまま口にして解き放つがいい! ですわ!!」
感じ取るなど必要ない。見たままに伝わる強大なエネルギーを、転生者に対して突き付ける。
見てろよルディア。これが俺の答えだ!
「タイトル詐欺じゃねぇかぁああああああ!!!」
それが、俺の導き出した”らしくない”。それはタイトルの話では? という声が聞こえてきそうだが、題名というのは物語を、そして主人公を呈する。
”最弱だけど”そんなのは最強転生者ですら、総じて転生前は最弱な訳で、そのオリジナリティが一話で破綻するのなら、それは読者を裏切るという、主人公にはあってはならないことなのだ!
その許されざる大罪は、ガラスを破り転生者を捉えると、偽りの最弱期間をそのままに、光の速さでその身体を消し飛ばした!
「ヤリマシタワァアアアアアア!!!!!!」
高らかに決め台詞を叫ぶルディア。その声はいつもより、熱のこもったように俺には聞こえた。
「しかし、可笑しな罪状を突きましたわね。てっきり、理不尽な成長や、都合の良い設定に目が向くものかと思ってましたわ」
そりゃそうだ。もちろん俺だってはじめはそう考えた。だけどそれでは単純だ。同じことなら誰でもできる。成長とは、先に進むことで生まれるものなのだ。
「面白いだろ、その方が。お前も見てて飽きないだろうしさ!」
「私を気遣うなんて、随分余裕が出てきたものですね」
「んなことないよ。分からないことばっかりだ。だからさ、まだ色々教えてくれよ。つまんないようにはしないからさ」
「……そうね」
微笑むと、ルディアはその手を差し出し、俺の頭を撫でた。
それはまるで女神のような振る舞いだったが、くしゃくしゃと乱すように頭を擦るその動作は、やはりその者が女神などという抽象的なものではなく、”ルディア”という個人なのだと、そう感じさせた。
「そうしてくれると嬉しいですわ! 我が子の成長に、喜びもひとしおです」
「いつお前の子供になったんだよ」
「あら、人類皆神の創造物でしてよ。特にあなたは、この私が”転じて生んだ”訳ですから」
となると俺は母親二人って訳か。って、いやいや、腹を痛めて生んだ母さんと一緒にしてはいけない、と思う。
「それにしてもやっぱり、ワックスのつけ方も、主人公の能力も、はじめは儘ならず、段々と成長するのが楽しいものですわね!」
「お、お前なぁ! それを引き合いに出すなよ!!」
あの瞬間を思い出したのか、ケラケラと楽しそうに笑い出すルディア。
人を小馬鹿にするような態度は腹が立つけど、なんだかんだで楽しい奴だなって、そう思えるようになってきて――
この先も二人でならやっていけるのかなと、そう感じたのであった。




