表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/91

第1話 転生者を始末ですわ!

 俺の名前は『転生 綺羅(てんじょう きら)

 日本に住む高校生だ。


挿絵(By みてみん)


 と、自己紹介をしたはいいものの、正直それ以外に語るところはあまりない。人に自慢できるような特技も無ければ、逆に目につくような駄目なところもない。つまりは何の変哲も無い普通の高校生ってことだ。


 目立ちたくないと言えばそれは嘘になるが、かといって自分に世界を変える何かができる訳でも無いし、普通に暮らせているだけで十分幸せなんだろうと思う。

 だがそんな俺にも好きなものくらいはある。というより普通だからこそ好きになったのだろう。


 それは漫画やアニメ。


 中でも王道モノの正統派主人公がたまらなく好きなのだ。自分とは正反対の輝ける道を行くヒーロー達。だが正反対にも関わらず、努力を怠らず仲間を信じ続けるその姿勢は見る者に多くの感銘を与えてくれる。そして彼らはページや画面の前にいる者達に。


『いつか君もヒーローになれるよ』


 そう伝えてくれているような気がした。


 だから俺は主人公が好きだ。脇役とかも決して悪くはない。だけどやはり『友情・努力・勝利』それらを劇的に示してくれる主人公が物語の華だろう。


「おはよう! キラ」

「おう、おはよ! トウマ」


 挨拶するのは同じ高校に通うクラスメイトの一人。

 名前は『地井(ちい) トウマ』


 示し合わせた訳ではなく登校中に偶然会っただけなのだが、幼馴染みのトウマとは家も近いので近辺では出くわすことは多い。幼い頃から共に遊ぶ仲であり、俺にとっては数少ない親友の一人だ。そんな気の置けない奴ではあるのだが、一つトウマとは話が合わないところがある。


「先週の『熱血! ヒーロー塾』見たかよ? やっぱ熱いよな! 修行した主人公が苦難の上に宿敵を倒したところ、その後にそいつが仲間になるところも最高だったぜ!」


 意気揚々と、お気に入りの漫画の感想を語る。好きなものを語る時というのは誰だってそういうものだろう。だが高揚する俺の気持ちとは相反して、トウマの顔には陰りが差す。


「そうかぁ? なんか暑苦しいってか臭いってか、もっとクールにやって欲しいもんだけどね」


「な!? お前、あの展開の良さが分かんないのかよ?」


「言いたいことは分かるけどさ、あんま今っぽくないんだよな、あの漫画」


 呆れたような憐れむような、そんな哀愁漂う目で俺を一瞥する。だが自身の話題に入ると、再びその目には少年のようなキラキラとした無垢な輝きを取り戻した。


「それよりさ!『Fランク冒険者の無双伝記』見てみろよ! 面白ぇぞ! なんせ出てくる女の子が可愛いのなんのって」


「みねぇよ……あんなもん」


 人の話は流しておいて、自分の話題を振るなよと、不貞腐れて俯いた。そんな様子を見たトウマは茶化すように覗き込みいたずらな笑みを浮かべる。


「なんだ? 可愛い女の子よりむさ苦しい男の方がキラの好みか?」


「ち、違うに決まってるだろ! なんでそうなるんだよ!

 なんで読まないのかって? そんなん、つまんないから読まないんだよ!」


 ムキになり思わず強い口調で言葉をぶつける。自分の好きな漫画を一蹴されてしまったから、余計にその言葉には棘が立つ。


「その物語って主人公が初めから最強らしいじゃねぇか。どうせ苦戦や成長もないんだろ? そんな漫画に努力もクソも……」


「あ、そういうの俺分かんねぇから! 人生楽に生きてなんぼっしょ!」


 ぐぐぐ……


挿絵(By みてみん)


 険悪に見えるかもしれないので一つ断りをいれておく。俺がトウマと喧嘩することは稀だ。喧嘩する程仲が良いという言葉があるが、トウマとは喧嘩せずとも仲が良かったし、これからもきっとこの関係は続くと思う。

 だが時々嫌味なことを言う奴なのだ。しかし、言っている本人は嫌味なつもりなど全くない。それにはある一つの理由がある。


 トウマは超が付くほどに恵まれている。


 それは金持ちの家に生まれたことから始まり、長身かつ顔立ちも整っている。天は二物を与えないというが、小一時間ほど神様に問い詰めたいところだ。しかしその程度は序の口。トウマの天恵はこれだけに留まらず、スポーツも万能な上に頭もいい。もはや『僕の考えた最強の~』状態と言っても過言ではないだろう。


 そして極めつけは、トウマはそれらに対して一切の努力をしていない。


 努力せずとも、いとも簡単に物事をこなせてしまうのだ。その類稀なる才を見る人達の中には『実は陰では努力している』『人に見えないところで練習している』などと知ったような口を利く者もいる。だが間近で、幼い頃からトウマを見てきた俺からすれば、それが根も葉もない嘘話であることが分かってしまう。


 俺は知っている。

 トウマは本当に努力をしていない。


 と、言うよりも人一倍、いや、人万倍出来てしまうトウマには、努力というものが何であるのか本気で分からないのだ。


「悪かったな、キラ。別に怒らせるつもりじゃなかったんだ。自分が面白いと思ってるものを馬鹿にされるのは誰だって嫌だもんな。俺もお前もお互い様ってことで、言い出しっぺの俺が謝っておしまいだ!」


 そう言うと先程までの険悪さが嘘のように普段のおちゃらけた表情に戻った。俺だってトウマと喧嘩なんかしたくない。小声でごめんと呟くと、無邪気な笑顔で……


「なんのことだか分かんねぇ!」


 とだけ答えた。



 その後はいつも通りに登校し、授業を受け、滞りなくホームルームを迎えて帰路につく。今日も今日とて、特に変わり映えのしない平凡な一日であった。強いて言うなら今朝の口論くらいなものか。漫画のヒーローからしたら些細な喧嘩など呆れるくらい平和なものだろう。

 ぼんやりと一日を振り返りながら街を歩いていると、ふと本屋のガラス戸に張られた一枚のポスターが目に入った。


『Fランク冒険者の無双伝記 アニメ化決定!』


 今朝はくだらないと言い捨てたが、やはり面白いのだろうか? なにせアニメ化されるくらいなのだ。相応の支持があってのことに違いない。


 俺は少し興味が沸いた。

 それと同時に少し、反省した。


 今まで見てきた漫画の中にも、主人公が始めから強い作品は幾つもあった。でもそれらは強さだけではない、ユーモアのある展開や精神の成長を描いており、俺の心を震わせてくれた。

 きっと『Fランク冒険者の無双伝記』もその類のものなのだろう。食わず嫌いは良くない。ましてや見てもいないのに批判などしてはいけない。俺はその本屋に入ると『Fランク冒険者の無双伝記』を手に取りレジへと向かった。


 

『To Be Continued』



 その文字の書かれたページ。うっすら湿ったそのページを、背表紙と共にパタリと閉じる。


 馬鹿だ、俺は馬鹿だった。

 溢れる涙が頬を伝って、ぽたりぽたりと落ちていく。


『Fランク冒険者の無双伝記』

 この、この漫画は……


「やっぱりクソじゃねぇかぁあああ!!!」


 一人むせび泣く姿に、周囲の人々は怪しげな視線を向ける。だがそんな些細なことなど気にしてはいられない。待ちきれずに公園で読み始めたこの漫画。しかし結果は、高校生の少ないお小遣いを無駄にしたようなものであった。

 内容としては前評判通りに、主人公は何人も寄せ付けぬ最強そのものであった。だがそこについては元より覚悟していたのだからなんの問題もない。


 問題は、最強ではなく、絶対ということ。


 主人公が全てにおいて絶対なのだ。俺の知る主人公達は、時に間違えたり失敗もするけれど、それを反省し糧にして強くなっていくものであった。

 だけどこの漫画においては主人公は始めから絶対。なにをするにしても周囲は賛同し、賞賛し、そして平伏する。まるで如何わしい集団の教祖のような崇められ方だ。


 確かに女性陣はトウマの言う通り作画も良く、可愛いらしく描かれていた。だが、主人公に惚れるのだ。主人公に惚れることの何がおかしいって?

 確かに主人公はモテるだろう。登場人物に次第に惚れていく展開はいたって普通だ。しかしこの漫画には、次第に、なんて過程を楽しむ場面は存在しない。


 見たら惚れるのだ。

 話せば惚れるのだ。

 会えば惚れてしまうのだ。


 それもヒロイン一人だけが惚れる、なんて慎ましやかな愛ではない。あろうことか登場した全女性キャラが主人公に惚れていく。更に不可解なことに、その状況について誰一人嫉妬の感情を示さない。女性全員が同じ場面にいても主人公とよろしくいちゃついているのだ。そこに恨み妬みの描写は皆無で、みんながみんな仲良しこよし。


 いくらなんでも、これは異常すぎるだろ! それに男も男だ。このハーレム状態を受け入れて、一人の女性への愛を突き通さずに浮気ばかりしてやがる。


 くそ、なんだよこれ……

 努力することは、積み重ねる事は、無駄だって言いたいのかよ。始めから恵まれた者だけが勝利するって、そう言いたいのかよ。


 瞬間、俺とトウマの境遇が頭を過った。


 く、くだらねぇや!

 何を本気になってんだろ? 俺がトウマを妬む訳無ぇだろ!


 一人で泣いたり笑ったり。通報されてもおかしくない不審者だったに違いない。だけど笑わずにはいられなかった。こんな些末なことで、少しでも親友を妬みたくなかったのだ。

 考えすぎると、どうしてもマイナスな思考に偏ってしまう。深く考えるのを止めてベンチを立つと、フラフラとした足取りで公園を後にし、再び帰路に着いた。



 はずだった。

 

 

 考えすぎは良くない。だが物事には加減というものがある。つまり対極に位置するものも、同時に良いとはいえないのだ。

 頭を空っぽにしていいのは、確実に安心安全が保障されている場合のみにするべきだ。しかしこんな教訓は誰の役に立つことはない。もちろんそれは自分自身にも。


 なぜなら、たった今産声を上げたばかりのその教訓は――


 この日この時間に、俺と共に完全に消え去ってしまうからだ。



『キキィイイイイイイ……』

『グシャ!!!』



挿絵(By みてみん)



 気が付くと……


 俺は宙を舞っていた。


 目の前は真っ赤に染まっている。


 きっと、自分の体から噴き出したものなのだろう。


 衝突したのはトラックだったろうか。


 凝縮された時間の中では、何にぶつかったのか振り返ることさえもできない。


 そもそも、あれ?


 なぜか俺の背中が見えるぞ?


 そうか、はは……


 首が、ひん曲がっちまったのか。


 不思議と痛みは感じない。身体が死を受け入れたからだろうか?


 だけども。


 母さん……


 こんな姿見たら泣いちまうだろうな。


 トウマ……


 やっぱあの漫画つまんなかったぜ。


 それだけが心残りで。

 

 心だけは――


 

 とてもとても、痛かった。





 ♦♦♦♦♦♦♦♦





 ……


 う……


 あれ? 意識が、ある。


 確か車に轢かれたはずでは?

 当たり所が良かったのだろうか。


 いやいや、首がねじ曲がったんだ。

 即死に決まっているだろう。


 だとしたらこれは夢?

 もしくは――



挿絵(By みてみん)



 天国。



 目を開いた先の景色に、まず一番最初に抱いたイメージであった。見慣れた自分の部屋でも、見知らぬ無機質な病院の一室でもない。


 死後の世界。


 周辺を囲む白雲の隙間からは強く、それでいて暖かな日の光が差し込み、辺り一面を神々しく輝かせている。頭の中は霞がかったようにはっきりとしないが、特に痛みや苦しみはなく、身体に異常はなさそうだ。半身を起こし辺りをぐるりと見渡す。

 人の気配は、無い。緩やかな風の音だけがこの静かで聖なる空間に心地よく響いている。


 そういえば首、動いたな。折れていたはずなんだけど。

 ……ははは。

 傷が治っている上に、いかにもな世界。やっぱり俺は死んだみたいだな。


 途端に気が抜けて、起こした身体を再び地面に預ける。死ぬ直前はあれほど痛んでいた心も今では不思議と穏やかだ。死して悟りを開いたのか、はたまた単に心が麻痺しているだけなのか。


「普通は退屈だと思っていたけど、まさかこんな特別が待ち受けていたとはね」


 皮肉を口にし、ぼんやりと日の差し込む雲を眺める。雲は風に流されてゆっくりとその形を変えていく。先程までは入道雲のように固まっていた一つの雲が散り散りになり、その中央から強い光が差してきた。


 優しい光ではあるけど、これはさすがに眩しいな。


 次第に強くなるその光に目を伏せようとした、その時だった。差し込む光に違和感を覚える。雲が散れば日が強くなるのは頷ける。だが遮るものがなくなった今、依然光が強くなり続けるのはおかしくないか? 目を細め再び見上げると、日は一層その強さを増して眩い光を差してくる。


 いや、差してくる、のではない。

 これ、落ちてきてないか!?


 光は強さを増していたのではない、単に近づいてきていただけだったのだ。更に勢いを増すその光源は、とある一点に向かって落ちてくる。その落下点とは――


「俺じゃねぇか!!」


 そのことにようやく気付き、即座にその身を起こす。だが立ち上がる頃には時すでに遅し、既に光は回避不可能な距離にまで迫ってきていた。一度は起こした身体だが、今度は身を守るために急いでその身を屈める。


 だが光は近づくにつれ、今度は急激にその落下速度を落としていく。呆気に取られて眺めていると遂には目の前でふわふわと宙に浮かびだした。

 そして次第に輝きを弱めていくその光は、次にその形を変化させていった。球状の形が縦に伸びていき、徐々に見覚えのある形へと変貌していく。


 それは、人の形。


 その人型は光が弱まるごとに、少しずつ本来あるべき色味を取り戻していく。


挿絵(By みてみん)


 いかなる闇も寄せ付けない、透き通るような白い肌。


挿絵(By みてみん)


 全てを包み込む深い海を思わせる、神秘的な蒼い瞳。


挿絵(By みてみん)


 先までの輝きをそのまま残したかのような、煌めく黄金色の長髪。


 そんな――


 美を具現化したかのような女性が、俺の目の前に降り立った。


挿絵(By みてみん)


「ようこそ、神の世界へ。私は調和の神『ルディア』」


 神。女性の。

 つまりこの女性は、女神。


 今何が起きているのか、常人の俺には理解できない。そしてこれからどうなるのかも凡人の俺にはさっぱり分からない。だが一つだけ動かぬ事実がある。それは。


「やっぱり、俺は死んだんだな……」

 

 なんせ神様が直々に現れたのだ。聖職者、あるいは信心深くもあれば生きてる内に拝めることもあるのかもしれない。だがそのどちらでもない者にとって、それこそが絶対確実な死んだことの証明になるだろう。


「えぇ、気の毒ですが、あなたはトラックとの衝突でその短い命を終えました」


 やはり俺が衝突したのはトラックだったのか。

 首がへし折れるのも頷ける。頷く首があればの話だが。


「ただ、あなたは運が良かった。ちょうど私が死者を望んでいるタイミングで死んでくれるのですから」


 死ぬのにいいタイミングってなんだよと、ツッコミを入れてしまいたくなるが、そんなことより聞きたいことが山ほどあるので、喉元まで出たその言葉は大人しく飲み込むことにした。


「えぇと、死者を望んでいたって一体……」


「言い方が悪かったですわね。死者というより、転生できる者を望んでいたのですわ」


「て、転生って?」


「転生は転生ですわ。死した魂をもとに新たな肉体を与えて蘇生する。そしてもちろん、わざわざ転生させたからには、あなたにはある能力と役割を与えたいのです!」


 えぇと、ちょっと待てよ? デジャブだっけか?

 こんな展開を最近どこかで見たような、って!!


 これって生前に見た『Fランク冒険者の無双伝記』まんまじゃねぇか! 転生した主人公が異世界で活躍する冒険ファンタジー。まさか、転生が本当に実在するだなんて。

 だけど、こんなありえない状況下にあっても、俺には一つの曲げられない信念があった。それはあの漫画で感じた俺の違和感。そして今までの生き方を肯定する為にも!


「だったら! 俺は最強の能力なんていらない! 俺は自分の力で、努力して生きていきたいんだ!」


 言った、俺は言ったぞ! 場の雰囲気に流されず、ちゃんと自分の意見を通したんだ!

 自分で言うのも難だがとても主人公らしいことを言ったと思う。そんな勇敢なる言葉に、目の前の女神も感嘆し褒め称えて、って……

 なんてことはなく。女神ルディアは呆れたような眼差しで俺を冷たく無機質に見据えている。


「はぁ? いきなり何を言ってるんですの? 最強の力を与えるつもりなんて、始めから毛頭ありませんわ」


「え、えぇと。転生ってそういうものじゃないの?」


「逆ですわ! あなたには、最強の力を持つ転生者共を始末して欲しいのですわ!」


 転生した俺が転生者達を始末する? 最強の能力は貰えないのに最強の相手を始末する?

 矛盾するかのような発言に困惑する俺を差し置いて、ルディアは構わずにその話を続けていく。


「転生しているのは何もあなた一人じゃないのですわ。昔は年に一人とかそんなものでしたが、もはや今では一日数人なんてザラ! ひどい時には集団転生で一クラス丸々転生、なんてのも日常茶飯事なのですわ!

 後先考えない神々や召還士がバーゲンセールの如く転生させまくり、もはや異世界は転生者で飽和状態。異世界の秩序も乱れまくりなのですわ!」


 突如始まる熱弁。しかし急にそんなことを言われても、神々の転生事情を知らない俺にとっては何がどう影響しているかなんて計り知れない。だが気になる点が一つある。それは唯一俺とルディアの共通認識であったこと。つまりは俺を除く他の転生者は――


「他にも転生者がいることは分かったけどさ、でも始末と言ったって、相手は今お前も言ったように最強の転生者ばかりなんだろ? 一体最強相手にどうやって戦うっていうんだよ!」


 何はともあれ自身の行く末だ。心底不安な気持ちで尋ねた質問のはずだったのだが、それを聞いたルディアの口角は何かを企むようにニヤリと怪しげに吊り上がった。


「いい質問ですわね。そこで! あなたには転生者を異世界から現実世界に叩き戻す、『転生者キラー』の能力を差し上げますわ。

 これは異世界でのあらゆる物理的力や魔法、スキルなどを無視して効果を発揮するのですわ。そしてこの力を操る原動力は、あなたの『主人公パワー』に依るのです!」


「しゅ、主人公パワー!?」


「そうですわ! 相手の主人公パワーを奪い、自らの主人公パワーとします。その力が相手の力を上回った時! 転生者キラーの効力で、相手を異世界から現実世界に叩き戻すことができるのですわ!!」


 武力でも……

 戦闘力でも……

 魔力でもない。

 はじめて聞くよく意味の分からない力。

 唯一、始末といっても殺すのではないという点だけにはホッと胸を撫で下ろす。


「いいですか? 主人公パワーは――」


『正義であるべき主人公らしくない非道な行い』

『好かれるべき主人公らしくないイラッとする態度』


「それらの『らしくない』部分を発見することでパワーを吸収することができるのですわ! どういう行いが主人公らしいのか、あなたはそれを意識して戦うのです!!」


 なんだかちょっと綺麗なことを言って終わった風になってはいるが、正義感とかそういう建前以前に。


「ちょ、ちょっと待て! なんなんだよその力は! いきなりそんな説明をされても、訳分かんねぇよ!」


 正直今の俺には能力や使命の内容どころか、何が正しくて何が悪いかの判別すら付けることができない。ここは既に法治国家である日本はおろか、人間の住まう世界ですらないのだから。

 だがそんな俺の悲痛な訴えは女神の右耳から左耳へと、まるで底の抜けたバケツの如くするりと通り抜けていった。


「ちなみに、私のこのお願いを聞かない場合は……」


「即ッ刻!!」


「死亡処分ですわ!!!」


「では! あなたのご活躍を期待しておりますわぁあああ!!!」

「お、おい! 説明がまだ、って……」


「うわぁああああああああ!!!!」



 結局事の次第も分からぬままに。眩い光に包まれて、俺は神の世界から放りだされたのであった。








挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 駆け抜けるようなコメディたっちのストーリーや、能力の設定が面白くなりそう。 [一言] 主人公と幼馴染の名前のセンスがやばい(ほめ言葉
[一言] Twitterのフォローありがとうございました 早速ブックマークさせていただきますね ぴかぴかあつめ
2021/01/25 17:11 退会済み
管理
[良い点] 設定が最高です。 挿絵が多いのも特徴的で面白いと思います。 [気になる点] まだ二話しかないところ、 細々とした描写のズレが見受けられるところでしょうか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ