第13話 終 異能力転生者を始末ですわ!
転生者の犯した愚行。そのことから思いもよらない事態となった。なんとルディア自身が、おとり捜査に出るらしい。
意気込みも十分に肩を回している姿を見ている限りは、作戦にはかなりの自信があるようだ。滅茶苦茶なことを言う奴だが、これまでの始末もルディアの言う通りに事が運んでいるのも事実。ここは素直に任せて、俺は裏方に徹することにした。
次第にポロリ事件の騒ぎも落ち着きを見せはじめる。給仕本人だけは、以降は働ける状態ではないとのことで職場を後にしたが、それ以外は元通りの活気溢れる店内へと戻っていった。
転生者は本来の目的であるはずの飯を”ついで”に済ませると、お腹も心もいっぱいになったのか、ご満悦な様子で席を立った。すかさず俺とルディアも、追跡を開始する。
街中に出ると、再びフラフラと歩きながら周囲を見渡す転生者。次の獲物を探しているのだろうか。声掛けのタイミングを見計らうこの状況、まさに気分は万引きGメンだ。
「なぁ、どのタイミングで奴に接触を試みるんだ?」
「人気がなく、かつキラが隠れるスペースがあればどこでも構いませんわね。私が出張れば、キラを匿うことはできませんから」
そ、そうか……
ルディアが人目に出る以上は、神の視点を使う訳にはいかない。となると、俺の姿も丸見えって訳か。これは心してかからないといけないな。
「いいこと? 私は転生者の仲間に入りたい。そういう呈で接触を試みるのですわ』
「あれ? 誘惑して聞くんじゃなかったのか? それに魅了できたなら、そんな回りくどいことしなくても、直接聞いちまった方が早いだろ」
「もちろん落とすつもりはありますわ。ですが、部外者のままでは能力を隠されてしまうかもしれない。それに、能力の本質についてこちらから聞き出したら、怪しまれて逃げられてしまう可能性がありますわ。あくまで相手から証言させなくては。時間を止められる相手に鬼ごっこは厳しいですわよ」
「分かったよ。だが、くれぐれも無理はするなよな」
「ご忠告感謝申し上げますわ。ですが、そんな心配は無用ですことよ。私はあなたの、何億倍も長生きしているもの」
何億って言うからには、二億以上ではあるよな。というからには、俺の歳と掛けても、大体三十億から百五十億年くらいは生きてるってとかよ。
長けりゃ宇宙の誕生から存在してる訳か。いや、異世界が別宇宙なのであれば、それ以上に渡る時を存在し続けているのかもしれない。
そんな壮大な話に思考を膨らませていると、ふと、転生者は大通りから人気の少ない脇道へとそれていく。後を付けると次第にすれ違う街人は少なくなり、遂にはようやく転生者一人の状況が生まれるに至った。
瞬間、ルディアは音もなく俺の横から姿を消した。危うく呼び声を漏らしてしまうところであったが、なんとか堪えて口を結ぶと、ルディアの行方をくまなく探す。すると、転生者の前方から近寄る一つの影が見えた。
い、いつのまにあんなところに――
輝く黄金色の長髪、汚れのなき白き肌と衣装。遠目に見ても、その影がルディアであることは容易に判別することができた。
だがしかし、自然を装って接触するのかと思いきや、足を交差し、くびれを見せつけるその歩き方は、まるでファッションモデルのランウェイさながら。
あの馬鹿……
不自然にもほどがあるだろ。
「チャオ! そこの君、可愛い顔してますわね!」
もうどうにでもなれ。
ルディアの誘い文句は、俺の生まれる遥か昔、昭和の時代を匂わせる趣深いもの。正直これで引っ掛かる男なんているのかよ、と問いたいが。思いのほか転生者はあっさりと引っ掛かり、鼻の下を伸ばしていた。
でもまぁ、現実においても、美人に声を掛けられて、それを無視する男はいないか。せいぜい悪徳商法か美人局を疑うくらいだ。時を止められるのであれば、そんなものすら怖くはないのだろう。
ナンパのような声掛けの後は、一見すると二人は親しげに話をしている。その腹の内は煮えくり返っているはずなのだが、いやはや、女性の二面性というものは恐ろしい……
そんな仮初めの談笑に華を咲かせている内に、話題は次第に転生者のパーティーメンバーへと流れていった。
「そっかぁ。お前、パーティーを探してるのか。でも、お前いい体してるから、どこのパーティーにも歓迎されそうだけどなぁ」
舌なめずりをし、唇の渇きを潤す転生者。その目付きは糸を引くようにねっとりとし、へばりつくかのようにルディアの身体を犯している。
こ、これは想像を遥かに超えてキモいぞ……
今にもルディアの心の叫びが聞こえてきそうだ。
それでも一切顔に出さないその逞しい精神は、さすが万物の年長者といったところ。
「だけど私ぃ、レベルの低いパーティーには興味ないんですのぉ。あなた、顔は可愛いけど、特別な力は持ってないのかしら? それがあればぁ……私、どこへでもついていっちゃうんだけどなぁ?」
存外早く核心に迫るルディア。
知略とは一体……
「お、そうなのか? 仕方ないな、お前だけの秘密だぜ? 俺はな、実は時間を止めることができるんだ」
ちょ、ちょろいぞこいつ!
こんなにも簡単に聞きだせるものなのか?
だが、この受け答えには理由があるのだ。
そう答えざる、負えないのだ。
仮にもし、これをNOと答えたとしよう。そうすれば、この女性、ルディアのことだが、すぐにその場を去ってしまう。女性とのイベントをスルーなど、この手の破廉恥物語は許さない!
キャラクター性とストーリー性、それらを加味した罠なのだ。
「え! すごいですわぁ! でも、それって本当なのかしら? 時間が止まれば、動きの確認もできないですわ」
「ふふ、分かったよ。じゃあ、見とけ!」
その台詞は……来るっ!!
プツッ
スーパーモデルを思わせる長身。その半分以上を占める、スラっと伸びた長い脚。出るとこは出、締まるところは引き締まる。
衣装を着ると、着膨れしやすいその胸だが、いざ身体のラインが露になれば。それは、完全無欠のプロポーション。
そんな、ルディアの下着姿が――
公然の場へと晒された。
「い、いやぁ!」
ぶはッ
危うく、噴き出る血潮が向こう側まで飛んでしまうところだった。
「どうだ、見たか? 俺の能力! 時間停止中にお前の服を脱がせてやったよ」
「え、えぇ、”見させて”頂きましたわ。それにしても……こんなの恥ずかしいですわぁ……
でも……ちょっとだけ気持ちいい、かも……
こういうプレイ、あなたはよくやるのですか?」
ルディアはいじらしそうに身体を隠すと、顔を赤らめ、上目遣いで囁いた。
鬼畜な性根さえ知らなければ、殺人的な破壊力といえるだろう。もちろん転生者は本性を知らない、偽りの誘惑が直に響く。
だから、転生者は口にした。決して言ってはならないことを――
「お、いいねぇ! もしかして、こういうシチュエーションが好きなのか? 実は俺、出会った女は大体服を脱がしてやってんだ……」
「丁寧なご申告有難う。しっかり”聞かせて”頂きましたわ!」
「え?」
「キラァアアアアアア!!!!!!」
「任せろぉおおおおお!!!!!!」
唖然とする転生者の背に向けて、想いの全てを放出する。
破廉恥を超えた、性犯罪という主人公には断じてあるまじき行いの数々。その行為は強大なる主人公パワーを俺に与え、転生者の力を軽々と上回り吹き飛ばした。
「ぎょえぇええええ!!!!」
のたうち回る転生者。その醜い動きは、プツリプツリと途切れている。おそらく時を止めて回避しようとしているのだろう。だが、時すでに遅し。
「馬鹿者めぇええ!! その力は例えいかなる能力でも、絶対に逃れる術はないのですわぁああ!! 時が止まろうが、現実改変しようが、主人公補正を持とうが! 一度当たれば問答無用で始末する。神に等しき概念なのですわぁあああ!!!」
溜まりに溜まった、全ての怒りを吐き出すルディア。それは言葉だけに留まらず、転がる転生者に追い打ちをかけるかのように鋭い蹴りをいれていた。
やがて転生者の身体が浄化を終えると、気分爽快、晴れ晴れとした面持ちでこちらに振り向く。
「ヤリマシタワァアアアアアア!!!!!!」
決まり文句を叫ぶと、駆け足でこちらに向かってくるルディア。
そのままの勢いで飛び跳ねると、両手を開き、被さるように、俺の身体へと飛び付いた。
だが、あることに気付いて欲しい。
今のルディアは、その、えっと……
「私の演技力の高さをご覧になって? 主演女優賞もなんのそのですわ!」
「あ、あの、それよりも……服……」
押し当てられる、限界まで膨れ上がった水風船。下着越しだと、より一層その柔らかさと温もりが伝わって――
バチィイイイイン
意識が吹き飛ぶほどの、強烈な衝撃が頬を叩いた。
いや、今のは俺、悪くねぇだろ……
朦朧とする中、静かにツッコミを入れると。
そのまま意識は途切れ、ブラックアウトしたのであった。




