第11話 続 異能力転生者を始末ですわ!
決勝を終えた武道会。表彰・賞金授与など、形式的な式典が執り行われていく。転生者もその後は、試合で見せたような力を使う様子もなく、結局何も解明できないままに大会は終焉を迎えた。
その間ルディアは終始無言だった。こちらから話そうにも、腕を組み、眉根を寄せて黙り込むその気難しい態度は、なんだかとてもとっつきにくい。
閉幕と共に、転生者も合わせて闘技場から去っていく。このまま見失う訳にもいかないので、さすがに一言申し出ることにした。
「ほ、ほら、俺達も、行こうぜ……」
「異能力転生者――」
「え……?」
「異能力転生者、と言ったのですわ。なるほどこれは強敵ですわね」
無言を貫くルディアが発した一言。
『異能力』
昨今では割と描かれることの多い能力設定だ。かくいう俺も、その手の物語は好みである。単純なフィジカルだけの勝負ではない、使い方や相性が要となる、頭脳的な戦闘が楽しめる。
だが、ひとえに異能力といっても様々あり、物語によって設定は大きく異なる。
ルディアは此度の転生者を”異能力”として区分けしたが、異なる能力という点では他の転生者にも言えることではないのだろうか。
「異能力ってどういうことだよ? 強すぎる力や魔法と同じものじゃないのか?」
「力や魔力は、例え転生者と、その他異世界人との間に大きな剥離があったとしても、どちらも扱えるという点では同じでしょう? その強弱が違うだけ。
ですが異能力はそうじゃない。その者のみが扱える、特殊な固有能力のことですわ」
なるほど、そういうカテゴリ分けをしてるんだな。つまり魔法やスキルは、いかに強大で多様な種類を持っていても、その世界の常識として存在しうるなら、異能力にはなりえないってことか。
転生者が会場から見えなくなったところで、ようやくその足を動かし始めるルディア。足早に追うその後に続き、能力の考察を進めていく。
「その言い方だと、転生者なら誰でも持つことができるって訳じゃなさそうだな」
「基本はそうですわね。生前から特殊な才能を持つ者しか、付与することはできないのですわ」
「それって、マヒロみたいな……」
「正にそれですわ。通常の転生者には、魂の許容にあった分の能力しか持たせることができません。転生させた神にも依りますが、せいぜい肉体強化と、転生先の世界にありうる設定能力の限界値といったところですわね。それでも無双するには十分過ぎる力ですけど。
しかしそれに加えて、元来特殊な力を持っている者は、その力をプラスアルファで持ち込むことができるのですわ。それも、現実とは比べ物にならない、強力な能力に進化して……」
異世界を無双できる力を、せいぜい、とまで言わしめる程の強大な力。そんな力がどのようなものかなど、最早俺の頭では想像も付かない。
しかし、転生者かつ異能力を持つ者を、俺は一人知っている。その者は生前から特殊な力など持っていないはずなのだが。
「あのさ、それって俺も? 俺の力も他にはない、特殊な能力な気がするんだけど」
「はじめに、基本は、と言ったでしょう。残念ながら、あなたは通常枠ですわ。ごく一般的な魂に、転生者キラーの力を載せただけ。
最強の力に加えて異能力も持ち込める彼らに対して、キラは一つの能力だけで魂の許容量はMAX! よってキラは、一ミリたりとも肉体強化されていないのですわ」
少しだけ、自分が特別な人間であることを期待してしまったが、やはり俺は何の変哲もない凡人であったことを再認識させられる。
「まあ、あまり悲観することじゃなくってよ。確かにあなたは街の喧嘩自慢にすら勝つことはできない。だけど、転生者にだけは打ち勝てる。最強と謳われる転生者の、唯一無二の天敵なのですわ」
「そう言われると、少しは救われるよ。でもま、全ては女神に貰った力だし、俺自身何もできないのは変わりないんだけどね」
「――そうですわね。自らを蔑んでいる内は、何も変わらないでしょうね」
人が落ち込んでいるのに、冷たく突き放すような言い種。
だけどこれは、自分に自信を持てという、ルディアなりのエールなのかもしれない。
「ともかく、通常は特殊な能力というのはなかなか持たせられないのですわ。キラのようなニッチでマイナーな能力ですら、一つ備えれば器のキャパシティはMAXですもの。他のパラメーターは何もいじることはできません。
でも、おそらく奴は特異な魂。なぜなら、その能力がとてもメジャーで、強力なものだから」
なるほど、そういうことか……って!
「お、お前! 転生者の能力を分かってるのかよ!」
「そんなこと、はじめから分かってましたわ。
分かってるからこそ深刻に考えているのです」
「けどさっきは、何も見えなかったって……」
「見えないこと、それがヒントですわ。見えない程の速さ、ではなく、見えない内に行動する。キラもどこかしらで聞いたことのある事象じゃなくって?」
その質問に対して、一瞬の間が空く。思考だけが駆け巡り、他は全て止まったような、時の固まる俺だけの世界。
でも、それはあくまで比喩であり、実際は変わらずに時の流れは経過している。掛かった時間以上の物事をした場合に得られる、あくまで疑似的な体験だ。
だがもし、本当に時が止まっていたのなら。どんなにゆっくり考えようが、どんなにのんびり行動しようが、費やした時間の全てはゼロだ。それは目にも留まらぬ動作、ではなく、そもそも視界に映ってすらいない――
「……も、もしかして、奴の能力は時間停止、なのか?」
静止したかのような時の世界。その中で、ルディアの口元だけが動きだし、にやりと妖しげな笑みを浮かべた。
「よぉおやく気付きましたわね。でもまあ、仕方ありませんわ。私もあなたの漫画を見なければ、もう少し気付くのが遅かったかもしれないですから」
「え、それって――」
「それについてはここで言及しても、無駄、ってことですわね!」
転生者は、特に不審な行動をすることもなく、街中をプラプラと歩いている。その歩調に合わせて追跡していると、一軒の建物の前で足を止める転生者。武具屋のケースでもそうだったが、やはり書かれている文字は解読できない。
しかし、老若男女、あらゆる者が訪れるその建物は、装備のように冒険者に絞った店ではなく、幅広い層をターゲットとした店であるようだ。
「文字は読めないけど、なんで俺も転生者も、行き先の世界の言語は理解できるんだろうな。これも結構都合いいよな」
「それって、理不尽というより、野暮ですわ。そこまで辻褄を合わせたいのなら、ファンタジーやSFは見るなって感じ。違う時間軸や惑星間を題材にする物語が、全てその理屈を合わせる説明から始まっては興醒めでしょう」
はは……確かにだけど。
メタな割にはいい加減だな。
足を止めた転生者は、扉を開くとすぐには入らず、一通り中の様子を伺っている。何を迷っているのかは疑問だが、中にお気に召すものがあったのだろうか。暫くすると、決意したように中へと入っていった。
それを追って、俺とルディアも建物の中へと侵入する。扉を開くと、視界よりもまず先に、胃袋を刺激する芳ばしい香りが漂ってきた。
「いらっしゃいま……あれ?」
一人の女性が、にこやかな営業スマイルをこちらに向ける。だが、挨拶を言いかけたところで、それは疑問の表情へと移り変わる。
だが、それも当然。彼女からは俺達二人の姿は見えない。勝手に扉が開いて、閉まったようにしか見えないはずだ。
口先を窄め、首を傾げるその女性。だが、扉を開いたところで引き返したのか、はたまた子供の悪戯なのか、特に深く気に留めることもなく自身の業務へと戻っていった。
改めて室内を見渡す。匂いの時点で予測はついたが、そこはやはり飲食店だった。先程の女性は給仕係といったところ。転生者が迷っていたのも恐らく、自身の舌に合う店かどうかを判断していたのだろう。
店内の一角でメニューを選ぶ転生者。様子を見るべく、俺とルディアも近くの空いている席へと腰を下ろす。
「時を止めるのは確かにすごいけどさ、もう相手の能力は大体分かってるんだ。それなら対策のしようもあるだろ」
強力な能力には違いない。だけど、直接殴り合いの戦闘をする訳でもない。今までの転生者だってなんとかなったし、観察する内に、いずれ決定的なボロを出すだろう。
と、その時の俺は楽観視していた。
「もちろん、知らないよりかは知ってる方がよいですわね。ただ、今回の能力は厄介なのですわ。キラの能力との相性が悪い」
「相性だって? 戦いもしないのに、相性なんて関係あるのか?」
「キラ、これは戦いなのですわ。必ずしも拳を交えることだけが戦いではないのです。頭脳戦、心理戦、果ては自分自身との戦いまで。それらにも得意不得意はあるでしょう? ならば、必ず相性は存在する」
「…………」
「続けますわよ。あなたの転生者キラーの能力、これは相手の主人公らしくないことを発見して力を吸収するもの。だけど、止まった時間に何をしても、それは憶測の域を越えることができない。らしくない部分を、見ることすら敵わないのですわ」
どんなに怪しくても、どんなに疑わしくても、証拠がなければ裁けぬように。この転生者キラーの能力も、俺自身に確たる証明が得られなければ、その力を行使することはできない。見ることが前提の能力であれば、確かにそれは最悪の相性と言えるだろう。
「つまりこいつは、止まった時間以外での、らしくないことを探すしかないってことか?」
「残念ながら、それが賢明ですわね。ただし、メジャーかつ強力である以上、奴の主人公パワーも相当なものでしてよ? 地道に集めるのには、相応の時間が掛かることは覚悟するのですわね」
それって一体どれくらい?
と、思いもしたが、その答えは――
俺の実力に懸かってる。
が正解だ。
気を引き締め直し、改めて転生者の観察を再開するのであった。




