94.解決?と思ったら
エール目当てのお客さんをだいたい捌き終わって他の列も順調に動き出した頃、俺は再び列の面倒をポールに、エール運びをキースに任せて『キッチンおやすみ処』に戻って来た。
「ふう・・」
途中の廊下も、階段も並ぶお客さんの列が続いていたが、少しずつでも動いているため特に苦情も言われることはなかったので、俺は安堵のため息をつく。
「あっ。マモルさん、お疲れ様です!」
ちょうど目の前を通りかかった、ニーナちゃんがペコリと頭を下げて声をかけてきた。
合わせて長い耳が、ペコリと曲がる。
「お疲れ!ニーナさん。どう?だいぶ慣れたかな?」
「はい!すごいお客さまで大変ですけど、とっても楽しいです!」
「そうか、それは良かった。その制服も似合っているよ」
「あ、ありがとうございます!最初はちょっと恥ずかしかったんですけど、お客さまにもカワイイって褒めてもらいました!」
ニーナちゃんはそう言って、ニコリと微笑んだ。
「ニーナちゃん、これ3番テーブルへ持ってって!」
「は、はーい!」
厨房からミーナさんが、手招きをしている。
ニーナちゃんは、もう一度俺に向かってペコリと頭を下げると厨房へ駆けていった。
そんな彼女を見送って、俺は客席の方を見回した。
窓際の席では、サリーさんが酔っ払って声をかけてくるお客さんを余裕であしらっている。
「さすがだな・・・」
俺は感心して頷いた。
「マモルさん!」
そのままリンの姿を探していると、背後から声をかけられた。
「イワンさん!」
振り向くとそこには、初老の実直そうな男性を連れたイワンさんが笑顔で立っていた。
「いらしてくれたんですね!」
「当たり前じゃないですか、そのために滞在日程を延ばしたんですから」
「ありがとうございます」
俺はお礼を言いながら、イワンさんと一緒にいる男性の方をチラリと見た。
「ああ。マモルさんは初めてでしたね」
「主人が大変お世話になっております。家宰のサモンと申します」
そう言ってサモンさんが、折り目正しく一礼する。
執事じゃなくて、家宰なんだ。
「こちらこそよろしくお願いします。マモルです」
「それよりマモルさん。素晴らしいお店ですね!領都でもこの様な食堂はなかなか無いですよ!!」
まあ、食堂というかイタリアンに寄っているから、どちらかと言うとレストランに近いかな?
それとも、軽食ばかりだから、カフェレストラン?
「そうなんですか?都会にはあまり行ったことがないので、よく分からないですが・・・」
俺は戸惑いながら、そう答える。
「ええ!冷えた飲物という発想がそもそも今まで有りませんでしたし、それにあのピザとパスタですか?あんなに美味しい食べ物は食べたことがありませんでした!」
いや、大商会の会頭さんなんだから、それはないでしょう?
「そ、そうですか?そんなに凄いものでもないと思いますけど」
「イエイエ。けして大袈裟に言っているわけではありませんよ?料理としてだけでもあれだけ美味しいのに、キンキンに冷えたエールとの組み合わせは、まるで神が与えたもし食べ物の様ではないですか!!」
いやいや、大袈裟ですって!
「ご主人様」
サモンさんが、小さく咳払いをしてイワンさんに声をかける。
「・・はっ!も、申し訳ない!つい興奮してしまって」
我に返ったイワンさんが、苦笑しながら頭に手を持っていった。
「いえ、だいじょうぶです。そんなに気に入っていただけて、かえって恐縮です」
「ありがとうございます!・・ところで折り入ってお願いがあるのですが、少しお時間よろしいでしょうか?」
突然イワンさんの雰囲気が変わって、顔を寄せて小声で言ってきた。
商人の顔だ・・。
「ええ。大丈夫ですけど、ここじゃなんですので事務室にどうぞ」
俺はじゃっかん警戒しつつも、イワンさん達を奥の部屋へと案内したのだった。




