47.エールが無い!
「こんちわー」
「いらっしゃい」
いつもの酒場『ピテュス』の扉を開ける。
マスターのジョニーさんがこちらを一瞥して、すぐに拭いている皿に視線を戻す。
俺は真っ直ぐカウンターに向かい、マスターの目の前に座る。
この時間(午後2時過ぎ)の酒場は、いつも隅の方の席で呑んでいるおっさん以外は、客はいない。
「何樽だい?」
俺が何も言う前に聞いてくる。
「どうして分かったんですか?」
「ずいぶん盛況だったと聞いている」
昨日の今日で、もう知っているのか・・。
「そうなんですよ、念のため20L樽を2つも用意したじゃないですか?それが・・」
「2時間しか持たなかった」
「な、なんでそれを!?」
「俺が行った時には、もう無かった」
「え?ジョニーさん来たんですか?!」
俺が個人宅を回っている時だろうか?
「代わりに果実水を飲んだが、フロ上がりにあの冷たさは良いな」
「でしょ?!エールだと、なおのこと最高ですよ!」
それまで表情が変わらなかったのが、わずかに右眉がピクリと上がった。
「で、何樽だ?」
「あ、ええと・・ですね。4樽ほどお願いします」
「分かった。なくなる前に行こう」
今日も来てくれるんだ。
「お待ちしています」
『ピテュス』から事務所へ戻った俺は、昨日の売り上げを確認していた。
「銭湯が200人で60000セム、治療室が5人で15000セム、エールと果実水で95000セム、しめて17万セムか」
飲み物の売り上げがすごいな。
実は昨日、エールが途中で売り切れになってしまった騒動も大変だったのだが、俺のうっかりで別な問題も発覚してしまっていた。
ちなみに、エールが2時間しか持たなかった原因は、もちろん冷えたエールというものがみんな初めてだったというのもあるのだが、何より一番乗りしたドンクさんたちが、最初に爆飲みしたのも大きな理由だった。
それで発覚した問題というのが、飲み物類の代金受け取りについてだった。
エールを注ぐのはセルフでも良いのだが、俺が個人宅まわりなどで銭湯を離れたときにその役目をする人がいないことに気がついたのだ。
初めから気が付けよって話だが、その時は正直どうしようかと思った。
だが、幸いその時にリンたちが居合わせていて、代金の受け取りはポールが、注文を受けてエールとかを注いだり配ったりするのを他の3人がしてくれることになった。
リンはそういうのは苦手かなと思っていたのだが、最近は自分に自信が出てきたのか意外と積極的になり、問題なくこなしていた。
というか、明らかに注文を受ける数が他の2人より多かった。
それにしても・・・。
「4樽で間に合うかなあ・・・」




