旅立ち
お父さんの仕事やお世話になる人の目処がついた2週間後、私は旅立つことになった。
「いってきます」
「ああ、いつでも帰っておいで。ここはお前の家なんだから」
お父さんと抱きしめ合うと生まれ故郷に別れを告げる。
「行けるかな?」
ディーノが黒竜の上から手を伸ばしてくれる。
「はい、ありがとうございます」
ぐいっと引き上げられると彼の前に座らされて驚いて後ろを見た。
「危ないよ。シャルロッテ」
「えっと、この格好は、ちょっと」
「ドラゴンの背は不安定だから危ないよ。後ろで抱きついてもらえるのも良いんだけど、これが一番安定するからね」
(そうだよ、お姉さん。空の上から落ちたら多分助からないよ)
セインは私の前で鞍に専用の掴まるところがあるのか、そちらに飛びついていた。
(お前たち、あまり脅すな。この私が落とす訳ないだろう)
渋くて良い声が響く、ディーノの相棒ジークフリートだ。
「まあ、それじゃあ出発しようか」
私の体を柔らかく後ろから抱えるとジークに目線でサインを送った。
ふわっと浮き上がる。
下を見つめているとみるみるうちに村が小さくなっていく。
ほろっと涙がこぼれた。悲しい訳でもない、嬉し涙ともいえない涙が。
すっと指を這わせて涙を拭き取ったディーノは言う。
「さあ、行こう。僕達の住む王都へ」
ふっと目が覚めた。後ろからの温かさとゆるやかな揺れが気持ち良くて眠っていたみたいだ。
「ん、」
「やあ、目が覚めた?」
驚くほどの近さに整ったディーノの顔があって思わずのけぞってしまう。
「危ないな。ここは空の上だよ。忘れてた?」
ぎゅっと抱きしめられてしまう。それに気がついたら彼の黒いマントの中だ。なんだか温かいと思ったらこれのおかげだったみたい。
「びっくりしてしまって。…寝てしまってごめんなさい」
「いや…謝ることはない。君の可愛い寝顔を堪能出来たからね」
顔がカァっと熱くなった。ずっと見られていたのか。
「あのっ、もうそろそろ着きますか?」
「ああ、そろそろ見えて来るよ、見て、あれがサンディガルの王都だ」
「…あれが…」
私は思わず声をあげてしまう。高い城壁に囲まれた円形の大きな街が見えてきた。
後ろからクスリ、と笑い声がする。
「君がこれから暮らす街だよ」