村の危機
それはいきなりやってきた。
「キャー!」
「…どうしたんだ、何があったんだっ!」
夜半過ぎうとうとしていたら急に叫び声が上がる。
一緒に寝ているちびドラゴンのセインも目を擦りながら起き出したみたいだ。
(ん…なに?…変な気配がする…!)
「え?セイン、どういうこと?」
(お姉さん、とりあえず僕が張れる範囲で結界を張る!ディーノに…ディーノに知らせなきゃっ)
慌てふためいてベッドからずり落ちると集中するように目を閉じる。
すぐにピキっと何か張り詰めるような音がする。
(お姉さん、危険だけどディーノにすぐにでも知らせなきゃ。僕のことを知らせた緊急便があるんだよね…?)
「ええ」
私は驚きながらも頷いた。村長の家に魔術で決められた宛先、例えば王都のディーノさんの元へ一瞬で届けることが出来る便箋があるはずだ。
(急がなきゃ。このままだと誰か死んじゃうかもしれない)
ちびドラゴンはあわあわと家の中で走り回っている。
「落ち着いて、セイン。魔物が現れたとしてもこの村には守護結界が張ってあるはずだし…少ないかもしれないけど、冒険者ギルドに所属している戦士が何人か滞在しているはずだわ」
私は寝巻からストンとしたワンピースに着替える。
(お姉さん、そんな落ち着いてる場合じゃないよ!守護結界なんかあいつの爪に切り裂かれて終わりだよ。#地獄の番犬__ケルベロス__#だ。なんでこんなところに居るんだろう!)
私は慌てて起きてきたお父さんを宥めてから村長の家にちびドラゴンと走った。とは言っても小さな村だからすぐに辿り着くんだけど。
「あのっ、すみません。村長さんは…」
ノックで飛び出して来た村長の奥さんに勢い込んで尋ねる。
「あの人だったら村の外だよ!なんでも強力なモンスターが現れたみたいだね。シャルロッテちゃんも危ないから家の中にいな!」
「あのっ、魔法の便箋を1枚頂けるでしょうか?」
「ああ、勇者様に救援を求めてくれるのかい。願ってもないことだよ。ちょっと待っててね」
「ありがとうございます」
私は頭を下げて奥さんが便箋を持ってくるのを待った。
「えっと…なんて書けば良い?」
私は便箋を前にすこし戸惑っていた。そういえば誰かに手紙なんて書いたことがない。
(助けて、だけで良いと思うよ。お姉さんからだとわかったらそれこそ飛んでくるんじゃないかな)
「でも、そんな…」
(もうそんな迷ってる場合じゃないってば、早く早く、お姉さん!)
「う、うん」
ディーノさま
いますぐ助けてください。
シャルロッテ
魔法の便箋はパッと光を放って溶けていく。
(ディーノのことだから、猛スピードで最短で来るよ。お姉さん)
「そ、そうなんだ。すごいね。魔法の便箋。初めてみたわ」
(これからディーノと一緒に暮らすんだからこんなのに驚いていちゃダメだよ。お姉さん)
ふうっと赤いちびドラゴンセインはため息をついた。