聖女の嫉妬
「あなたがディーノと王都で一緒に住む、ですって?」
ルクレツィアさんは腕を組んで大層ご立腹な様子だ。私はまだ帰っていなかったんだな、なんて呑気に考えてしまった。
「ええと、このセイン君との加護の相性が良いらしくって、私のところに来ちゃうんです。だから、巣立ちまでは親御さんのところで過ごさせてあげたくて…」
「御託は良いわ。ただの村娘風情が思い上がらないで」
つん、と顔を上げて見下すように言った。
「あの…父を助けて頂いたことは本当に感謝しています…」
「いくら?」
「はい?」
「いくらで手を引いてくれるの?ディーノから」
「えっと、手を引く…とは?」
「まだそんな風に誤魔化して。どうせあなたもディーノに懸想しているのでしょう?身の程知らずね」
「…そんなことありません」
「嘘よ」
「嘘ではありません!」
「いくらよ、お金だったらいくらでも出すわ。ディーノを諦めなさい」
「諦めるも何も…」
「正直に言いなさい、どうなの」
「特に好きでも嫌いでもありません」
「…その言葉、忘れないようにね」
「はい」
また足音もなく去っていく。聖女の靴は特別製なのだろうか…?
(お姉さん、気にしなくて良いとおもうよ)
「セイン君」
(あの人、ディーノが好きなんだけど相手にされてなくて、いつも周囲の女のひとにああやって言って回ってるんだ。いつものことだよ)
「…そうなんだ、ディーノさんも大変だね」
ちび竜は大人っぽく肩をすくめる仕草をした。
(ディーノが女のひとに好かれるのはいつものことなんだ。お姉さんみたいにすげなくされるのはじめてなんじゃないかな)
「…それって私が何してもどっちにしても興味持たれる流れじゃない…?」
(そうなるかも!お姉さんには災難…?になるのかな?)
私が黙って頷くと、セインはうーんと考え顔をした。
(ディーノは綺麗なお姉さんがすきみたいだけど、お姉さんみたいに結婚をほのめかしたりするのははじめてだよ)
「へー」
としか、言いようがないんだけど。
(お姉さん、とことんディーノに興味ないんだね)
「興味ないというか、沸かない?かな、別世界の人だもの」
(ディーノだって人間だよ)
「勇者さまだわ」
(ディーノだって泣いたり笑ったりするよ。お姉さん、その称号だけで見て終わらせないで。ちゃんと人柄を見てあげて欲しい。良いやつなんだ)
私はお子ちゃまだと思っていたちび竜の大人びた意見にすこし笑ってしまう。
「本当ね。それはあなたの言う通りだわ」
(お姉さんは本当に可愛いから、それは僕もディーノと同感だな)
「それはありがとう。セイン。嬉しいわ」