その前に
(お姉さん…どうだった?)
庭で私達の帰りを今か今かと待っていたちびドラゴンは黒竜から降りたばかりの私の腕に飛びついた。
「凄かったわ、水平線を見せてもらったの」
(変なこと言われたり、されたりしなかった?大丈夫だった?)
「ふふっ、大丈夫よ。セインありがとう」
(隠さなくて良いんだよ、何かあったら僕がとっちめてやるからね)
「僕はどこまで信用がないんだ」
(日頃の行いだよ、ディーノ。事実そうなんだから仕方ないだろう?)
「やあ、おかえり」
「アレク?何しているんだお前」
「帰りを待っていた。シャルロッテ、こんばんは」
「アレクさんこんばんは、昼間はすみませんでした」
頭を下げる私にアレクは頭を振ると、私に近づいて手を取った。
「…何をする」
反対の手もディーノに取られて引っ張られた。アレクは困ったように笑うと手を離してくれる。
「えっと、ディーノさんも」
離して欲しい、と目で訴えるけど、逆に傍にまで引っ張られた。
「…何の用だ、アレク。事によっては相応の手段を取る」
「おいおい、そんなに警戒するなよ。彼女は#君のものでもないだろう__・__#」
「それは、お前に関係ないだろう」
珍しくイラッとした口調でディーノは言った。
「関係あるさ」
「なぜだ」
「聖竜の血が流れているなら、僕ら神殿の人間にも関わる権利がある。聖女候補だからな」
「…誰に聞いた」
「エイブラハムだよ。お金さえあればおしゃべりな魔法使いだ」
「あいつ」
ギリっと歯の音がした。
「君も口止め料を払わないといけなかったんじゃないか?聖竜の加護を持つ娘なんて、きっともう彼女1人だけだ」
(アレク、何言ってるんだ、お姉さんは僕らとずっと一緒に居るんだ)
「セイン、お前も少し親離れしないといけないかもしれないな。彼女は次代の聖女候補だ。次代が決まるまでは神殿の管理下に置かせてもらう」
「ダメだ」
「…別れの前の逢瀬は許しただろう?それで我慢しろ、ディーノ。いくらお前が勇者でも許される我儘とそうでないことくらいわかれ」
「ディーノさん…」
みるみる顔色をなくしていく人をはらはらしながら見上げる。
(せっかくサンディガルにつけられた鎖が切れたと思ったら次は神殿かよ!お姉さんは渡さないぞ。僕はディーノが諦めても絶対諦めないからな!)
セインは私の前に出てアレクを睨みつけた。