空のデート
「ディーノさんはどうして勇者になったんですか?」
さわさわと手や腕を触っていた手はすこし大胆になって手や指を握ったり離したりを繰り返していた。
「ん…そうだな。憧れていたからかな。もうあまり覚えていないけどね。先代から聖剣を受け取って継承は完了だから、簡単だったよ」
こともなげに世界に一人しか継承出来ない称号を持つ人は言った。
「…ディーノさんの逸話ってそんなに昔からじゃないですよね?それってどうしてですか?」
「うーん、騒がれると面倒だったのと…称号を隠して冒険や魔物退治に夢中になっていたからかな。流石にこの前の魔王と対峙した時は身分を明かさなきゃならなくて、今に至るという訳だ…シャルロッテ」
「あ、はい?」
「こんな話楽しい?」
「はい」
即答した私にすこし驚いたような顔をするとふっと笑った。
「…冒険譚とかが好きなタイプかな?」
「はい!村では本を読むことしか楽しみがなくて…後、吟遊詩人が聴かせてくれるディーノさんの伝説はすごく楽しみでした」
「そっか、可愛いな」
不意打ちの甘い言葉に私は頬を熱くする。
「ディーノさんはずるいです」
「え?何が?」
「すごく経験豊富な気がします…」
「…何もないと言ったら嘘になるけど、君が気にするほどの経験はないよ」
「…そうですか」
私は後ろに向けていた顔を直して前を向いた。ディーノの触る右手がギュッと私の手を握る。
「何か気に触ることを言ったかな?…そうだな。じゃあ、昔のことを打ち明け合わない?」
「え?」
「僕がひとつ告白するから、君も何か言って。…昔のことが気になるんだろう?何も隠さないから」
「…わかりました」
「そうだな、僕が女性と付き合ったことがあるのはすごく若い時、幼馴染みの子1人だ。少ないだろう?…もう彼女もこの世に居なくなってしまって長い。別れた理由は簡単だ。僕は冒険者になりたくてね、成人すると同時に村から飛び出した。別れを告げてそれ以来会っていない。きっと僕のことなんて忘れて良いお母さんになっていたと思うよ」
私はチラっと後ろを振り返った。優しい目で私を見ている。
「本当に?」
「ああ、君に嘘ついても良いことはなさそうだから」
「だって、ディーノさんモテそうなのに…」
「…正直言うと女性にあまり興味が持てないんだ。それより冒険や魔物退治なんかが魅力的だった。…君には違うけどね」
「また、そういうこと」
「事実だ」
「ええっと、私も幼馴染みの彼氏が居たことがあります。でも、お父さんの病気にお金がかかるって分かって、すぐにお金持ちの女性のところに行ってしまいました。…私の昔の話はこれだけです」
「その男は大馬鹿だな、でも僕にとってはありがたいけど。シャルロッテを手放してくれて良かった」
私は知らず目から涙が出ていた。ポツリとディーノの手に落ちて、後ろからギュッと抱きしめられる。
「…ディーノさん」
「良いから。僕が思い出させたな。ごめん。シャルロッテ」
彼は耳もとで優しく囁いた。




