私の気持ち
「…アレクが来たのか」
黒竜から降りたディーノは辺りを見回すようにすると、わたしに向き直った。
「ディーノさん、その…」
(お姉さんはあの蝋燭野郎に誘われたけど、お前に聞かなきゃ行けないって断ってたよ)
「ダメだ」
ディーノはにっこり笑いながら怒ってる。ほんと、器用な顔だなぁ。
「でも、ディーノさん、1日デートするくらいなら私…」
「ダメだ。僕ともデートしたことないのに、なんで先にあいつなんだ。絶対ダメ」
(お姉さん、仮面舞踏会にもあいつと一緒に行ってるしデートは2度目なんじゃない?)
セインは尻尾を揺らしながら言った。
「…そうだな…」
ディーノは歩みを止めて私を振り返った。
「ディーノさん?」
「今日は僕とデートしよう?シャルロッテ。どうせ今日は家に居る予定だったし、サンディガルの時とは違って立て込んだ仕事もない」
呆気にとられた私とセインは顔を見合わせた。
(そうだね…お姉さん、せっかくだし行ってきたら?ラナトーンはサンディガルとまた違った景色も観られるし楽しいと思うよ。僕は…どうしようかな…)
「遠慮しろ、セイン」
(わかったよ、ディーノ。でもお姉さんに不埒な真似をしたらゆるさないからな。父さんちゃんと報告してよ)
(分かっている)
久しぶりに聞く渋くて良い声だ。ジークはおしゃべりの息子、セインと違ってあんまり喋らないみたいだ。
「ちょっと格好は堅苦しいけど、このまま行くか。…おいで、シャルロッテ」
私は差し伸ばされたその手を取って、数瞬後空へ舞い上がった。
「景色の良いところに行こう。シャルロッテ。とっておきの場所があるんだ」
楽しそうなディーノの声が後ろから聞こえる。
「えっと、ディーノさん」
「何?シャルロッテ」
「引越しって本当にすぐに出来たんですね」
そうなのだ。私の部屋にあったそのままの物が今使っている可愛い部屋に全部置かれている。
ディーノはああ、と言うと私の右手に大きな右手を重ねた。
「僕の家は少し特殊仕様でね、各所ドアを開けたらそのままの部屋が再現出来る様にしてあるんだ。君の部屋はすこしこちらのインテリアに合わせてあるけどね」
「そんなことも出来るんですね」
感心して言った。魔法って本当に万能なんだな。
「エイブラハムだ。あいつに出来ないことは敢えて探さないといけないくらいだな」
「うーんと、私の加護をなくしたりは出来ないって言ってましたね」
話しながら大きな右手が時折手や腕をさわっと触ってくるものだから、あんまり話に集中出来ない。
「…君は加護をなくしたいと思う?」
私は首を回した。背後のディーノの若草色の目は射抜くように私を見た。
私はその目を見ながら首を振った。
「いいえ。そうは思いません」
「…君を縛るものかもしれないのに?」
「セインと一緒に居られるし、…それに夢だったんです。村から出るの。予想外の展開だったけど、夢が叶って嬉しいです」
「そうか」
どちらからともなく一緒にふうっと息をついた。ふふっと笑い合う。
「私、ここにこうして居ること、嬉しいです。村ではずっと父の死期に怯えて生活していました。ここではセインや皆と楽しく生活できて、すごく楽しいです。ディーノさんには感謝しています」
「シャルロッテ…」