先行して
「で」
先に引越し先に来ていたアレクが私達が到着するなり言った。
「なんだ、アレク、早かったな」
ディーノは先に降りて私に手を伸ばす。私はそっと手を伸ばして抱き上げて貰いとん、と降ろしてもらった。私の体重なんか感じさせない軽々とした動きだ。
「お前最後に全部ぶん投げといて良く言うな。結局なんだったんだ。なんで、バルトロが関わってくることになる」
「ルクレツィアだ。あいつにシャルロッテはどうにかするように命令していたらしい」
「ふん、色男は大変だな」
「お前ほどじゃないさ」
(アレク、僕の竜玉持って帰ってくれた?)
セインが鞍から降りるとあわあわと言った。
「もちろんだ。良かったな、セイン」
ポンと掌大の大きく赤い水晶玉のような物をディーノに渡した。
「…依頼料はどうしたら良い?」
「いつもの商会に振り込んでくれ。…割増で頼むよ」
「わかった」
アレクはそのまま私の手を取って甲にキスをすると笑って言った。
「…条件、忘れないでね。シャルロッテ。また会おう」
「…お前、何を言ってる?」
いきなりぐんと増した殺気に私も背後から寒気がしてきた。
「じゃあね、そこの朴念仁に早々に先を越されることはないとは思うけど城に帰って色々と片付けてくるよ」
しゃらっと笑うといきなり足元から白い光が放たれてアレクは消えた。
「すごい」
思わず呟いてしまう。
「あいつの移動魔法はいくつかの定位置しか行けないよ。シャルロッテ」
(ディーノ、何張り合ってるんだよ。勇者と騎士なんだから使える魔法違って当たり前だろ)
「僕だってシャルロッテにすごいと言われたい」
(お前、お姉さんを前にすると本当に馬鹿になるなぁ。そこで張り合ってもしょうがないだろ、馬鹿だなぁ)
ぶつぶつと呟くとセインは私を見上げた。
「どうしたの、セイン」
(お姉さん、疲れているよね?来たてだからちょっと準備に時間がかかると思うけど、早く湯に入って休んだ方が良いよ)
「あら、セイン。ありがとう。気が利くのね」
私は鱗の感触が冷たい頭をそっと撫でた。
「ルカリオは居るか」
呼びかけに応えて執事服の少年が現れる。
「はい、ディーノ様」
「僕は良いからシャルロッテの部屋の用意を最優先に」
ディーノのマントを受け取りながらルカリオは答えた。
「もう整っております。シャルロッテ様、どうぞ」
「あ、はい。ありがとうございます」
にこっと笑いかけるとルカリオは照れたように俯いた。
「ルカリオ…」
(あー、もうそういうの良いからルカリオお姉さんを案内して。ディーノ、ほんとお前そういうのどうにかしないと嫌われるぞ)
ちびドラゴンは尻尾ふりふりしながら右腕を出して器用にディーノを指差した。