宣言
「知らずに身の内に引き込んだのか、お前もまだただの若造だな。前代は勘が鋭い奴だったが…」
「黙れ、エイブラハム。…シャルロッテが聖竜の加護を持っていることは僕は知らなかった。ジークが生まれつき竜の加護を持つと言っていたからその言葉をそのまま信じたんだ」
何故か私に言い訳しているように聞こえてしまう。
「えっと、私の母の方に竜の加護を持っている人が生まれることもあったと父に聞きました。それはどういう関係がありますか?」
エイブラハムはにいっと少年のような笑いを浮かべる。
「…最後の聖竜は雄だ。加護を与えるのは代々雌なんだろうな」
ディーノは考え込むようにすると言った。
「…僕が先に見つけて助かったということか」
「そうだな、故意に人間に殺されたと知れば竜族達の怒りは凄まじいだろう。復讐はそこの神官長と聖女が死ぬくらいじゃ終わらないぞ」
チラッと魔法の縄で縛られたバルトロさんを睨む。
「私は…竜族なんでしょうか?」
不安に思っていたことを聞いた。同胞殺しを忌むべきものとしているなら、私は竜族ということになる。
黙って近くに来たエイブラハムさんは私の胸の真ん中辺りをじっと見つめた。
「そうだな…竜族とはいえこの能力であれば変化することも難しいだろう。ただ…汚されたものを清浄化する力は抜きんでているな…今代の聖女より強いんじゃないか?」
「清浄化ですか…?」
「そうだ。君の周りで#死ぬはずの人が死ななかったりしなかったか__・__#」
ドキンとした。お父さんのことを言われたように感じたからだ。
「その…ルクレツィアさんに治療してもらった父が居ます」
「本格的に能力が目覚めていないのに願いだけで命を長らえれることが出来たのなら、かなり強い力だな」
ふむ、と一人納得したように、エイブラハムは顎に手を当てた。
「エイブラハム…どういうことだ?」
ディーノはどこか不安気だ。若草色の目が揺れているように見える。
「お前もこの女の子の傍はさぞ心地よかっただろう?血塗られた道を一人行かねばならないお前には喉から手が出るほど欲しい、清涼剤だな」
「そんな理由でシャルロッテを近くに置いている訳じゃない」
「じゃあ何故だ。お前が欲しいと思う理由を言え」
「可愛いからだ。それ以外ない」
きっぱりと言い放たれた言葉に私はこんな状況なのに顔が熱くなってきた。
「面食いなのを堂々と言い放つな」
はーと少年の姿でエイブラハムはため息をついた。
ディーノはすこし考えるようにすると言った。
「エイブラハム…そこの馬鹿はお前に任せるよ。金は後で支払う」
ふーん、と言うとエイブラハムはまたにいっと笑う。
「人任せとは珍しいな。俺は高いぞ?ディーノ」
「知っている。僕は色んな後始末に忙しいんだ。よく考えたらそいつに構っている暇はない」