操るもの
「とにかく、どうにかしないと…このままだと死んじゃうわね…」
私は人間どうにもならない時は逆に落ち着くんだな…ということを実地で思い知っていた。
(お姉さん、やけに冷静だね?…うーん、ルカリオが屋敷まで急がせているけど…母さんは今卵を孕んでいるから、戦うのはあまり良くないし…どうしよう!)
あわあわとちびドラゴンは馬車の中を歩き回る。馬車の外では大きな唸り声がだんだんと近づいてくる。
「ちょっと待って、セイン」
(何?お姉さん)
「さっき、狙われているって言ってたわよね?ケルベロスは、もしかして誰かに召喚でもされているってこと?」
(そうだよ!ケルベロスがこんな所に自然発生する訳ない。Aランクの魔物なんだから…ん?だったら、#誰かに呼び出されている__・__#ってことか?)
「そうよ、セイン、落ち着いて。だから、その呼び出した誰かと交渉することが出来たら…命は助かるかもしれないわね…」
忙しなくちびドラゴンは狭い車内を歩き回りある結論に辿り着いたようだった。
(前に話したことがあるよね?ディーノはこの国のお姫様を救うためにパーティを組んで冒険したことがあるって)
「ええ、聖女と魔法使いと神官長よね?」
(きっと神官長だ。あいつには魔物を浄化して自分の味方につける魔獣使いの能力がある。ケルベロスは多分使役出来る最高の魔物なんだと思う。…それにあいつは色ボケ聖女の言いなりの部下みたいなものだから…)
「ルクレツィアさんに頼まれて私を殺しに…?そんな…」
セインはダンダンっとその場で地団駄を踏んだ。
(何が聖女だ、神官長だ。私益のための人殺しする連中に神は能力を与えたのか。しんじられない)
「…ここで何か言っていても仕方ないわね」
(お姉さん、…どうする気?)
「向こうは私が消えたら満足なんでしょう?」
(ダメだよ!ディーノがなんて言うか)
「落ち着いてセイン。とりあえず馬車を止めて交渉をしましょう」
(お姉さん…)
「今生き残るために必要なことよ。このまま皆で殺されはしないわ。絶対ね」
揺れる馬車の中、私とちびドラゴンは頷き合った。