待機
私はセインと待ちぼうけになってしまった。黒の勇者と白の騎士が揃って部屋を出て行ってしまったからだ。
(あの2人、本当に人の話聞かないよね。思いついたらすぐ行動しないと気が済まないんだから…お姉さん。どうする?とりあえず屋敷に帰ろうか?)
「ルクレツィアさん…大丈夫かしら…」
セインはぺたんと尻尾を落とした。
(自業自得じゃない。しつこく付き纏ってもディーノが邪魔にしなかったのも、あの能力あらばこそ。逆らうようなことをしたら、そりゃ、そういうことになるよね…)
「ルクレツィアさんはディーノさんのことが好きなだけでしょう?」
(…でも、ディーノはお姉さんのこと好きだよ)
「それは…そうとは限らないじゃない」
彼の口からはっきり言われた訳じゃないと言外に匂わせた。
(お姉さん、あれだけ言わせといて往生際が悪いよ。ディーノだって相当良い年なんだから、そろそろ身を固めたいと思っていると思うし…)
「あの…ディーノさんて何歳なの…?」
ん?とちびドラゴンは振り返った。
(100歳は超えてるんじゃない?父さんみたいな力の強い成竜と契約交わしたら人間は不老不死になるからね。少なくとも、僕が記憶がある限りはあの若い姿のままだよ)
「え?」
理解の範疇を超えることを言われて私の頭の中は固まってしまった。
(冒険だの、魔物退治だので騒いでいた年頃を過ぎてようやく色恋に目覚めたと思ったらこーんな可愛いお姉さんだもんね。ただの面食いだったんだね、ディーノ)
誰に聞かせるでもなくセインは尻尾をふるふると左右に振った。
ルカリオが迎えに来てくれてその馬車にちびドラゴンと一緒に乗った。
私はさっき言われたことが頭の中を回っていて混乱中だ。あれだけの功績がある人だ。見た目通りの年齢じゃないかもしれないとは思っていたけど、あんまりにも、年上じゃない?それにアレクも彼に大昔から、ということを言っていたということは、彼もまた見た目通りではないということかしら?
(…さんっ、お姉さんっ)
気がつくとセインが私の腕を引っ張っていた。
「え?セイン、どうしたの?」
(大変だよ!また#地獄の番犬__ケルベロス__#が出て、馬車を追いかけてきているみたいだ!こんな王都の近くにまで出てくるなんて尋常じゃないよ!今日はディーノもアレクも助けに来れないかもしれない!)
「…どういうこと?」
(多分村にいる時も、狙われていたんだ!だからこういう機会にも狙われたんだよ、どうしよう!)
私は背中に冷たいものが走るのを感じた。
絶体絶命ってこういうことを言うのかな?なんてどこか冷静に思いながら。