交渉の末
とりあえず、ということで勇者ディーノとその騎竜ジークフリートはこの村の宿に滞在することとなった。ちびドラゴンセインは彼等を待っていた時と同じように我が家に滞在している。
「父さん、もう少ししたら病気が治るわ」
私はもう声が出せないくらいに衰弱してしまっている父の手をそっと握った。2年前から原因不明の病気にかかり、高い治療費を払っても未だに治療法は見つかっていなかった。母親は私の幼い頃に亡くなっているから、今となってはもうただ1人の肉親なのだ。
(お姉さん、僕のせいでこんなことになって…その、ごめんなさい)
すぐそばにいるちびドラゴンが頭を下げてくる。私は笑ってその頭を撫でた。
「父の病気が治るようになったのはあなたがきっかけなの。礼をいうことはあるけど、謝らなくて良いのよ」
(ディーノは急ぎすぎるよ。お姉さんは確かに可愛いけど、まさかこんなことになるなんて思わなかった)
ちび竜セインは自責の念からかふるふる震えている。
「私、嬉しいの。嘘じゃないわ。ずっと前からこの村から出て、どこか遠くに行ってみたい夢があったから…お父さんの病気が治って王都で生活出来るなんて…突然だけど嬉しいわ」
セインはうん、と一度だけ頷いた。
「美味しいな。良いお嫁さんになれる。あ、僕のお嫁さんの席ちょうど空いてるけど、どう?」
にこにこしながら朝食の席に座るディーノは私の食べるはずだった食事を食べている。私は何も言わずに自分の分をもう一度作り始めた。
「おはようございます。ディーノさん」
「おはよう。シャルロッテ。今日も可愛いね」
(僕のこと無視しないでよ、ディーノ。父さんは?この辺に気配がなくなっているけど)
「ジークならヴィクトリアに事情を説明するために一度王都に帰っているよ。セインのことも心配しているだろうからな」
(母さん…)
赤いちびドラゴンは涙を溜めて俯いている。私はそれを見てすこし胸が痛くなった。
「今日は君のお父さんの様子を見に来たんだ。どの程度かわからなかったからね。
…薬で治るのか、奇跡の力に頼らねばならない程なのか…。どうやら後者だったみたいだね。だいぶ悪いみたいだ」
「奇跡の力、ですか?」
私は目を瞬いた。どうも事が大きくなりそうだ。
「そうだ。万病を癒す奇跡の力を持つ聖女、ルクレツィアをこの村に呼ぶ。僕の昔からの仲間なんだ。すぐに来てくれると思うよ」
私は動きが固まった。もちろん勇者なんだから聖女とも交流があっても不思議ではないけれど。
「あ、でもこれだけは言っておかないとな。ルクレツィアは僕に気があるんだけど、誤解しないでくれ。過去にそういう関係になったことはない。僕は昨日から君だけだ」
とウインクしてくれた。
どうでも良い情報ありがとうございます。