発動
「それで、何でおまえがシャルロッテと?」
「今までの話で気にするところそこかい?なんか焦って損したな」
疲れた様子のアレクを若草色の目で睨みつけながら、ディーノが私の元にやってくる。
「シャルロッテ、何もされなかった?」
「はい、私は何も…えっと、ディーノさんは大丈夫ですか?」
ああ、と言うとふうっと小さくため息をつく。
「クラリスとの婚約は最終手段だからね、向こうもそこまで強くは出れないんだ。僕もそこは譲れないからね」
(ディーノ…僕のこと忘れてない?)
「お前のこと忘れていたらこんなに苦労していないな。セイン。色々と思うところはあるだろうが気にするな。僕は契約を交わしたからにはジークと一心同体も同じ、お前のことも自分の息子だと思っている。…子供の命のためなら親はなんでも出来るのさ」
(ディーノ…)
「しんみりするなよ。いつもみたいに減らず口叩け」
「ディーノ、そういう話は屋敷に帰ってからにしてくれ。僕もそんなに暇じゃないんでね」
アレクが肩を竦めながら会話に口を挟んだ。
「…ああ。竜玉はこの城にあるので間違いないと思う。だが、そのどこに隠されているかだが…それはルクレツィアが居たら解決するということか…」
「はい。生命エネルギーを感じることが出来るみたいです。セインのことも城に居たんじゃないかって言っていたので…」
「それで僕は良く偶然見つかっていたということか、謎が解けたな」
ふうんと息をつくとディーノは眉を上げた。
「君に僕の傍を離れて、セインを連れて屋敷を出て行け、ねえ。大きく出たものだな」
急にひやっとした空気を感じた。背筋をふわっと嫌な物を通っていく感覚。
「…役に立つからって甘やかしすぎたかな?」
「君が女性に甘いのは大昔からだろ」
ふふっとアレクが笑う。でもその茶色の目は笑っていなかった。なんだろう、この2人から底知れない怖さを感じてしまった。
(ディーノ?)
「心配するな。君達には何の心配もかけない。竜玉もすぐに手に入るだろう」
「えっと、…どうやって手に入れるつもりですか?」
私は震える手を押さえながら聞いた。ディーノは怒っている。華やかな風貌で私に優しく笑いかけながら。
「…君には心配をかけないよ。シャルロッテ。君はセインと僕の傍に居るんだ。…わかっているよね?」
(お姉さんを怖がらせるなよ。僕のためにいっぱいしてくれたんだ。アレクにだって…)
「ダメよ。セイン」
火に油を注ぎそうなちびドラゴンの発言を止めながら、心配になって笑顔で怒る人を見た。
「…セイン。後で聞く。アレクは今から僕と仕事だ」
「…分かったよ。ボーナスは弾めよ」
「勿論だ」
にやっと若草色の目を細めて笑う姿は確かに崇拝に値する勇者に見えた。