仕事
(ディーノは多分この国の王に弱味でも握られてるんじゃないかなぁ。お姉さんはどう思う?)
むしゃむしゃと昨日の残りのアップルパイを食べながらセインは言った。大きな口で一口で食べると本当にすぐに無くなってしまう。ディーノを待ちながらあんなに数を作ったのにもう無くなってしまった。その食べっぷりの良さに苦笑してしまう。
「…どうしてそう思うの?」
(簡単だよ。王女との婚約を一度正式に断っているのに、あんなに連れ回されても文句も言わない。きっと何か弱味を握られて、断れない状況にされているんだ。それに…)
「…セイン?」
アップルパイにかじりついたまま俯くちびドラゴンを覗き込む。
(…アレクだよ。あんなに仲が悪いのにこの屋敷に入ることも口ではなんだかんだ言いながら黙認しているだろう?何かあるんだ、僕には内緒にしているけれど…父さんも母さんも、何かを隠している…)
「セイン、それは決まったことではないでしょう?」
(ねえ、お姉さん)
「何?」
(お姉さんがアレクから聞き出してみてよ。ディーノからは絶対聞き出せないと思うから…あいつはお姉さんに甘そうだから、多分いけるんじゃないかな)
「アレクさんに?でももう会う機会もないのに」
この前のディーノの好戦的な様子からしてあの人に近寄るのはすこし抵抗がある。
(この前に手紙を何枚かもらっていただろう?それで連絡取るのは…難しいかな?)
どこか必死そうなその顔を見て、私は頷いた。
「やぁ、君から連絡がもらえるなんて思ってなかったな」
「こんにちは、アレクさん」
(よう)
王都郊外のカフェだ。いつもと違い遠慮がちな様子のちびドラゴンは私のスカートの影に隠れている。
「おや、セイン。君が何も言わないのは珍しいな。おい、蝋燭野郎、とか言わないのかい?」
赤毛で白づくめの騎士を揶揄する言葉なのだろうが、あまりにそのまんまでちょっと笑いそうになってしまう。
「ひどいな、シャルロッテ」
苦笑して白の騎士は私達の向かいの席に腰掛けた。
「ごめんなさい。悪気はないの」
「まぁ、良いさ。僕も気にしてないから」
「えっと…ごめんなさい。お忙しいのに時間を取ってもらって」
「そうだな、君なら呼び出されても別に嬉しいから気にしなくて良いよ」
それで、と足を組みながら私の言葉の先を促した。
「あの、もし言えなかったら構わないんだけど…」
(お姉さん…僕が言おうか?)
ううん、とちびドラゴンに首を振って白の騎士に向き直った。
「あなたが勇者ディーノから受けている仕事って、何ですか?」