木陰の会話
「勇者になりたくなかったんですか?」
「さあね、どう思う?」
質問を煙に巻くように優しく笑う。新緑の目は頭上の常緑樹を映しているかのよう。
「…ディーノさんは勇者です。誰がどう思っても」
「そうか。それは…嬉しいね」
もう一度目を瞑るとすうっと深呼吸をした。
「勇者で居るのは嫌ですか?」
「君に好かれるのなら勇者も良いな」
「もうっ、からかわないでください」
「…からかってないよ。本当に…そう思ったんだ」
「ディーノさん?」
ふわっと髪に手を伸ばされて、それで緑の目が近づいて、それで。
(おいっ)
私は慌てて顔を上げた。雰囲気に呑まれるところだった。危ない。私は顔に熱が集まるのを感じた。
「セイン…空気読めない子に育てた覚えはないんだけどな?」
(読んでるから今まで黙っててやっただろう?そういうのは気持ちが通ってからにしろよな)
ぺしんと尻尾で背中を叩かれる。ほんとだ。何しようとしてたんだろう?
「することによって気持ちが通う事もあるんだよ、お子ちゃまはこれだから」
ディーノは寝転んだまま不満顔だ。セインは舌を出して笑う。
(お子ちゃまはどっちだ。どっちにしても責任取れる立場になってからしろよな。ディーノ)
フンとちびドラゴンは鼻を鳴らした。
「あの、ディーノさん」
「何?シャルロッテ」
やっと体を起こしたディーノに私は言った。
「アップルパイ作ってるんです。良かったらいかがですか?疲れた時は甘いものが良いって言いますし」
(うわ、やった。ありがとう、お姉さん!)
「お前に言ってないだろう、ちゃんと話聞いていたか?」
苦笑したディーノはセインの頭を叩く。
(アップルパイの選択をしたのはちゃんと僕が林檎好きだってわかっててくれたからだろ。そもそもディーノが僕のおまけなんだよ)
「お前な。世の中には言っていい事と悪い事があるのを教えてやらなきゃダメみたいだな」
微笑ましい言い合いにふふっと私は笑って言った。
「たくさん焼いたんで喧嘩にはならないですよ。いっぱい食べてくださいね」
 




