朝が来て
(お姉さん…何やってるのさ…)
早朝朝早く帰った私にちびドラゴンは呆れた風に息を落とした。ぺしんぺしんと尻尾が揺れて苛立ちを伝えてくる。
「セイン…ごめんなさい…」
(僕言ったよね?ディーノには何か理由があるって!そんなに行きたかったなら僕も連れて行ってくれたら良かったのに)
ぷんぷんと怒る姿が可愛くて、私は思わず微笑んでしまった。
「ごめんね。美味しいアップルパイ作るから許してもらえる?」
(ぼ、僕はそんなんじゃ誤魔化されないよっ)
「セイン、そう怒るな。シャルロッテも悪気があった訳じゃないんだ」
(ディーノ、もうお姉さんに誤魔化されちゃったの?可愛いからってやって良いことと悪いことがあるって教えた方が良いよ!ただでさえお姉さん危険なものが好きみたいだから)
「今回は僕も悪かったんだ、セイン、ちゃんと理由を告げるべきだった」
(…?そういえばディーノの仮面舞踏会に行ってたの?)
不思議そうに首を傾げるちびドラゴンにディーノはポンポンと頭を叩いた。
「仕事だよ。王からクラリス王女のお守りを頼まれていた。…先約だったんだ。シャルロッテにはすまないことをした」
(あの王女、まだっ、ディーノ…!何するんだよ!離せよっ!)
口をぎゅっとつままれたセインは慌てて抵抗をする。
「こいつのことはもう良いよ、シャルロッテ、疲れただろう。部屋で湯を使ってゆっくりおやすみ」
昨日から寝ていない私は深く考えることなくその言葉に頷いた。
「おはようございます。シャルロッテ様」
着替えをすませて庭に出ると、黒髪の美少年ルカリオが微笑んで迎えてくれた。
「こんにちは、ルカリオ。こんな時間になってごめんなさい。セインはどこに居るかしら?」
「セイン様なら、お母様の巣にいらっしゃるんじゃないでしょうか?」
私は屋敷の近くに設置された大きな巣を見上げた。親子水入らずなら邪魔しない方が良いかしら?
「えっと、ディーノさん、は居るかしら?」
「ディーノ様なら朝そのまま出かけられました。城に向かわれたのではないかと思われますが」
「え?あのまま?」
「ええ、着替えられてすぐに」
ルカリオはなんでもないことのように頷いた。
「でも…眠っていないのに」
「よくあることですので」
勇者と言われるからには、それなりの体力があるだろうが、果たして眠らないままでも仕事が出来るのだろうか。
「…あの、お帰りはいつ頃になられますか?」
「そろそろお帰りになると思いますよ。明日も早朝からお出かけになられるみたいですので」
「わかりました」
私は帰ってくる前に何か作って待っていようと、そう思った。