むかしの話
今日私は午後から王都を歩いていた。お供はちびドラゴンセインとディーノの執事ルカリオだ。
村とは比べものにならない、人人人。こんなに人をみたのは初めてだ。熱気と喧騒。はじめて見る光景に私はすっかり浮かれてしまった。お父さんやお世話になっている村の人への贈り物、可愛い小物や珍しいお菓子なんかに夢中になってしまった。
気がつけばルカリオの両手は持ちきれないくらいの荷物でいっぱいだ。
「ごめんなさい。ルカリオ。私もすこし持ちます」
「いいえ。シャルロッテ様。貴方に何も持たせることはできません。僕の仕事ですから。なんでも欲しがるものは買って差し上げるようにディーノ様から申し付けられておりますので、他に何か欲しいものはありませんか?」
(そうだよ、このくらいディーノにとってはなんともないんだからもっと買えば良いよ)
「…良いわ。もう帰りましょう。すこし疲れてしまったわ」
「一度馬車に戻って荷物を置いてから美味しい物を食べにカフェにでもお寄りしましょうか?」
慣れない新しい靴に足がそろそろ痛くなってきた私はルカリオの提案に笑顔で頷いた。
(あれ、ディーノと聖女だね)
セインが小さな腕で指差した。入ろうと思っていたカフェのテラス席に見覚えのある2人組を見つけたからだ。
(結局会ってたんだ。人騒がせだなあ)
「本当ですね。ご挨拶しますか?」
ルカリオが振り返って聞く。私はじっと2人を見た。寄り添って仲睦まじく笑い合っている。
「…良いわ。邪魔してしまうもの。他のお店に行きましょう」
(…お姉さん?)
不思議そうなちびドラゴンの声は聞こえなかったふりをした。
馬車の車輪がトコトコと音をさせる。ルカリオは御者台に居るため、ちびドラゴンと一緒に乗っている。
(…お姉さん、ディーノはその…何か事情があるんだと思うんだ。絶対あの聖女のことなんてなんとも思ってないよ!お姉さんのことを気に入っているのは間違いないんだから)
「…大丈夫よ。セイン。なんとも思ってないわ」
(なんとも思っていないようには僕には見えないよ)
「…ねえ、セイン。私はもう恋愛はしないって決めているの」
「えっ。どういうこと?」
ビックリしたちびドラゴンは身を乗り出した。
「村でね、昔、結婚を約束した人が居たんだけど、お父さんが病気で…お金が沢山かかるってわかったらすぐに別れようって。すぐにお金持ちの娘さんとの縁談がまとまって村を出て行ったわ。…男の人をそういう意味では信用出来ないの。だから、もう私は恋愛はしないのよ」
(お姉さん…)
ちびドラゴンはそれ以上何も言わなかった。




