魅惑のパンケーキ
「これをあいつは僕より先に食べたのか」
笑顔だけど怒った空気を醸し出すという器用なことをしているディーノはすごく近寄りがたいし話しかけづらい。セインもいつもは上向きな尻尾がだらんと垂れ下がってしまっている。
「あの…すみません。私が誘ったんです」
おずおずと話し出すとディーノは弾かれる様に顔を上げた。
「シャルロッテが?どういうことだい?」
「ええっと、私とセインが食べようとしたところでセインのお皿を運んでいたら落としそうになって…そこで支えていただいたんです」
「あいつのことだ、すべて計算済みだな」
切って捨てる様にディーノは言った。
「えっと、…私もセインもここに居たのは偶然で…」
「近づく機会を待っていたんだよ。シャルロッテ。…頼むからあいつに気を許さないで欲しい。僕にはまだそんな権利はないし、ただのお願いになるけれど」
「えっと…わかりました…」
「頼むよ…」
(ディーノ、ごめん)
「セイン。お前は何していたんだ」
(ごめん…僕が悪い)
「あの、なんだかすみませんでした」
1人と1匹がしゅんとしたまま、そのお茶会は終わった。
「シャルロッテ」
「ディーノさん、あのお昼は…」
サッと手をあげて私の言葉を遮るとディーノは言った。
「ごめん、僕が頭に血が上って言い過ぎたようだ。…すまなかった…」
「私も…よく知らない方に軽率でした。気にしないでくださいね」
にこっと笑うと笑顔を返してくれる。良かった。時間をおいたら元のディーノに戻ってくれたみたい。
「君は…あの男から誘われていたみたいだが…」
「はい?」
「あの、アレク・マーフィーだが…あまり女性からの評判は良くない」
「えっと、はい…」
「…君はあの男の方が…」
「私は別にアレクさんのことなんとも思っていませんよ」
「え?」
「ディーノさんのことも、ですけど」
「それは手痛い返しだな」
ディーノは苦笑すると肩を竦めた。
(自分だってあまり良いとは言えないんじゃないか?ディーノ)
面白がるようにぽてぽてと足音をさせてちびドラゴンが出てきた。
「セイン、丸焼きにされたくなかったらその口を閉じろ」
(お姉さん聞いた?僕が明日食卓に上がったら両親にちゃんと証言してね)
「ふふっ、わかったわ」
私はつるりとした赤い頭を撫でる。
「良いな。僕もドラゴンになったらそうしてくれる?」
(何言ってるんだ。成人すぎた男が)
セインは呆れたように呟いた。
「ドラゴンになれるんですか?」
「ああ、確かそんな魔道具が宝物庫にあったな、探してみようかな」
あるんだ。
(あれだと呪われて元に戻れなくなるぞ。ディーノは本当にお姉さんのことになると見境ないな)
セインははあっと大きくため息をついた。