五話 勇者はトラブルの元?
「サルート殿、確かにあの人がそうかもしれません。御者よスピードを上げてくれ。」
あの黒髪に見たことのない服装、何も持たずに一人歩く少女。
確かにあの方が勇者だろう。
それにしても、サルート殿は魔法使いでありながら、斥候なみに目がいいのだな。言われてから確認できるまで、かなり時間を要した。
「あ、勇者様の後方から近づく馬車がありますね。あちらに勇者様は気づいたようで立ち止まっていますよ。」
「何?善良な民だといいんだが、勇者様もいきなりの状況で気が動転して暴走なされなければいいのだが。」
やはり遠くてわからんな。
しばらく道を歩いていると後ろから馬車の車輪が響かせる音が聞こえる。
その馬車に乗っている人に助けを求めようと振り返り馬車が近づくのを立ち止まり待つ。
馬車が近づくと何か重い物でも積んでいるのか、時折金属のような物が擦れ合う音が聞こえる。
商人さんなのか大きめな布で荷台を覆っている馬車の目立つ所、えっと御者席?だっけにいる人に声をかける。
「あの、すみません!私気づいたらこんなとこにいて、街に向かいたいんですがどちらに街があるのかわからないんです。教えていただけませんか?」
「dk21%@99%jfnd+72odow8dnxlnw232&kodiwojwkoxhwko!od?」
「あれ?もしかして言葉が通じない?
え、ちょっと何?」
いきなり腕を捕まれて馬車に引き込まれそうになる。言葉が通じない上に腕を引っ張る男の表情が下品な笑顔だったこともあり恐怖を感じ、どうにか逃げようと男の腕を捻る。
「idkfkski!!!!」
たぶん痛みに叫んだのだろうが相変わらずわからない。
とりあえず、男の手が自らの腕から離れたのを確認すると全力で走る。
スリッパでの全速力はあまり早くない上に、馬車に勝てるはずもなく追い付かれる。
男が油断せずに掴みにかかってきたため、今度は逃げ出せる隙がない。
「ホントに離して、イヤ、イヤァ!」
「dkhfowiugeikduwoood_92kh39%jkekd0jwjidojbfiye?kisj」
突如、男と私の間に現れた人物は何かを男に言うと振り返り私にも話しかけてくる。
「お嬢さん、危ないからあっちの馬車に向かって逃げてください。あの馬車はあなたの味方ですから。」
おもむろに右手を私の頭にのせて軽く撫でてきた。
ちょっとびっくりしたけど助けてくれたみたいだしとりあえず逃げておこう!
「は、はい!ありがとうございます!」
そう言い指示に従って馬車を目指す。その最中ふとさっきの人を思い返す。
あれ?さっきの人の言葉はわかった。
ていうか日本語を喋ってた!
その事実に気づき、バッと振り返る。
後ろ姿ではあるが、見た目が完全に日本人の大学生か社会人の青年だなぁという印象で、かつ黒髪もそう思わせる要因のひとつ。
あれ?もしかしてここは異世界じゃなくてどこか外国なの?でも馬車なんていまだに使ってるところあったっけ?
そう思っているとさっき目指していた馬車が近づく音で我にかえる。
その馬車からは金髪碧眼の若い騎士らしき人が身を乗り出している。
「勇者様!こちらの不手際でこのような状態になってしまい申し訳ございません。我らが無事にあなたを教会までお連れします。」
目の前で混乱している勇者様に声をかけながら、幌馬車から降りる。
それにしても一瞬であの場所まで移動するとはまさか転移魔法を短時間で行使できるとはな。
サルート殿をこのままでは逃がしてしまう。
とにかく加勢するふりでもして近づくことにしよう。
部下に指示を出そうと一旦サルートから目を離して部下と顔を合わせると、
「セイゲン隊長!例の男が消えました!」
「何!」
振り返った視界に写る光景は、倒れ伏した商人と所在なさげに佇む馬車のみ。
なんてことだ!エリー様になんと報告すれば。
と、とりあえず勇者様を連れ帰ることを優先するしかあるまい。