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レイは人間を遥か昔に辞めた。


現状、食事も睡眠も要らない。

有り余る時間と持ち前の器用さで、古今東西あらゆる料理も作れるし、自身の血を触媒にベッドどころか城も錬金術で作れる。

賢者の石、紅の結晶、それは。レイの血液を固めたモノである。


しかし、レイは今。

森の奥深くで苛立ちを抑えるのに必死だった。


レイの感情は磨耗している。だが確かに、感情として現れる前でも苛立ちはストレスとして募っていたようだ。それは、ギルドの事だけでは無い。

無遠慮に依頼を脅しつけてきた貴族だけでも無い。


それは、腫れ物を触るかのように接する権力者達。

それは、何も知らずともレイに向けられる不審の目。

それは、どうしても人間に馴染めない自身。


人間を辞めた罰か。


レイは人間が好きなのに、まるで人間から拒絶されているように感じてならなかった。

溢れた感情は色を変える。


「ボクは死にたくなかっただけ」

「ボクは確かめたかっただけ」

「ボクは……嗚呼。人間を個人として捉えられない……」


メイド、ギルド長、冒険者。

それは名前ではなく役職である。

例えば、蟻に女王蟻と働き蟻が居るように。でも、働き蟻1匹1匹の区別はつかないように。


遥か昔、病弱だったレイは。

遥か昔、自身に錬金術をかけたレイは。

遥か昔、人間の上位の生命体に至ったレイは。


例え人間といても孤独だった。



ガサッ。

「……人、か?」


冒険者だった。

人間は本当に何処にでも蔓延る。


レイはまた、沸騰する。

人間といるとまざまざとレイ自身との違いを感じさせる。いっそ、目の前から居なくなってくれと。

"可愛さ余って憎さ百倍"。レイの心情はまさしくそれだ。


どうして自分と違う。

人間が人間である事に嫉妬する。

錬金術は引き上げるだけで、元には戻らない。


人間は二度と戻らないレイの過去。

どうか人間。

その生き様で慰めて。

その姿を見せつけないで。


「……ボクに……近寄らないでくれ……!」

「~!」





レイは今は人間に会いたい気分ではない。

その森、とある国の樹界。一種の異界と呼べる程の面積と密度を誇る森林に、レイは引きこもった。ヒトもエルフもドワーフもマーマンも。人間と呼べる種は入れないよう奥深く結界で拒絶して。


永い永い時を生きた"賢者"の、本気で拒絶し張られた結界は。

魔法、魔道具、錬金術、あらゆる手段において上回った。


例えば、何処かの王が病に倒れても、もう賢者の薬は手に入らない。

何処かの騎士団長が腕を切られても、もう賢者の薬は手に入らない。

何処かの神殿が最後の砦と言われる、サイコウの結界は、もう数度しか使えない。

何処かの街は強大な魔物が現れても、()()居なくなってくれない。

何処かのギルドは……。


錬金術師達は、薬師は、魔道具師は断り切れない権力者からの無茶振りに晒される。

騎士は、冒険者は、死傷者が何故か格段に増える。

民衆はお伽噺の他に"賢者"を知らない。




やがて、民衆に広まるのだ。

樹界に不気味な紅い結界が出来てからおかしい、と。


きっと、強い魔物に街が壊滅させられたのはそのせいだ。

きっと、神殿長様が焦っているのは何か不幸な御告げが有ったのだ。

きっと、あの不死身の騎士団長様が片腕になったのは、あの王様が病に倒れたのは。


まことしやかに流れる噂。


紅い結界の奥には

魔物を操り

力を蓄え

呪いをかける


……魔王が居る。



"賢者"が引きこもったと知るのはほんの一部の人だけなのだ。

そして、最初は神殿。


国の要、国の首都で強大な魔物が迫る等緊急時には神殿が結界を張り守ると言う協定が有った。神殿には守る為に、結界師が多い事もあるし、最硬の結界が有った。

しかし、使い捨て魔道具であるそれは、もう増える事は無い。

神殿は出し渋った。


はたして使うべきだったのかどうか。

結果的に、被害を出しつつも魔物は討伐された。結界師だけでは守りきれず、しかし、初めの判断で魔道具を使わなかった時点で結界を張るには遅すぎた。魔物への恐怖は怒りとなって神殿へ向く。


神殿は慌て、矛先を逸らそうとする。


「既に噂になっているように、紅の結界の向こうに、魔王と呼ぶべきモノが現れた!」

「紅の結界は神殿の結界である。魔王を封じて居る為、王都を守る為に使えなかった」

「魔王の本体は封じたが、その影響力は計り知れず。どうか人類の為、神殿は勇敢なる者達へ魔王討伐の支援を惜しまないだろう」


神殿は"賢者"を魔王、魔物を統べ人間を襲う神敵、に認定した。

それは"賢者"の協力を得られなくなった綻びを隠す為。

あわよくば"賢者"と言う恐るべき力を持った存在を消す為。


最初に魔王と偽った"賢者"を知る存在は"賢者"を倒せるとは思って居ない。だが、宗教のトップである彼は"賢者"の行動を予測する。

「アノ化物は数百年は動くまい。"賢者"と呼ばれる程賢い。今、我々(神殿)が死ねば完全に魔王と認められる。放っておけば騒動は一部の(英雄に憧れる)冒険者にまで鎮まるさ。後は適当に強そうな魔物をけしかけて終わりだな」


レイは怠惰だ。

神殿長は感情を表に出さないレイがわざわざ神殿の喧嘩を買う等面倒な事はしないと断言した。実際、今のレイは人間をみない。何と言われようともまた、人間に目を向けるまでに神殿長は死んでいるだろう。


だが、予想外の事は起きる。

それは、静かに発言力を落としたギルドが気付いた。


紅の結界に人間は入れない。

紅の結界は広大な範囲を覆っている。

紅の結界に魔物は、植物は、人間以外の全ては入れた。


人間と言う天敵が居ない魔物はどうなる。

増える。殖える。安住の地は良い住み家である。

"賢者"は何をしているのか動かない。

溢れる程に増えて、縄張りを争い、樹界は魔界と呼ばれる程の縄張り争いに、生存競争に勝利した強大な魔物が住み着くようになった。

人間は弱い故に奇襲や罠や、道具を駆使して集団で戦うのだ。人間はいつ来るかもわからない魔物に、正面から戦う事を強いられる。



まさに、魔王であった。

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