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ギルドが素材を集める間に、患者の様子を診に行く事にした。

いつも着ている真っ白な白衣の上に、外出着にいつも着ている濃い灰色のローブである。目が見えない程に深くフードを被り、眼鏡をかけ、顔の下半分は包帯のような布を巻く。

何処からどう見ても立派な不審者である。


眼鏡と包帯は錬金術を行使する際も使い、眼鏡には簡易解析、鼻と口を覆う布はマスクの役割を果たすので、理由は有るのだ。

灰色のローブは……砂ぼこりが白衣に着くのを防いでいる。


「だ、誰だ!……って、"不審者"!?」

ギルドに入って直ぐ、ビビられた。


「"不審者"ってあの"不審者"か?」

「不審者……?」

「バカ。"不審者"はなあ、ただの不審者じゃなくて、"不審者"なんだって」

「不審者じゃない」

「いや、……うん。まあ、不審者に違いは無いんだが」

「誰だ!ややこしい"二つ名"つけた奴!」


まあ、新人や新しく王都に来た冒険者に説明するというだけのいつもの騒ぎが巻き起こった。冒険者でないのに"二つ名"がつく程有名なのは、不審者ルックな他にギルド長の依頼でたまに来る事、錬金術で作った魔法具に冒険者がお世話になっている事、それから……


「おい!不審者がギルドに何の用だ!」

「おいおい。止めとけって」

不審者の言葉だけで絡んでくる輩が毎回何処からともなく現れる。

"二つ名"は本来その人物の特徴を端的に表し、"二つ名"がつくだけの何かしらが有る事を表す注意喚起でもある。が、それも知らないバカが"不審者"に寄ってくる。アホだ。と言うか、むしろ"二つ名"のせいで寄ってくる。嫌がらせだろうかと、レイは毎回思う。


「ギルド長の依頼」

「はあ?冒険者なのか?」

そのエルフの男は一応、確認の言葉を投げてくる。


「いや。れん……」

「冒険者じゃないのにお前みたいな不審者がギルド長に呼ばれる訳無いだろうがっ!」

直ぐに手が出るのは冒険者の悪い癖だ。先手が強いのは認める。冒険者は毎回命懸けだからな。だが、話は最後まで聞け。情報収集は大事だぞ。


油断しきって大振りに腕を振るう男の攻撃を最小限に動いてかわし、懐に潜り込む。ついでに、実験。怪しい粉をばふっと。


「は?……うお!ぐっ」

男が苦しげな声を出したのは一瞬。たちまち変化が訪れる。風人(エルフ)らしく、風の魔法で粉を払おうとするも粉は意思を持つかのように頭にまとわりつく。粉の煙に顔が一瞬だけ覆われ、煙は流れるようにエルフの身体を伝って下へ落ちる。


「うわぁ……」

「おお!」

「酷ぇ……プッ」

「ガハハハハハ!」

「ぎゃっはっは!」


エルフの肩がするりと現れる。

ズボンも辛うじて尻に引っ掛かって居るが、大分際どい。


「うん。成功。蘇生ついでにハゲ防止薬もついでに作ろうとして、男性に比べてハゲない女性を調べて出来た副産物だったけど……」

絡んできたエルフの髪はさらりと長く生えていた。


「……髪は伸びたけど、元々ハゲでも何でもないし。そこは、別に実験するか……」

「「ヒイッ」」

レイの目はフードに隠れている筈なのに、エルフのパーティーメンバーか、後ろのハゲたオッサン達は嫌な視線を感じた。


状況を理解出来なくて(したくなくて)固まっていたエルフは、おもむろに腰パン以下のそれをずり下げた。"不審者"を知っていた冒険者から歓声が上がる。


「………………キャアァァァァァーッ!」

甲高い悲鳴を上げてギルドの建物から飛び出したエルフは、何処からどう見ても、女だった。


今回もパッと見不審者であっても、冒険者が冒険者じゃないしかも正式にギルド長から依頼を受けた人間に暴力を振るおうとしたのは向こうで、レイの行動は正当防衛になる。

どんなにえげつない薬品を使われたとしても、罰を受けるのは女になったエルフの方だった。


レイは錬金術師である。しかし、見ている冒険者は知っている。怪しい粉もそうだし、そもそもその前の動き、恐らくギルドに今居る冒険者達より強いであろうレイ。どうしてそこまで強いのか、それでいてどんな錬金術師より優れて居るのは何故か、ハッキリしない者、そういう意味での"不審者(アンノウン)"でもある。





「で?石は?」


そこで、冒険者は石化した冒険者の情報を絞り出した。

レイの言が明らかに不機嫌だからである。レイはギルドの建物に頻繁ではないが、来る。その度にギルドが勝手に着けた"二つ名"のせいで絡まれるのだ。知っている冒険者はそれを見世物にする始末。

いや、最初は冒険者もギルド長と仲の良いレイに絡む真似はしないよう注意してきた。しかし、感情が磨耗したレイは鈍感である。徐々に絡んでも被害に合うのは絡む冒険者だけだと理解すると、行動は変わる。


だが、鈍感なだけでレイも全くの無感動な訳が無い。苛立ちは募り、危険域に突入する。その結果、言葉に感情が乗った。

野生の勘に優れる冒険者は、悟った。


女にされる事はある意味問題にならないのだ。死んだ訳でも、死に向かう訳でも、怪我でも無い。つまり犯罪では無いし憲兵は動かない。

普通は簡単に性転換が出来る筈も無いが、レイはたった今やってのけた。男の尊厳の危機である。石と言う単語一つで、レイの目的を割り出せる程度に頭がフル回転した。


「はい!石化した冒険者は2階の第3休憩室です!」

「"酒蔵"の連中が月水晶を採ってくる緊急依頼を受けてました!1週間を目処に行ってくるそうです!」

「"焔の流剣"がカゲロウ討伐の緊急依頼を受けてました!準備して明後日出発だそうです!」

「~!」

「~!」


緊急依頼が薬の素材の一部だと推測までしたようだ。たまに的外れな情報も有るが、レイはおおよその予定が見えた。

「分かった」


冒険者は見るからにホッとした。

しかし、レイは知っている。一度、危機を感じた程度ではまたすぐに繰り返されるだろう。命懸けな冒険者とはそういう人種の集団である。


対策を練るべきか。

レイはイタズラを思い付いた。


石化した冒険者の惨状はなかなかだった。知らないでか、知ってて賢者(レイ)なら、と思ったのかは知らないが厄介な問題が有った。石化の他に酷い怪我まで有るのだ。奇襲と聞いていた以上、想定してしかるべきか……。石化した部分の一部が欠けている。怪我が有った。


「この深さの傷はヤバいかな」

「う……。誰、だ……ふ、"不審者"?」

石化冒険者が目を覚ます。石化した部分は所謂部位欠損に等しく、痛みは無いが少しずつ動かせる身体が削られるのは心地よい筈も無い。石部分が割れればもう元には戻らない。8人の冒険者の合計して19本の指は、欠けた。


更に、石化を治しても石化したふくらはぎに大きな傷が有る。幸いかどうかは不明だが、石化のお蔭で状態が固定されているが、石化が解ければ出血するだろう。

「コレも治せってか?依頼の範囲外だな」

「"不審者"?……おい、治してくれるのか?」


冒険者が問う。これで治さないならただの見物とでも思ったのだろうか。失礼な。

「石化はな」

「そうか。……ありがとう」


冒険者は理解して居ない。石化だけを治せばこのままなら2人は出血で死ぬだろう。

「……早ければ2、遅くとも3週間以内に材料は揃う。そしたら解除薬は作ろう」

「ありがとう……。ありがとう……!」

解除薬系は一般に錬金術師には作れないと言われている。毒を以て毒を制す系の毒消しならともかく。そして、薬師が石化解除薬を作るのに3~6ヶ月。石化の進行を抑えられるのは約1ヶ月。石化解除薬を持っている、あるいは1ヶ月以内に作れる者を探すにも短い時間だ。冒険者だから覚悟はしているとは言え死ぬのは恐ろしかっただろう。

冒険者は涙を流して感謝した。


「が、お前……」

「あ、リーダーの、ククフです」

「そうか。お前の場合、石化解除後直ちに上級ポーション飲まないと失血死するな。ふくらはぎの血管が切れてる。欠損治癒もしなければ左手の指も戻らない」

「え?……あ……」

冒険者は一転。呆然とする。


「正確にはギルドの治癒師(医者)に診てもらえ。まあ、高ランク冒険者なら上級ポーションもなんとかなるだろ」

レイはそう、言い残しさっさと部屋を出ていった。

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