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「おう!依頼だ!」
そう言ってくるのは風人の大男だ。
エルフは戦闘種族である。ドワーフは物を大事にしないとエルフを嫌って居る。エルフはエルフでドワーフは辛気臭い引きこもりだと言う。
「ギルド長か。ボクは今、貴族の依頼で忙しい」
レイは大通りに面した窓からボーッと外を見たまま振り向きもせずに言った。
因みに、窓は所謂マジックミラーだ。外からは見えないようになっている。ガラス自体は普及しているが、マジックミラーはレイが作る物のみだ。前文明の技術である。
「全然忙しそうに見えないな。頼む。高ランクの冒険者が石化した」
白銀の髪に碧の瞳のその男はこの国のギルド長。
ギルドは魔物(魔法生物)を狩る冒険者をまとめる組織だ。神殿の義勇組織が元で、独立した今も国と対等を保って居る。
国としては国の意に沿わない武装組織だが、魔物被害を鑑みれば金のかかる兵士より有用である。
そんな一国の王族と対等と言えるギルド長の依頼、しかも貴重な高ランク冒険者に関する緊急性の高い依頼だ。貴族の物と、天秤にかけるまでも無い。
「……はあ。種類とかかった日時。それと報酬は?」
国王と同等で有りながらフットワークの軽いギルド長は、"賢者"について知っており、直接依頼を持ってくるのでレイと顔見知りだった。
「ありがとう!石化はコカトリスの吐息。昨日の日が沈む頃にかけられたらしい。朝になって帰って来れた頃には一番重症の奴で肘上と膝まで石だった。進行は今有る薬で一月は持つ。報酬は大金貨20、いや、30枚。あ、人数は8人」
小金貨10枚で大金貨1。更に、一人が最低限1年生きるのに小金貨3枚。単純に生きるだけならレイとメイドで50年何もしなくても生きられる金額だ。
「コカトリスは有るのか?」
「……、まあ、保存状態は悪いがな。有るぞ」
「薬の材料の一部だ。貰いたい」
「う~む。一応、コカトリスも依頼元が有るんだが」
「どの部分だ」
「肉の一部と羽、目玉、トサカだな」
コカトリスは蛇と鶏のキメラだ。石化の息を吐くが、風化の魔眼を持つ。石化部分を睨まれると砕け散る。その目玉は、時間停止拡張鞄の材料の一つだ。恐らく羽で鞄を作るのだろう。肉、トサカは高級食材だ。
「なら残りの肉以外。報酬は20で良いが、反鏡葉と、土魔石、種族に合わせた各魔石は用意しろ。出来れば月水晶、カゲロウの羽、が有ればなお良い」
コカトリスの石化を治すのに、コカトリスの肺、正しくは毒胞が有れば、ミラーリーフで石化解除薬を作れる。錬金術の触媒に土魔石、患者に属性を合わせ副作用を抑えるのに各魔石。ヒトなら火、エルフなら風、ドワーフなら土、水人なら水の魔石だ。錬金術の利点であり欠点として、属性の偏りが有る。薬師の薬なら凡庸性が有る。今回は、急ぎなので過程をほとんどすっとばせる錬金術師に仕事が来た。ミラーリーフの乾燥加工は時間がかかるものだ。毒胞の処理も。
月水晶、カゲロウの羽は、それぞれ水と土、火と風属性の解除薬系効果増幅材となる。
石化を治す際の注意事項は、当然だが石を割らない事。副作用、属性次第では罅が入ってもおかしくない。罅はそのまま裂傷となる。焦ってもいけない。石化を治すには程度にも寄るが、最低1週間は欲しい。
「……分かった。急ぎ、準備させよう」
若干の惜しさを宿してギルド長は答えた。
レイが要求した物は、特にコカトリスの素材は大金貨10枚より大きい。薬に使うのは毒胞だけで大部分はレイの懐となるのが分かっているだけに。
しかし、ギルドとしては受ける他無い。どうせしばらくは、治療費として高ランク冒険者をこき使えるのだ。
「だが、何故コカトリスに挑むのに先に薬師に依頼しておかなかったのか?石化防止薬でも、万が一の解除薬でも」
レイはいぶかしんだ。
「それこそ時間が無かったんだ。たまたま近くの村が襲撃されてな。解除薬はともかく、防止薬が無かった。解除薬も村人の方が優先だ。高ランク冒険者ならある程度石化に抵抗できる筈だったんだが……」
「が?」
「くっ、勘弁してくれ。……ギルドの失態だよ。調査不足、番のコカトリスの片割れに奇襲されたそうだ。ああ、片方の討伐はまだだ。手負いにして逃げるのがやっとだったらしい。うう、追加の調査依頼。他の高ランク冒険者の手配に、治療費と称した割の良い依頼の用意……。こっちもいっぱいいっぱいなんだ。まじで」
「はっはっは。ボクには関係無いね。ついでにボクが受けた依頼の貴族への説明と交渉が追加された訳だ」
無感情に笑い、大変な状況のギルドに更なる面倒を教えるレイ。
「だー!くそっ。頼んだぞ!」
錬金術師は多いが、普通のそれはもっと単純である。魔石さえ有れば薬でも、素材でも効果や質を上げられる。勿論、どの部分の質を上げるかによって属性の配分など知識は必要だ。それに加えて素材から石化解除薬を作れる薬師の知識をも持つのはレイ位だろう。薬草汁の回復効果を引き上げてポーションを作るのとは訳が違う。因みに、薬草汁の液体と言う純度を上げると不純物が取り除かれただの蒸留水になる。
石化解除薬は、石化を反転させる薬であり、適当に効果を高めただけでは逆に石化が進行する可能性もある。かといって、反転の作用だけ高めても意味は無い。
既に、扱いにくいレイに依頼する前にギルドは、幾人もの錬金術師に断られてきた。
「ボクに出来ない事はあんまり無いから安心して」
「あんまりって、あんまり安心出来ない事だよなあ!?」
「はっはっは」
事実、うっかり死んでしまったら蘇生すれば良いだけの話である。
"紅き結晶"の話は有名である。万能薬の原材料、死体の状態が良ければ蘇生は容易い。石化解除薬より当然材料もかかるし面倒だから本当にいざと言う時だが。基本的に死体は腐るので蘇生は3日以内が望ましい。
有名ではあるが、流石にレイ以外はお伽噺だと思っている。でなくては何のために前文明を滅ぼしたのか。
とにかく、レイが依頼を受けた時点で成功は確約された。




