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むかしむかし。
具体的に言うと千年位前に実際に有ったお話。
魔王が居ました。
そう、あの有名な魔王。恐ろしい魔物の王は千年も前から悪さをしていました。
そして、勇者が現れるのです。
唯一、紅き結界に入る事が出来るのは、"鍵の紅目"とも呼ばれる目を持つ勇者だけです。
その"始まりの勇者"が現れたのです。
勇者達は忽然と魔界に近い都市に現れました。
初めは、ただの歴戦の冒険者だったのですが、
「俺達は紅き結界を抜け魔王を討伐してみせよう」
そう、言ったのです。
紅い目が特徴的な彼らはたった四人で、そしてどんなパーティーよりも圧倒的に強かったのでした。
初めは大口叩きだと笑われた彼らは、何処からともなくドラゴンなんかの強い魔物の死骸を持ってきたのです。
徐々に彼らの実力は認められていきました。
ある日、
「オレサマが見極めてやろう」
威圧的にそう言ってきたのは、その都市で長い間活躍してきた冒険者でした。
「良いだろう」
勇者を名乗る彼らはその挑戦を受け入れました。
そして、冒険者達の前で結界を通り抜けて見せたのです。
「危ない!」
更に人の気配に寄ってきた、魔界の番竜と呼ばれる風竜を目の前でやっつけたのです。
冒険者はとうとう勇者を認め、懇願しました。
「見てるしか出来なかったオレ達の分も、魔王を頼む!」
勇者は快く引き受け、準備を整え魔王に挑み……帰っては来ませんでした。
しかし、その頃より結界は強く紅くなり魔物も通さなくなりました。
勇者は負けてしまっても、魔王を深く封じ込める事に成功しました。
月日は経ち。
とある特徴的な黒目黒髪の孤児達が冒険者になって居ました。
黒髪の冒険者達は才能が有ったのでしょう。
めきめきと実力を伸ばし、あっという間に最高ランクに至りました。
奇しくも"始まりの勇者"が初めて表舞台に立った魔界の縁の都市で魔物侵攻に巻き込まれました。
ちょうど勇者が魔王を封じて百年。
魔王は復活し、結界が緩んだのでしょう。魔界から魔物が侵攻してきたのです。
黒髪の冒険者達はがむしゃらに魔物と戦い、そして何とか退ける事が出来た時、黒だった筈の目が紅くなって居ました。今で言う"勇者の覚醒"です。
そこは"始まりの勇者"が立った土地。始まりの勇者を知る者が同じ目だと、同じ顔立ちだと騒ぎます。
こうして二代目の勇者が現れる事になったのです。
今では広く知られる勇者。"秘めたる黒"の"勇者候補"が一定の実力をつけると"鍵の紅目"を持つ勇者になるのです。勇者はあらゆる面で強く、対魔物に欠かせない存在です。
中でも重要なのは、魔王の元へ赴き封じ込める事。
勇者が魔王の力を殺ぐ事で、きっちり百年は紅い結界が開き魔物が押し寄せる事は無くなりました。
めでたしめでたし。
勇者は果たして生け贄なのか。
勇者候補に生まれつくだけで他の人間よりあらゆる面で優れている。
多くの人間は、力には義務が有ると言う。
理不尽では無いのか。
力が理不尽だと言うか、義務を理不尽と言うかは別れるだろうか。
少なくとも、勇者には魔王を倒す権利と義務とチャンスが有った。
「勇者、ねえ。最近の勇者は質が悪い。せっかく百年も猶予を与えているのに、この魔王に傷をつける事も出来ないのか……」
ペットなククルカン。
翼の生えた巨大な蛇を撫でながら、白い髪紅い目の魔王がこぼす。
「早く、ボクと同じ存在に至る者が現れないと……諦めてしまいそうになるなぁ。厭きてしまいそうになる。きっと勇者を含めた人間が疎ましくなる」
女のような、男のような、人間と同じカタチの魔王の顔に感情は無い。
「人間を滅ぼす魔王になる前に、誰でも良い。ボクを寂しさから救って……」
陶器のように滑らかで白い肌に、紅いひび割れが入る。血と呼べるモノが流れないその人型は魔王。
寂しい淋しい賢者だったモノ。
魔王は直ぐ側の六角柱の紅い血晶を力任せに殴り砕く。
パラパラと砕け散った血晶は、大小のそれを核に戦闘魔導人形となった。
同時に魔王を封じて居ると言う、紅い結界は消え去り、ドラゴンと呼ばれる最強種族までもが逃げるように外へ向かう。
後からは、動くモノを片っ端から殺し回る紅い核のゴーレムが拡散していく。
騙し騙し生きてきた魔王……賢者……いや、レイは、狂う。
それでも、独り自殺するのはあまりにも寂しい。寂しさに耐えられなくなったレイは、せめて、と自身を殺せる存在を探す。
最早、なりふりは構わない。
構う余裕は無い……




