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勇者は魔王に対抗する為に作られた身体だ。中身が普通の日本人でも、基礎能力がそもそも違う。身体操作能力も格別だから日常生活に支障は無かった。
その異常な身体能力に気づいたのは一度、シュンがリンを怒らせた時、少し本気でリンはシュンを叩いた。背中をね、バシンと。
シュンは漫画みたいに吹っ飛び、壁を突き破った。皆でリンを凝視した。その後、シュンが無傷で瓦礫から出てきた事にも唖然とした。
記憶能力も上がり、城で暮らす以上必須な貴族のマナーは半年で完璧になったし。
戦闘訓練はさすがに2年かかったけど、技術も身につけた。型を覚える事より、力業にならないようにするのが大変だった。
いざ、魔物討伐。
何の事はない。魚を捌くのと同じだ。生き物を殺すと言う事は。
可哀想と言う言葉だけが脳内を通り過ぎるのは、通過儀礼か。何の感情も浮かばない。だって、向こうも殺意を持って向かってくる。
初めては、犬のような魔物。狼と呼ばれない程度には弱く、勇者である俺にとって、敵では無い。
犬を飼った事が有るらしいナツは微妙な顔をしていたが、野生で汚ならしい痩せた犬。愛着も無い。特に問題はないようだった。
「流石です。勇者様」
大げさに誉める人達は、王様がつけてくれた。
15、6程の少年少女から、大人なお姉さんお兄さんまで。この世界では250歳を過ぎるまでは20歳の姿のまま老いる事はないらしい。200歳のベテランのお姉さんまで若い姿なのは、物凄い違和感だ。因みに揃って、顔が良い。
が、レイさんの話を聞いてか、惚れる事はない。
「レイさん!モテモテだな」
美女に囲まれるレイさんを見て俺はそう言った事が有る。
「当然だろう?」
レイさんは平然と答えて、ちょっとびっくりした。
レイさんは色合いも相まって、中性的で神秘的な容姿をしている。
俺はさすがに苦笑いになったけど。
「当然って……」
「……。……ボク達は勇者だ」
「うん。ちな、俺の名前はユウね」
レイさんは名前を覚えるのが苦手だ。
それはそうと、勇者だからモテるとでも言いたいのか。確かに、俺も綺麗な女の人によく声をかけられるようになったかな。
「ユウ。勇者と言うのは、この世界において新しい種族の名前でも有る。そして、魔王の元に辿り着ける唯一の種族だ」
「うん」うん?
「当然、勇者は多い方が、良い。どうやって増やすか。魔法陣は今度こそどんな中身を引っ張ってくるか分からない。さて、どうする?」
「美女……増やすって、そういう事だよね」
「そうだな。こづくr」
「わー!っと、待って待って。分かったから。なるほど。そういう……。美男美女が多い世界かと……」
なるほど。優しい王様だと思ったけど……いや、為政者としては十分優しいか。
レイさんはしかし、忠告めいた事を言う。
「あまり信用し過ぎない方が良い。王にとって、現在の勇者は客人では有るが、守るべき国民ではない。もし、情勢が変われば国の為に何でもするだろう。それが王だ」
「……うん」
レイさんは不思議だ。
それとも、外国人は王やら国やらを語れるのだろうか。
「ボクにとっては、この世界の人間より勇者の方が大切なんだ。いざとなれば、勇者の力を人間に向けて振れ」
それは……
「レイ様が、行方不明になられました!」
初討伐から城に戻った俺達を出迎えたのは、そんな声だった。
レイさんが行方不明。
当然、俺達は探したし、王様を疑ったりもした。
レイさんは戦えないから。
しかし見つからないし、そもそもメイドや騎士達が歩く城でこっそり居なくなるのは不可能に近い。
魔法を使った探査にもかからない。
見かけは本気で心配する王様達だけど、俺達はどうしても信用しきれなかった。
俺達は、旅に出る事にした。
どうせ、魔王を倒す為に戦いの経験は重要だ。
城で技術や知識は吸収しつくした。後は、実戦。
レイさんは気配を消すのが上手いし、仮にも勇者。自力で城を出た可能性は高い。俺達も移動すれば、縁が有れば出逢う事も有るだろう。
旅は思った以上に苛酷だった。
魔物は勇者である俺達からすれば弱い。
だけど、人間が厄介だった。
旅の間、勇者である事は隠して姿が似ているヒト種として行動した。しかし、人間はつくづく心の弱い生き物だった。
同じ魔物を狩る冒険者からは嫉妬される。
戦わない人間からは強さに怯えられる。
魔物から助けた筈だ。
盗賊に襲われたから返り討ちにしただけだ。
勿論、ありがとうと言われる。
助かった、と。
しかし、異世界だからか、良くも悪くも剥き出しの感情はキツい。
シュン達同じ勇者以外の人間と居るのがツラい……。
レイさんは、どうして居るのかな。
動物の姿の魔物を殺す。
化け物の姿の魔物を殺す。
人型の姿の魔物を殺す。
そして、盗賊を、人間を殺す。
殺して、稼いで、生きて、旅した。
俺達は想定より早く、魔界に最も近い都市。第33防衛都市と呼ばれる都市に来ていた。
「レイさん……」
「もう、魔界の近くに来ちゃったね」
「……もう、十年だ。縁が無かったんだろう」
「……もしかしたら」
「よそう」
俺達は昔より無口になった。けれど、四人の心はずっと通っていると思う。それでも、いまだにレイさんを思い出す。
そして、不健全だろうか。
俺はリンとナツと、シュンもリンとナツと、リンは俺とシュンと、ナツは俺とシュンと。そういう関係で、四人で家族だった。
リンとナツは子供も産んだ。黒目黒髪の俺達の子供は日本人そのもので大切な子供だ。紅い目が受け継がれなくて良かった。
貴族の支援を受け、大きい王都の孤児院に大金と共に預けて有るが。魔王と戦う目的が増えた。
魔王を封じると言う紅い結界は、毎日毎日見ている色と同じだった。
「私達の目、みたい」
「……ちゃんと通り抜けられる」
「本当に、この世界の人間は通り抜けられ無いのか?」
「確かめてみるか?」
「止めとけって。俺らと一緒ならここまで来れるだろうが、帰りで詰むだろ」
一度目は様子見。
魔界と呼ばれるだけあって、魔物は強かったけどまだ問題になるレベルじゃない。
それでも、この世界の人間にはキツいだろう。3百年前に比べて数は少なくなったらしいけど、強さは跳ね上がっているらしい。
最高ランク冒険者でも、パーティーで一体倒すのが確実って所。
俺達は1対1が望ましい。
「……魔界の魔物は強いね……。当初の目的通り結界の確認はしたし一回戻ろう」
その後も、何度か魔界を入ったり出たり。
魔界の魔物は強い分質が高い。素材は高く売れた。
ここに至って、俺達は勇者である事を好評した。
けれど、これは俺達の傲慢だろうか。
人間の嫉妬の感情ばかりが目につく。
俺達に群がる人間達は、きっと勇者の肩書きしかみていない。
思っていたよりも英雄と持て囃される事は煩わしかった。
それでも、俺達は後の世界の為に今、魔王を倒さなければならない。旅の間それをますます実感した。魔界の魔物は着実に強くなっている……。
「前は、「昔は、「歴史では、魔物被害はもっと……」」」
俺達はそんな言葉をよく聞いてきた。
「なあ。勇者様。オレ達も連れてってくれねぇか?少なくとも結界の元までは行ける実力は有る」
一応そう言う冒険者のグループ、20人を連れて魔界に行った事が有る。人が多ければ魔物も多く寄ってくるので、確かに実力は有ったが、俺達に劣る冒険者が居るのは効率が悪かった。それでも、長年魔界で活動してきた冒険者は10年しか冒険者をしていない俺達に無い知識もあった。
「……本当に通れないんだな」
「……本当に通れるのか」
俺と冒険者は同時に言った。紅い結界。これで、俺達が魔王を殺らなければならないのがはっきりした。
「……頼む。ゆっくりと、だが確実に魔界の魔物は強くなる。だが……!俺達はその元凶を前に何も出来なかった!どうか、魔王を、頼む……勇者様っ!」
魔界の魔物と戦う冒険者は、誰よりも魔王の脅威を確認していた。勇者だと言う俺達を試しても居たようだ。そして、最後に結界を通れる希望を目の当たりにした。
俺達は勇者。
魔王を倒す。
魔界の一部を縄張りとする風竜を倒した俺達は、結界の中心であり魔王の居場所に辿り着く。
俺達を出迎えたのは……
「久しぶりだね。勇者達」
俺達と同じ紅い目の……




