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ソレは若い人のカタチをしていた。

ソレは遥か以前から生きていた。

ソレは人に紛れて暮らしていた。

ソレは社会に疲れていた。


名前をレイ。

お伽噺の中では"賢者"とも呼ばれた。





「……だる」

全身真っ白な20程の男?が机に突っ伏してこぼす。

白い髪、白い肌に白衣を重ね、唯一瞳だけが赤い。ともすれば女にも見える華奢な体つき。それがレイである。


「お疲れ様です。レイ様」

そう言うのは、火人(ヒト)のメイド奴隷。紅茶を入れ、机の上を整理する。火人は土人(ドワーフ)に並んで手先が器用である。火人特有の燃えるような赤髪に赤金の目。火人は人族(土、風、水)の中でも数が多い。


机の上に並ぶのは、各属性魔石や、薬草、蒸留水、謎の物体。それから完成品。とある貴族に依頼されて作った魔法薬である。


レイは錬金術師として生計を立てていた。

それも、貴族から依頼を受ける程には高名な。

錬金術は一般に"卑金属を貴金属へ変える術"と認識されるが、正確には"物の質を引き上げる術"である。勿論相応の手間をかければ、ただの鉄を金に変える事は出来るし、ただの薬草汁を回復薬(ポーション)に引き上げる事も出来る。


質を引き上げるのに必要なのが、魔石だ。火魔石、風魔石、土魔石、水魔石。これを適切な分量で用い、術を行使する。魔石は質はともかく比較的簡単に得られる。魔法使いに魔力を固めて生成してもらえば良い。魔石の質すらも錬金術でどうにでもなる。


薬師、鍛冶師等、専門家にはコスパの面で劣るが、比較的何でも出来る万能職だった。知識量が物を言うが。

その点、長生きなレイにとって都合が良い職業であったが、同時に圧倒的な知識を持ったレイは早々に目をつけられた。それが、レイがだるだるしている要因でもある。


レイは知識は豊富だが、人間関係はまた別だった。知識としては知っている。だが、人間の欲望がどうにも理解できない。だから、毎回トラブルに見舞われるのだ。今回の依頼も半ば脅されて受けたようなもの。

死んだモノを蘇らせるなど、レイ以外無理だろう。しかも貴族は意外とケチくさい。


「依頼の"毛根蘇生薬"はもう届けますか?」


「いや……。期限は半年って聞いたからギリギリまで渡さなくて良い。"品質保持倉庫"に突っ込んどいて」

レイもなかなか強かだったらしい。もう数えきれない程生きていればいくら苦手でも対応は覚えるか。結構良い所の貴族なので、依頼を受けている間は他の依頼を断れる。ケチだとしても貴族は貴族。庶民なレイと奴隷が半年生きる分には前金が出た。


依頼を受けたのは1月前。ほぼほぼ素材を取り寄せる時間しかかからず依頼は達成された。依頼人には適当に、毛根とは言え蘇生薬は作るのが難しいだとか、素材を入手するのに時間がかかるだとか言って期限を伸ばしに伸ばした。


「……面倒事がお嫌いでしたら、もっと実力を隠す努力をなさってはいかがでしょうか」

「それこそ面倒だ。大体、今のボクが20歳の青年として生活してられるのは、各国の王族やら神殿、ギルドのお偉いさんのお蔭だからな」

下手をすれば不老の化け物として狙われかねないレイだったが、未だ一部の権力者からすれば"賢者"なのだ。お伽噺の中の出来事ではない。


一国では扱いきれない。

"賢者"は長い時の中で、知識も技術も武術、魔術だって得てきた。今でこそ、錬金術師をしているがその武力でも世界を容易に滅ぼせる。一説には、前文明、高度魔技術文明を滅ぼしたのは彼だとさえ言われている。


今回、レイに依頼を出したのは、王族とレイとの隠された繋がりを辛うじて察知出来る適度に能力が有り身分の高い人物だ。但し、その貴族はレイを王族が目をかける優秀な錬金術師としか思わなかったようだ。

出した依頼も悪かった。人に隠したい事(ハゲ)は誰しも有る。レイを刺激したくない者達をすり抜けて依頼が届いたのだった。


実際にはレイは平和主義者だ。怠惰とも言う。

日々、平凡に生きていればそれで良い。貴族とやり合うつもりも無ければ、基本的には力で物事を解決しようとはしない。それは更なる面倒になると知っているからだ。流石に、一つの文明を滅ぼす事態にもなれば学習する。レイ自身の痕跡を消す為に星の数程の魔法技術が消えた。


「では、誰も手出し出来ないように全てを公開なされば……」

「却下で。そもそも、誰とも関わらないなら誰も来れない場所に引っ込むさ」

ふと、レイはそれも良いかもしれない、と思い立った。

レイは街の喧騒は好きだ。不可解ながらも愉快な人間の心の動きを気に入って居る。長く生きすぎて磨耗した感情も、他人の表情を見て模倣するだけでも刺激となった。


しかし、たまには一人、真理の深淵へ潜っても良いだろう。レイは元々、深淵からの帰還者である。


「レイ様……」

「ん?どうした」

「……いえ……」


メイドは目を伏せた。

主が遠い存在なのは、知っていた。







レイは錬金術によって、自身の肉体を、精神を引き上げた。だから、もはや人間とは呼べず。人間に見えるのは、そう模倣しているだけである。

人間の真似を止め、独り考え込むレイの姿をメイドは垣間見る。


あらゆる表情は無く、あらゆる感情は無く、あらゆる雑念は無く。

自然と其処に存在する姿は、空気のように次の瞬間見失いそうで、大空のように圧倒的だ。

ルビーの瞳は何処までも澄んで、底が見えない程深い。


全て、完璧に白が阻むのに赤だけが入り口のようで内側に何が有るのか、何を考えているのか覗き込もうとした瞬間に思い出すのだ。ソレは入り口ではなく瞳であると。覗き込まれたのは果たしてどちらか。




「……まあ、今回も程々に生きるさ」

生きられるから生きる。レイはいつものようにそう考えた。メイドが死ぬまでは。

メイドはいつも、レイの人間の基準である。レイが家事をやりたがらないので、手っ取り早くメイド奴隷を買う。奴隷であるので口止めの上、事情は話すし、メイドに合わせて人間の振りをする。人間を越えたレイに姿は何の意味も持たない。青年の姿も、幼女の姿も、老人の姿も、全ては人間の真似事だ。

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