夕暮れはたまに曇り空
掌編小説です。一話完結です。
8月も終わりに近づき、鬼のような暑さも薄らいでいた。
「買い物いってくる!」
勢いよく玄関をとびだし、田んぼの脇を曲がったり進んだりする。
あまりにも空が暗いから、すこし立ち止まり、スマホで天気を確認した。
「夕方から曇り空が広がるでしょう」
その一文を見て、わたしはがっくりうなだれる。
どうしてこう、夏の空は気分屋なのだ?
入道雲はとりとめもないし、ときに大雨をもたらす。
でも、夏の雲は彩をも与える。
私は趣味でカメラをしているのだが、最近では、朝や夕暮れ時の景色を写真に収めることが多くなった。
ふたつは同じようで、全く違う趣を持っている。
朝は、いたずら好きな悪ガキ。夕は、しとやかな花びら。
後者にそんな印象を抱いたのはきっと、いま見ている空が曇っているからだ。
「傘、どこいったっけ?」
小雨に差されながら、バッグの中を探した。
取り出した折り畳み傘は、しっかりと雨粒を受け止めた。
徒歩10分の距離にあるスーパー、今日は何を買おうかな。
弟が好きなチキンカツでも作ってやろうかな。
アイツは食べ盛りだから、たらふく食わしてやらないと。
足元で跳ねる小雨は、冷たい感触だった。
どうしようもなく、ひとりになりたいときがある。
そんなときは手のひらを上に、雨粒を受け止めてみる。
「そっか、だから傘なんだ」
傘が雨から守ってくれたことに感動をいだく。
歩く道は、しっとり雨の匂い。
夏が終わる瞬間を、一枚の写真に収めた。