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第9話 人間たちとお話しよう

 


 突然彼らの目の前に現れた俺に対し、ザッ、と距離を取り戦闘態勢をとる4人。

 戦い慣れている感じはする。


 俺は両手をあげて、危害を与えるつもりはないですよというアピールをしながら話しかけた。


「こんにちは。人間の皆さん。俺はこの魔の森の長、銀竜に人間がここにきた場合の対応を任されている狼男です!」


 出来る限り穏やかににこやかに言ってみた。

 眉間にしわを寄せた、魔法剣士らしき男が応えた。


「銀竜の使いということか……私達と対話するつもりがあると?」


 警戒心マックスの様子だ。まぁそりゃそうか。


「そうです。話をしましょう。一応、魔の森には人間が入っちゃダメって事になってますしね?なぜ入ってきたのか聞かせて欲しいんです」


 ニコニコ言ってみたが、少し嫌味っぽかっただろうか……


「おい、どうする」

「話してみるしかないでしょう、油断はしないように」

「狼男1匹くらい楽勝だが、銀竜が出てくると厄介だからな」

「ええ、その通りです」


 ヒソヒソ喋ってるつもりだろうか?ものすごく良く聞こえてるけど。狼男はゲーム中では中堅レベルの魔物だ。それを楽勝と言うってことは、人間の中でもかなり腕が立つほうなんだろうな。


「立ったままってのも何だから、座って話そうか?」

「いえ、このままで。私はソトリア王国騎士、アレン・カーティス。同じく、ソトリア王国騎士ヴィクター・ブラウン。キース・アーチャー。

 王国魔法師団のサミュエル・クラーク」


 名前を呼ばれたものが俺に軽く目礼する。

 メインで応対している赤毛の魔法剣士がアレン、

 ガッシリした体格で、洋ゲーに出てきそうな茶色の短髪剣士がヴィクター、やや細身長身で、さっき聞く限りは無口っぽかった弓使いがキース、一番年長……40か50歳くらい?の魔法使いがサミュエル。


 うーん、名前覚えるの苦手なんだよなー忘れそうだ……


「わかった、俺はル、ルイー……だ」


 しまった偽名考えておけばよかった。うっかりルカと言いそうになって、誤魔化そうとつい某国民的アクションゲームの緑の弟の方の名前を口にしかけてしまった……


「ルルイー殿。まずは対話の機会をいただき感謝します」


 ルルイーって誰だよ!いや、もういいか、ルルイーで。狼男っぽさゼロだけど。


「我々はソトリア王国の人間ですが、決してこれまでの不可侵の約定を破りたかったわけではないのです。魔の森に武力をもって侵入するつもりはありません。ただ、先日あまりにも大きな、近隣に響き渡る轟音と強い光が確認され、何があったのか確認したかったのです」


 ごめんそれ俺です。


「あー、わざわざご足労いただいてお手数をおかけしました……えー、あれは、この森の新人がちょっと実験に失敗しまして……今後はあんなことは無いはずです」

「新人……?実験とはどのようなものでしょうか?」


 俺がちょっと竜になってブレス吐いてみたりライラを強化したりしていただけなんです!


「新しくこの魔の森に住む事になった竜がいまして。もともと住んでいた竜と仲良くなり、ちょっとはしゃいでしまったんですよ。ブレスの実験をしていたようですよ……」

「新しい竜がブレスの実験を…?新しい竜が来るというのはとても珍しい事なのでは?それに、ブレスを実験として行うなど聞いたことがありませんが……」

「えー、幼い竜は興奮するとうっかりブレスを吐いてしまうこともあるんですよ。なんども失敗して慣れて行くんです」

「……新しい竜は幼い竜なのですか?」

「いえ、えーと、もともと住んでいた竜がまだ子供で。とにかく、もうあんなことは起こらないように気をつけていますので大丈夫です」

「そうですか……」


 ラスボス黄金竜は幼い竜というのには無理があるからなぁ……中身は赤ちゃんなんだけど……いや俺が中身だとすると赤ちゃんでも無いのか……?

 でも今の本来の身体は赤ちゃんだし……


「……実は、もう一つ確認したいことがあります。先日、こちらに我が国の王子が連れてこられた可能性があるのです」


 えっ。


「魔の森は不可侵と我が国では周知されておりました。ですが愚か者が王子を連れ去り、この魔の森に足を踏み入れた可能性があります。もしや、この度の爆音や光は、その事に気付かれた銀竜の警告なのではと……」


 そう来るかー。まぁたしかにタイミングがピッタリすぎたのか。ある意味俺のせいだから、当たらずとも遠からずというか、うーん。


「先ほども言った通り、爆音や光ついてはただの失敗で、警告の意図はありません」

「それでは、王子は魔の森には立ち入っていないという事でしょうか?王子はソトリア王国の始祖である神竜の血を強く宿し、金髪金眼、腕には鱗に似た印があられます」


 うーーーーん。どうしようかな。

 ここで、王子なんか来てない、と言い張って帰ってもらい、引き続き不可侵を貫くか。それとも……もしかしてここで王子、つまり俺だけど、王子を引き渡してともに王城へということも出来るのか?


 この機会を逃すと、堂々と王子として王城に帰ることはなかなか難しいだろう。

 ライラとの生活も軌道に乗ってきたし、王様には別になりたくないし、王子の地位そのものにも別に興味はない。むしろ不自由そうでしかないのでぜひ辞退したい。しかしそれで今後の展開はどうなるんだろう。

 このまま俺が王城にはいかず、この森で育つとする。それはいい。けど、いずれゲームシナリオ通りに起きるかもしれないソトリアの魔の森侵攻は防ぎたい。それはこの魔の森にいるだけでは防ぎきれないだろう。いや物理的に負けなければ防げるかもしれないが、そもそも侵攻させないようにしたいのだ。


 今の俺はさまざまな姿になることができるという利点がある。だからもしも後々必要になれば別の姿で王城に入り込むことも出来るかもしれない。しかし権力の中心に入り込むのはなかなか難しいだろう。もし王子として戻れば、少なくともソトリア王国の中心部の情報は集めやすいかもしれない。


 王子として戻るメリットは、王国の内情が探りやすいこと。それから、ゲームシナリオとは明らかに違う道であること。


 デメリットは、窮屈そうだし、自由に動けないし、赤子からある程度育つまで動けないし、ライラとの楽し……必要な能力実験も出来なくなるし、つまらないだろうなー。それにそもそも王弟一派に命を狙われているのは変わらないだろう、王弟が失脚したわけでなければ。嫌だなーー。

 俺が分裂できたらいいのになー。


 ……ん?分裂?


「ルルイー殿、どうかされましたか?」


 長く黙っていたので不審がられてしまった。

 ここで全く心当たりがないというのも怪しいかもしれない。


「その件については、俺は詳しくない。詳しいやつに確認したほうがいいだろう。この森の番犬であるガルム族に確認を取ろう。この森に異種族が入った場合はまず彼らが気づく。近くにいるので、少し行って聞いてくる。暫くこのあたりで待っていてくれないか?そう長くは待たせない」

「わかりました、お待ちしています」

「では、しばし待たれよ」


 話がついたので、サッと彼らの前から移動する。もちろん音速を超えないようには注意しながらな!


 彼らがおかしなことをしないか気配は探りつつ、待機しているライラたちの元へ向かう。


「ルカ!どうだったの?」

「ライラ、大丈夫だ。無事に話ができた。彼らはどうやら、俺がこの森にいるのを銀竜が気づき怒っているんじゃないかと心配しているみたいだ」

「えっ?!ルカのこと?まさかルカを連れて行こうとしてるんじゃないよね?」

「おそらく、俺がいるとわかったら、連れて行くつもりなんじゃないかな……」

「えええっ、やだ、ヤダヤダ!ルカ、行っちゃうの?!」

「ライラ落ち着いて、大丈夫、ずっと赤ちゃんでいるなんて辛いし、そのつもりはないんだけど。ただちょっと試してみて、うまく行ったら出来るかもしれない」

「試す?」

「そう、今から試すから、ちょっと待ってて。ビックリしてブレス出したりしないようにな」

「な、何するの……?」

「ガ、カルル……?」


 俺はデバッグモードを開き、さっき思いついたことを試してみる。


 ゲームのデバッグ中、パーティーメンバーを好きなように変更してテストプレイ出来る設定がある。今いるメンバーやゲームの流れを無視して好きなキャラクターをパーティーに加えることができるのだ。今俺のパーティーメンバーは俺とライラだ。だが、まだパーティーメンバー枠に空きはある。その空いている3人目のメンバーとして、俺の仮の姿である魔王の若者擬態モデルを設定してみた。


 俺とライラの後ろあたりに、魔王の若者モデルが現れた!

 いや、モデルではない、ちゃんと生身っぽい感じで呼吸している。よし、室内や家具のモデルが出せたからもしかすると出せるかもと思ったけど、本当にキャラクターも出せるとは……!


 かぱっと開けたライラの口をそっと手で閉じつつ(ブレス出ると危ないからな……)次の操作、プレイヤーキャラクターの切り替えを行う。

 これは、パーティーメンバーのなかでプレイヤーが操作するキャラクターを切り替えることができる設定だ。ライラを選ぶことはできなかったが、魔王若者モデルを選択することはできた。

 つまりどうなるかというと、俺の視点が魔王若者モデルに切り替わり、待機モーション……というか普通に立っている状態になった狼男が目の前に見える。プレイヤー視点切り替え出来た!


 これで、狼男モデルからキャラクターモデル表示をオフにすると……狼男が、赤子状態の俺に切り替わった!


「え?え?ルカが2人になった?なにこれ!」

「2人同時には動かせないみたいだな……ちょっとライラ、こっちの俺を持って俺が見えないくらい離れてみて」

「え、ええ?いいけど、ええー?」


 赤子な俺を抱っこして離れたところに移動したライラが視界に入らないことを確認して、再びプレイヤーキャラクターを赤子な俺に切り替える。


 と、目の前に俺を抱っこしてくれているライラが見えた。抱っこされている感触も普通にある。


「うまく行ったよライラ、また俺のところに戻ってくれる?」

「ル、ルカ?!ほんとに分裂したの?!」

「同時には動けないんだけど、そんな感じかな……?」


 再びプレイヤー切り替え、若者魔王に戻す。

 ライラが赤子な俺を抱えて戻ってきた。


「これで、この赤子な俺を王国に連れて帰ってもらって、王国の内情を探る。

 赤ちゃんだから長時間寝ていてもおかしくないだろうから、こっちの俺と切り替えて行動できる。

 ライラと一緒に暮らしながら、王国の様子もわかるってわけだ!良い案じゃないか?」

「ええ?まぁ、私はルカと離れないなら良いけど……どうなってるの……?」

「ガ……ガル……意味がわからないガル……こんなことができるなんて聞いたことがないガル……」


 なかなか良い案が実行できそうでよかった!

 ……よな?良い案だよな?

 ……上手くいかなかったら、それはその時だ!また何とかすれば良いんだ!

 とりあえず新しく出した3人目パーティーメンバーの方の俺もステータスカンストしておけば、簡単に死にはしないだろう。

 よし……実験不足な感じはものすごくするが、やってみよう……!


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