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第8話 人間が魔の森にやってきた

 

 さて、うっかりブレスの日から数日経った。

 魔の森から離れて、できるだけ何もない荒野を探して、そこでライラと身体を動かしたり魔法を使ってみたり色々試した。

 その結果、ちょっと荒野がマジで月面かな?みたいなボコボコ感ある土地になったりしたけど、概ね身体を制御できるようになった、気がする。とりあえず暴走はしない程度に。俺もライラも。


 ちなみに俺はラスボス黒眼黒髪の若者人間モデルと、黄金竜モデルの両方で慣らしてみた。

 ライラと一緒にいると何かと竜形態になる事がありそうだから、咄嗟に変化して対応できるようにしておいた方が良いだろう。


 遠方の荒野への移動は、一度行ってその場所でデバッグモードからセーブすることで位置座標を記録、次回からはデバッグモードの位置設定で、その位置に移動してみたところ、問題なく移動できた。この世界でも位置座標が取れるっていうのは一体何なんだろうか。

 セーブしていない位置に移動するのは危険な気ががするのでやっていない。岩の中とかに移動したらどうなるのか怖いからな!

 数値情報をいくつか集めて、かなりの上空に設定するなら行ったことのない遠方にも移動できるかもしれないが、まだそんなに位置の数値情報が集まっていないため、どう設定したらいいかわからない。


 そして、人間の件だ。忘れてはいないぞ!

 おそらくブレスを見た近隣の人間はちょっと引いているだろう……いや、恐怖を覚えているかもしれない。とくにライラの暴走を相殺した時には視界が真っ白になるくらい光ってたし。

 それをつけて、近くの国は何か動くだろう。

 少なくとも、何が起きているのか様子を見ようとはするはずだ。急に攻め込まれる可能性は低い……と思う。あんなブレスを吐く様を見て、よっしゃ倒そうぜ楽勝だぜと思う訳ない……と思うんだけど、どうだろう。直接見たわけでもないから大したことないと判断するかもしれないが。


 とにかく、何にせよ魔の森の現状を調べようとはするだろう。その時にまず接触したい。とりあえず人間の国の方針を探りたいし。

 どうすれば良いか考えたのだが、自分でせっせと探索しても魔の森全域をパトロール出来るわけでもないし、そんな時にちょうどいい魔法もない。

 マップ機能では、一応魔物と人間は表示されるが、いつもいつもマップ開いて眺めてるわけでもないし。


 というわけで、ここは人海戦術だ。

 いや人じゃないけど。

 俺もお世話になった魔の森の番犬ガルムさん達にお願いすることにした。人間が魔の森に入ってきたら位置を把握しつつ、速やかに俺かライラに知らせてくれるようにと。

 ライラは彼らと結構仲がいいらしく、かつ俺が黄金竜モデルでお願いしてみたところ速やかに了承してくれた。地面に完全に伏せて震えていたが、まぁ俺も初めて会った時に放り投げられて怖かったから許してもらおう。


 俺とライラはたいてい、住処である洞窟にいるか、この荒野でいろいろ実験している。

 洞窟にいる時はいいが、荒野にいる時に連絡手段がない。ちょうどいい魔法もない。結構な距離があるので走って来てもらうのは無茶だ。

 なので、荒野に着ても丸一日居るのではなく、1〜2時間おきの休憩のタイミングで洞窟に戻っている。水とかもあるし。

 そうそう、先日やってみたデバッグモードでのアイテム全取得のおかげで、洞窟生活はかなり充実した。食べ物にはもう困らない!

 しかも、もう1つ気づいてしまった機能がデバッグモードにはあるのだ……それは……背景モデルビューワー!ばばーん!

 このババーン感、伝われ!


 背景モデル……それはゲーム中に出てくる全ての3D背景のデータが確認できるモードだ。

 それを起動したら、どうなったと思う?


 とりあえず、洞窟の、使っていない、広めのスペースで、小さめの民家の室内を表示してみた。

 そうしたら、足元に民家の室内が現れた!

 さっきから室内室内と言っているが、外壁はなく室内部分だけだ。何故なら外壁は別のデータだからだ!

 洞窟の中に唐突に民家の室内だけが置かれており、本来外側の壁があるべきところは、室内と壁と同じものが裏面にもある感じになっている。

 変ではあるが、洞窟の中なので別に耐久性は必要ない。屋根もなくても良い。柔らかいベッド、テーブルと椅子、キッチンがあれば最高だ!


 そんな訳で背景ビューワーを眺めてはいい感じの室内データを出したり、椅子だけとって消したり(驚きだけど椅子だけ取ってからモデル表示を消したら椅子だけ残せた。便利だ!)して、居心地の良いマイルームを作り上げた。

 その横にはたくさんの布団やクッションを敷き詰めてライラのソファも用意してみた。気に入ったようで、よく転がって寛いでいる。

 ベッドも、ライラが寂しそうにしていたので、キングサイズのベッドを置いて、ライラと赤子だったり若者だったりする俺で一緒に寝ている。あ、たまに赤子に戻ったりもしている。動けないけど、一応本来の姿だから、ぜんぜん戻らずにいてもしも戻れなくなったら怖いし。


 まあそんな訳で、今日も荒野で遊んだ……もとい練習した俺とライラが洞窟に戻ってくると、番犬ガルムが待っていた。


「お待ちしておりましたガル。人間が先程、魔の森に入りましたガル。仲間が密かに後を追っています、今から案内しましょうガルル?」

「着たのか!よし、案内してくれ。ライラも一緒に行こう」

「うん、行くよ!」


 ちなみに番犬ガルムとも意思疎通魔法を使っているのだが、俺のイメージなのか語尾にガル付きで聞こえる。まじめに話してくれているんだけど、ちょっと笑いそうになるのは秘密だ。


 駆け出した番犬ガルムについていく。

 俺は若者モデル、ライラは子供の竜だが、カンストしたステータスの力か障害物の多い森の中を走っても全くガルムについていくのに問題ない。なんなら普通に歩いているくらいの感覚だけど、追い抜かないように気をつけているくらいだ。


 ガルムは鼻がきく。特に同族同士は、多少離れてあても位置がわかるようで、迷いなく進んでいく。


「あそこですガル。あの人間達が今朝入り込み、森の中をウロウロしていますガル」

 ガルムの視線の先を見ると、たしかに人間がいる。まだ距離はかなりあるので障害物で見えにくいが、マップ表示も一緒に確認したところ、4人。


 目視できる限りでは、剣を持った男が2人、弓を持った男、魔法使いらしき杖を持った男、という構成だ。一番年上なのは魔法使いかな。見た感じ所属を表すような紋章などは身につけていないようだし…


 さて、どうしようかな?

 無力化して森の外にポイっと捨てる、とかは実は結構簡単にできそうではある。

 しかしまた別の人間がやってくる可能性がある。

 何度も何度も来られても困るし、何をしに来たのかがわからないと対応を考えにくい。

 うん、まずは普通に挨拶でもして、何しに来たのか聞いてみるか。

 普通の、いや、強者とされる人間でも、今の俺とライラに大抵のことでは擦り傷もつけられないだろうし。いや油断大敵か。もしかすると万が一、人間はメニュー表示もデバッグモードも標準搭載です!なんてことがあるかもしれないし……いや無いとは思うが……警戒するに越したことはないよな!


「よし、俺が先に行って話してくる。ライラとガルムはここで待ってて。相手と話して、呼べそうだったら呼ぶから。いいか?」

「1人で行くの?大丈夫……だとは思うけど……心配……でもないんだけど……気をつけてね」

「ガルル!」

「うん、じゃあ行ってくるから、待ってて」


 とりあえずもう少し近くまで行って、こっそり会話でも聞いてみるかな?


 念には念を入れて、防御アップ、攻撃力アップ、素早さアップなどの魔法をかけてみた。おかげで、やっと慣れたばかりの力や素早さがアップしたのだが、その影響に気づかず、うっかり駆け出してしまった。そして、彼らにかなり近づいた時。


 ドォン!


 俺はうっかり音速を超えてしまったらしく、爆発音と衝撃波が生まれた。

 そしてその衝撃波によって、近くにいた彼らは全員、気絶してしまった。


 あ……あ……アホかぁー!!俺はアホかー!いやマジで何してんだ俺……

 身体を慣らす練習の時もうっかり全力で走ったら音速を超えて、あ、これヤバそうと思っていたのに……!しまったさっき素早さアップしたから、思ったより速度出てたんだ……!!


 近づいて会話を聞いてみよう、じゃねーよ!

 どうしようかこの状況……

 倒れ臥す4人の男たちを眺めつつ、腕を組んでうーん…と考えてみる。ダメだな。良い案が思いつかない……


 うーん、いいや。

 とりあえず当初の予定通り様子を伺ってみよう。

 手近な木の上にでも登って、水でもかけたら起きるんじゃないかなーなんて……

 いかん、思考が雑になってるな。

 だいたい俺は肉体派じゃないんだよ!深夜まで毎日ゲーム作って喜んでるような男だぞ!成人してからほとんど走ったり、ましてや戦ったりなんかしたことないぞ!うまく身体動かせる訳ないだろー!


 はあ。言い訳しても虚しいな。これから鍛えよう。

 ため息をついて、近くの大きな木の上に乗る。

 ヒョイっと軽くジャンプすると木の上が見える程度に飛べるこの身体凄いよなほんと。どうなってんだ。

 そして彼らの上にいい感じでかかるように、出来るだけ位置を調整しつつ、水魔法を発動する。


 バッシャーン!


 よし今度はそこそこ調整できたぞ!

 これで起きてくれ!

 ……あっ。うつ伏せのやつ、水で窒息したりしないよな?だから何で後から気づくんだよ俺……もっと考えてから行動しろよ……


 心配しつつ見守っていると、なんとか気絶から復活したらしく、ポツポツと起き始めた。良かった……


「……つめて……え?何があったんだ?気絶してたのかオレら?」

「そのようですね……近くからものすごい爆発音がしたような……耳が少し変ですね。回復しておきましょうか、鼓膜が破れているかもしれません」

「うげぇ、本当だ、片耳聞き取りづらいな…頼むわ」


 回復魔法を使う彼らをみて本当に申し訳ないと思う。ほんとごめん。回復魔法あってよかった。剣士のうちの1人は魔法剣士なのだろうか?赤毛のやや中性的な見た目の男と魔法使いが回復魔法をかけている。あーほんと悪いことしたなぁ。人間を怪我させると罪悪感感じるなぁ……


「濡れている服も乾かしたいし、少し休憩しようぜ」

「そうですね、でもこの場所は危険なのでは?先ほど何があったのかわかりませんし……」

「じゃあ少し移動して、周囲確認して休憩な」


 移動する彼らの上の木をヒョイヒョイ飛んでついていく。少し開けた木陰で休憩する事にしたようだ。周囲確認しているが、高めの木の上にいる俺は気づかれなかった。


「さっきのは何だったんだろうな、俺も爆発音聞いたぜ」

「全員が同時に気絶したのも妙です。ですが、魔の森の魔物のせいにしては、全員が無事目覚めたのもおかしい。時間もあまり経っていないようですし……」

「竜の威嚇攻撃とか?」

「可能性はありますが……あんなにピンポイントで威嚇してそのまま去るのも意図がつかめませんね」


 ごめん、意図なく気絶させてごめん……

 ダメだすげー出て行きづらい……どうしようかな……


「魔の森に、銀竜の他にも強い魔物がいるのか?」

「……竜は何頭か目撃されている。……あとは森の縁まで近づくことのあるガルム、小さい魔物くらいだ……奥に住む魔物は不明……」

「そっか、じゃあわっかんねーな!」

「自然に発生したガスが何らかのきっかけで爆発することも、なくは無いかもしれませんが……」


 ご、ごめん、混乱させてごめん。

 あーどうしようかなー。

 もう出て行っちゃうか?ものすごい不審人物だけど……いやそもそも不可侵領域である魔の森にいる人間ってだけで怪しいか。うーん……


 そうだ!喋れる魔物のモデル使って出て行ったらどうだろう。あえて人間で出ていく必要は無いかもしれない。人間がいるよりおかしくはないかもしれない、うん。


 竜だと威圧感出しすぎだし喋ると不自然だ。

 何がいいかな……うーん。ゲーム中の荒廃したこの魔の森にいる、狼男にしてみるか。今はいないけど、森の荒廃がきっかけでガルムから進化したって設定だったし。魔の森にいても変ではないだろう。よし!


 モデルビューワーから狼男を選択。

 俺は彼らに話しかけるべく、木の上から地面に降り立った。


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