第6話 スキルとモデルビューワー
よし、次の項目行ってみよう!
スキル、オールオープン!
ポチ。
通常メニューのスキル欄を見てみると……
おお、全部使えるようになっている!
これで錬金でレアアイテムも作れるし、レア装備も作れるし、……って、ゲーム中に出てくるアイテムもう全部さっき入手したんだったー!
錬金でできることはないな……いや待てよ。別にゲーム中に出てきたものじゃなくても、何か新しく出来るかもしれないよな。試してみても良いかも。
まぁそれは、おいおいやってみるとして…
他のスキルは、だいたい攻撃系の技とかだけど。
武器に依存したものは……赤子の俺では剣とか持てなかったし……無理か。
格闘系の技は使えるかもしれないが。浮遊魔法でフヨフヨ飛んでいって相手に近づいて?結構無理がある感じするなぁ……
だいたい、赤子っていうのが無理あるんだよな。
動けないし。浮遊魔法で浮かんでもそんな早くは移動できないし。変身魔法なんて無いしなぁ……いや、ラスボスな俺は竜化するけど、うーん……竜化してみるか?しかしもっと手っ取り早く大人になれないものか……
……あ。
思いついて、デバッグモードの項目を探す。
あった。モデルビューワー!
これは、ゲーム中に出てくる全てのキャラクターの3Dモデルを切り替えて表示できるモードで、さらにここで選択したキャラをゲーム内のプレイヤーキャラクターとして表示上だけ使うことが出来た。
基本はキャラモデルの確認用だったけど…
もしかして……俺の身体、見た目だけでも変更できたりして……
モデルビューワーのメニューを選択。と。
ポチポチ選択していくと……
どわあぁ!
いきなり視点が変わった。
一番はじめに表示されるモデルは主人公である勇者のモデルだ。このサイズ感、理想的な体格の少年、いや青年?だ。自分で顔が見えないが、デフォルトの見慣れた衣装といい、手足の筋肉質な感じといい…多分勇者の身体だ。
ピギャ……?! とライラが絶句しているが、ごめん、後で説明するから!説明…できるかな?俺も何故こんなことができるのかの説明はできないけどな!
チェック時に馴染んだ感覚でキャラクター切り替えを試みてみる。
パッ、パッ、と一瞬で切り替わる。変わるたびに目線も身体感覚も変わってものすごく妙な感じはするが、体を動かすこと自体に不自由はない。
問題なくキャラクター切り替えが出来るようだ。
え。じゃあ赤子じゃない身体で生活できるってことか!これは嬉しい!ものすっっっごく不便だったからな!なぜもっと早く気がつかなかったんだろう!
いや、これに時間制限があるとか、戻れなくなるとかいうリスクないとは限らないけど……
あれ。もしかして。
モデルビューワーには、ゲーム内に登場する全てのキャラクターモデルがある。つまり。
ゲームの主要キャラクター以外にも、町を歩くモブとか、王様とか、さらには敵として出てくるモンスターもあれば、ラスボスである俺も、その竜化形態もある。
もしかしてそれらも選べる……?
好奇心が抑えられず、いやこういう検証も必要だしと言い訳しつつ、全部試した。結果。全部使えた。
町のモブにも、勇者の仲間にも、王様にもスライムにもなれた。通常ラスボスモード(人間)にも、竜化形態にも変更できた。
竜化形態は黄金の竜だ。しかし血まみれでおどろおどろしい瘴気を撒き散らしている。
「ちょっと威圧感強すぎだろこれ…」
「ル、ルカなの?さっきから一体何してるの?岩を壊すし、見た目もどんどん変わって、その竜の姿は何……?私よりずっと大きい竜になるなんて!金色でかっこいいし!」
「あ、ごめんライラ、ちょっと色々実験してたんだ……ってあれ?!普通に会話できてる!何時もは鳴き声に乗せて思念が聞こえるのに!いや、今も鳴き声ではあるのか…ものすごく自然に会話できるだけで…」
「竜同士の会話は、鳴き声に直接魔力をのせて意思を伝えるから、人間と竜との会話よりスムーズに伝わるみたいだね」
「へー、なるほどー。なんかライラの喋り方もしっかりして聞こえるな。いつも意思疎通の魔法で感じ取れるのはもっとキャピキャピした幼い感じの言葉だけど…」
「そ、そうなの?!私…竜としてはまだ若いけど、しっかりしてる方なんだよ!多分…」
「そっか、思念だけだと意訳されちゃうのかな?それとも俺のイメージの問題かな。でもこうやって普通に会話できて、嬉しいよライラ!」
「!う、うん、私もうれしい!ねえ、ルカは人間じゃなくて竜になったの?もともと竜の気配は感じてたけど…」
「いや、竜になったわけじゃないんだ。これは今見た目だけ竜になったり、色々変えられるってわかったんだけど、中身とか能力は変わってない。竜じゃないと使えない技とかはあるだろうけど…」
そう、見た目が変わっただけで、能力まで変わったわけではないようだ。ただ、竜のブレスなんかの、さっきスキルとしてオープンしても人間では使えなかった技は、……使えるようになったようだ。
ちょっと空を見上げて、ブレス選択。ポチっと……
ゴバアァァァァァ!
ドシャァァ!じゅわあぁぁぁぁぁぁぁ…
ゴオォォオォオォ!
ポカーン。
ライラと2人……いや2匹?で呆けてしまった。
ちょっとテスト気分で空に向けてブレスを吐いてみた。光と熱がメインの、黄金竜の通常ブレス。
結果、ものすごい轟音とともに空に向けて吐き出されたブレスが、全く触れてもいない周囲の岩を壊し、木を焼き、水たまりを蒸発させ……やばい!山火事になる!いや森火事?とにかく消火だ!!
慌てた俺はモデルを切り替えて、水の竜に変化。
使えるようになった水系のブレスを吐きまくって消火にはげんだ。
結果、まあ、なんとか火は消えた。無茶だなこの威力!流石ラスボスの最終形態!リアルだとここまで影響がデカイとは……
とりあえず、これはしばらく封印しよう。環境破壊が過ぎるし……後始末も大変だし……
なんとなく黄金竜に戻って、しばし呆然としていると、足元に大きな影が落ちた。この形はーーまるで翼を広げた巨大な竜のようなーー
見上げると、銀竜がいた。
悠然と音もなく飛び、目の前にゆっくりと着地した。
こ、こいつは魔の森のボスである銀竜じゃないか?!これまでスルーしていたが、来たか……!
なんで急に現れたんだ?!
って、あれか、今のブレスのせいかー!!
そりゃそうだよな、自分の縄張りに見知らぬ竜が突然現れてブレスを放ったら、喧嘩売ってるのかって感じだよな!しまったー!しかもまだラスボス竜化の黄金竜状態だし!いや赤ちゃんよりおかしくはないかも知れないけど!
内心慌てていると、ライラが先に銀竜に話しかけた。
「父さん、ルカは怪しい竜じゃないよ!私の大切な……友達なの!さっきまで人間の赤ちゃんだったんだけど、えっと、なぜか急に竜になってブレスを試してみただけで……」
父さん?!
え、銀竜ってライラの父親なのか?そしてその説明は怪しい以外のなにものでもないけども!気持ちはありがたいけどどうなんだ?!
「……友達か」
「そう!だから大丈夫だから!」
ライラ!それ、大丈夫じゃない感じしかしないぞ!俺もフォローしなければ!
「……はじめまして、ルカといいます。先ほどのブレスは決して敵対行動ではありません、うっかり……ブレスを試してみたら、予想しない威力だっただけなんです。それに、本当は俺は竜でもなくて人間なんです。正確にはまだ0歳の人間なんですが……訳あって姿を変えることができて……ちょっと竜にもなれたので、ブレスをつい……試してみまして……お騒がせいたしました……」
ダメだ!怪しさしかない!
ええい!
「本当はこれくらいの赤子なんです」
元の姿、赤子状態に戻ってみる。
ほーらこんなに無害な存在なんですよ!
さっきのラスボス黄金竜の姿は仮の姿なんで!
……だめだ、怪しさが拭えない!
銀竜は慌てる俺をじっと見つめている。
気まずい!
そしてこんな展開は想像していなかったから、銀竜に対してどういう対応をするかも考えていなかった。しかしライラの父だというのなら、敵対したくはないな。
赤子の俺を見つめつつ、銀竜は口を開いた。
「ルカと言ったか。そなた、ソトリア王国の王家のものであろう。その黄金竜の姿は、彼の国の始祖である神竜と酷似しておる。数日前に小物が入り込んだことは気づいておったが、まさか王家の、先祖返りの神竜の子が居たとは気づかなんだ」
「そうです。俺はソトリア王国の王子です。ただ、王位継承争いのために攫われてこの森に捨て置かれました。そこをライラが拾って助けてくれたのです。俺自身はこの森の住人である魔物や魔族に敵対するつもりはありません。王国に戻るあてもありません。なので、ライラと一緒にこのまま暮らせたらと思っています」
「ル、ルカぁ!私も!私もルカと一緒に暮らすから!いいでしょう?!私のことなんていつも気にしてないじゃない!父さんがなんて言っても私はルカと一緒だから!」
ライラ、気持ちは嬉しいんだけど、それ銀竜パパ泣いちゃわないの?!っていうかそんなに放置されてたのか?
訴えるライラを見て、チラリと俺を見た銀竜は、特に予備動作もなく白い炎のブレスを俺に向けて放った。
咄嗟に赤子からラスボス黄金竜モデルに変化する。いくら保全魔法がかかっていても竜のブレスに耐えきれるかは不明だし、何より怖いからな!
ラスボス黄金竜状態ではかなりの熱も問題にならない。ブレスを受け止めても無傷だった。……周囲の木々は一瞬で消滅したり燃えたりしているが。あ、危ないなこの銀竜!何するんだ!
睨み付けると、銀竜は何事もなかったかのようにライラを見た。
「……わかった。あまり騒ぎを起こさぬように。……何か困ったことがあれば、我を訪ねるが良い」
おお、認められた……のか?見逃されたのか?
今のは竜的には力試しだったのか挨拶的なものだったのか……
そのまま飛び去る銀竜を見送って、ライラを見てホッと息をついた。
むやみにブレスとか吐くものではないな。うん。もう少し気をつけて実験しよう……
銀竜に認められて安堵していた俺は気づいていなかった。天高く放ったブレスが、人間の国から……隣接するソトリア王国からどう見えるかということに。