ロリババア魔法使い、ベニシア
ロリババア魔法使いこと、ゲームでの名前はベニシア・マロウ。
年齢不詳。見た目は、長くてまっすぐな白髪、赤い目、白い肌に黒いゴスロリ服というベタながらも神秘的な上品さが感じられる。喋り方はお婆さんなのだが。ちなみに声は可愛い。
使用する杖も黒に赤い魔石をはめ込んでいてなかなか統一感ある。見た目と、さっき聞いた喋り方はゲームキャラと同じだな。
ステータスを見ようとしたが、表示されない。もしかして、ステータスを隠す能力を持っているのかもしれない。前にもいたな、ステータスが見えない奴。
「何とか言ったらどうなのじゃ!人に化けて何を企んでおる!」
「あ、ごめん、ちょっと考え事してて」
「お、お主……!」
「初めまして。俺は一応人間のつもりだし、突然攻撃魔法を放っておいて酷い言い草だな?」
少し近づいて表情を伺うと、ぎゅっと唇を噛み睨みつけてくる。
「街中であんなに強い攻撃魔法を放つっていうのもどうかと思うし」
「わ、ワシは絶対に狙いを外したりせん!」
「いや、俺が避けるかもしれないし、魔法を跳ね返したりするかもしれないだろ」
「そ、それは……」
「少し話をしようか。一緒に食事でもどうかな?俺たちこれから昼飯食べようとしてたんだ」
ちなみに、一応生活費は王子のお小遣いとして貰ってきた。お小遣いって……しかし、デバッグモードで出したお金がどうなるかまだ実験中なんだよな。消費アイテムなんかは、すぐ効果が出るものだしすぐ使う分には良いんだけどなぁ。
「し、食事……ワシを餌付けでもするつもりか?!騙されんぞ!お主ら一体……」
ぐううう。
なかなか大きな音で腹が鳴る音が聞こえてきた。
「……食事行こうか」
「ぐぬぬ……金がないのじゃ」
「大丈夫、奢るよ」
「ぐうぅ……致し方ない、頼む……」
とりあえず了承をとったところで、ライラが腕にしがみついてきた。
「ライラ」
「ルカ、この人……母さんを連れて行った、人間だよ」
「そうか、わかった。ありがとうライラ。その話をしっかり聞こうな」
「うん……」
とんとん、とライラの肩を叩く。
「ッチ、ワシがこんなに苦労しておるというのに、若いもんはこれだから……!破廉恥じゃぞ!娘さん、まだ若いんじゃから、慎みを持って離れよ!」
「急になんだよ……」
突然怒り出したベニシア・マロウ(推定)を連れて、大通りにあった、テラスのある明るい店に入り、注文する。
「さて、話をしよう。まずは自己紹介かな。俺はルカ。彼女はライラ。冒険者になるために、依頼を達成すべく旅している途中だ」
「……ワシは、ベニシア・マロウ。魔法使いじゃ。以前は薬屋のようなことをしていたんじゃが、事情があって今は旅をしておる」
「俺たちに突然攻撃魔法を放ったのは何故だ?」
「それは……其方らが、人間ではないことがわかったからじゃ」
「人間ではないって、なんでそんなに断言するんだ?俺は人間のつもりだけど?」
ライラは竜だけど。
俺もまぁ半分くらい竜かもしれないけど。
そういう事なのか?しかし竜だったら攻撃するってのも変な話だ。
「人間がそんなに異常な魔力を持っているはずがない」
「魔力か……わかるのか?」
「わからぬと思うのか、そんなに異常に魔力を蓄えておるくせに。普通の人間には分からぬかもしれんが、ワシの目は特別なのじゃ。精霊の宿る精霊眼であるからの」
「精霊眼……」
ゲームでは魔法使いを鍛える役目をしていたベニシアだが、何かと見透かしたような言動をするキャラだった。精霊眼というのも、サラッと設定にのせた気がする。だが、プレイヤーキャラクターでは無いので、精霊眼について深い設定があったわけではない。
「精霊眼って何だ?」
「ふん、精霊が宿る眼だというておるだろうが!」
……ベニシアも詳細は知らないと見た。
「じゃあ、その精霊眼で魔力が高いことがわかったとして、なんで攻撃した?魔力が高いからってそれだけで攻撃するってのも変な話だろ」
「そ、それは……お主らの方が知っておるのではないのか?!」
「……何を?」
「ワシの仲間を!お前たちがどうにかしたのではないのか……?」
はじめは勢いこんでいたが、だんだん少し自信なさげに声が小さくなってきた。
「旅の仲間って?」
「……知らぬのか、お前たち、その魔力で無関係だと……?」
「とりあえず、俺はベニシアの仲間とやらに会ったことはないと思うけど」
「ぐ、ぐ、ぐ………それでは、どこにいるのじゃ……ワシの仲間は……」
ベニシアがうつむき、料理が運ばれてきた。
「とりあえず食べよう、腹減ってるんだろ?」
「ぐ、ぐぬう……」
なかなか美味しい。
少し話そうかと思ったが、ふと見るとベニシアがすごい速さで丁寧に食べていたので、少し落ち着くのを待ってみる。
「ふう……満腹じゃ!」
「お茶でも頼もうか」
「それは良いのう!」
落ち着いたようなので話を切り出す。
「俺は、実はベニシアたちを探していたんだ。正確には、一緒にいるという竜を探している」
ぶふ、と飲みかけたお茶を吹きそうになるベニシア。
「な、なんじゃと……お主まさか、竜の素材を求めて……いやまて、やはりその魔力、それはシャーリーをどうにかしたのではあるまいな!」
「落ち着けって!ライラ、シャーリーって……」
「うん、わたしの母さんの名前だよ」
「そうか、当たりだったな」
「母さんじゃと?」
キョトンとした表情でライラを見るベニシア。
「ベニシア、今、シャーリーは何処にいるんだ?」
「それはこっちが聞きたいわい!」
そんな気はしていたのだが。やっぱりそうなのか。
「……はぐれたのか?仲間と、竜と?」
「な!はぐれたのではない!罠にかかってしまったのじゃ!」
「罠……?」
「お主らに教える理由はない、昼飯は奢ってもらったが、お主らは今最高に怪しいからな!人外の魔力を持ち、たまたまワシが仲間と別行動をしておるときに現れるなど!罠に決まっておる!もしくは、お主らが黒幕なのであろう!」
「黒幕?」
「ぐぬう!しらばっくれおって……!」
うーん、話が進まないなぁ。
ベニシアに信用してもらわないと、話を聞き出せそうにない。
「なぁライラ、ライラはベニシアと会ったことあるのか?」
「うん、あるよ、ちゃんと話はしなかったけど、母さんを訪ねてきてた時に会ったよ」
「そうか。じゃあライラが元の姿を見せればわかるかな?ちなみに、ベニシアたちがとんでもない悪党だとかいうことあるのかなあ」
「悪党じゃと?!何を目の前で言うておるのじゃ!それにワシはそなたの様な少女に会ったことはない、これでも記憶力は良いのだぞ!」
うーん。ほんと話が進まないなあ。
「わからないけど……母さんは、この人達を信用してついて行ったみたい。それに今……ははぐれちゃってるにしても、それまで一緒にいたのなら、そう悪い人じゃないんじゃないかな?」
「なるほど。まぁ話も進まないし、ここを出たらちょっと近くの森にでも行って話そうか」
「うん」
「何を勝手に話を進めておるのじゃ!」
不満げなベニシアの肩をポンとたたく。
「ベニシア」
「な、なんじゃ」
「今、無一文で仲間とはぐれてすごく困ってるんじゃないか?」
「ぐっ」
「俺たちは、多分、力になれると思うけどなぁ。話を聞いた方がいいと思うぞ?」
「ぐぐ……」
「それに、俺たち、ただ歩いていただけなのに突然攻撃魔法なんて撃ち込まれて、もしかすると大怪我したりしてたかもなあ……あれ?謝罪の言葉は聞いてないな?」
「ふぬっ……た、た、たしかに、突然攻撃魔法を撃つなんてことはあってはならんことじゃ……ちょっと動転しておって……絶対にお主らが黒幕かと……」
「あれ?謝罪が聞こえないな?」
「ふ、ぐ、ぐ、わ、わ、悪かった……」
「ん?」
「ワシが悪かった!話は聞く!これで良いんじゃろうが!」
「うん、よく出来ました」
ポンポンとベニシアの頭に軽く触れる。
年齢は凄いことになってるとは知りつつも、見た目が小さい女の子だから、なんか無理やり謝らせると悪いことした気分になるな。
と思っていたら、ライラがぴっとりと横から腕に張り付いてきた。
「ライラ?」
「私もポンポンして」
「ん?」
「あたま、ポンポンって!」
「ああ、うん……」
ポンポンと優しく触れると、ライは嬉しそうにはにかんだ笑顔を見せる。
「えへへ」
「なんだ、ベニシアが羨ましかったのか?ほら、彼女は見た目が子供みたいだからつい……」
「うん、わかるけど、私もして欲しかったの、へへ」
「ライラがして欲しいならいくらでもするけどさ」
ライラの頭をなでなでしておく。
髪の毛サラサラで綺麗だな。
「お、お、お主らは何なんじゃアアァ!恥じらいというものはないのかぁ!見ているこっちが恥ずかしいぞ!あとワシは子供ではない!!お主らより余程年上じゃ!敬うがよい!」
ベニシアが何か言っているが、とりあえず外に出て話の続きをしよう。