冒険者にからまれたので
話を終えて、ライラと一緒に冒険者ギルドの受付前フロアに出る。
「ライラ、せっかくだから、冒険者ギルドの中を少し見学していこうか」
「うん!」
奥に資料室なんかもあるみたいだし。
「あ、地図があるな」
ギルドの建物内案内図が入り口近くの壁に貼ってあった。
へぇ、奥には鍛錬場なんかもあるんだな。思ったより広そうだ。
「なぁ、俺たちが案内しようか?さっき冒険者登録してた子だろ?」
「魔法使いだって聞いたけど、もうパーティ決まってるのか?」
「良かったら俺たちの仲間にならないか?うちはDランクメンバーのパーティで結構実入りいいし」
「ねえ君、可愛いね、ってうわ!マジで可愛いな!え?目の錯覚か?なんか輝いてねぇ?」
一瞬わずかな距離を開けただけで、ライラの周りにワラワラと冒険者らしき男たちで人だかりができていた。
そうだ忘れてた。さっき妙に注目されてたんだった……
「ライラ、予定変更。今日はもう帰ろう」
「ルカ!うん!あの、ちょっと通してください、帰るので」
男たちから離れて俺のところに来ようとするライラだが、男たちの壁が厚いようだ。
「ちょっと待てって、俺たちが案内してやるって」
「そっちの彼は、帰りたいなら1人で帰ったらいいんじゃないか?大丈夫、俺たちがしっかり送り届けるから」
「冒険者になりたてだろ?ギルドのこと教えてやるよ」
「……うわ、近くで見るとすげぇ可愛いな」
「ぜひうちのメンバーに!せめて連絡先を教えてくれ!」
「な、ちょっとそこに座って話しよう!」
集まっている男たちの誰かが、ライラの腕を掴もうとしてーーライラはサッと避けた。
「え?あれ?」
掴もうとしても全く触れられないことに驚いたようだ。まぁ、ライラも全ステータスカンストしてるから、そこらへんの奴に捉えられるわけがないんだけど。
「あの、私は帰るので。さようなら」
トンとかるく床を蹴って跳躍したライラが、男たちを飛び越えて、クルリと空中で前転して俺の横にスト、と降りた。おお、なんか体操競技みたいだ。
その動きを見た人々が、目を見開いて驚いている。
この世界ではこれくらいの跳躍は異常というほどではないが、可愛い魔法使いのはずの女の子の身のこなしに驚いているんだろう。
「じゃあ、行こうか」
「ちょおっとまったああぁぁ!」
ライラに声をかけたところで、ものすごいテンションの高い声が飛んできた。女性の声のようだけど……
「今、あなた、いい跳躍だったわねぇ!ねえねぇ、あなた魔法使いだって本当?ランクは何になった?魔力検査の結果は?あ、パーティ募集の予定はある?あと名前と連絡先とスリーサイズ教えてちょうだい!」
ギルドの隅の方からニョキッと現れて、ドドド、という勢いで見知らぬ女性がやってきた。
オレンジ色のくせ毛を無理やり左右二つに分けて縛った感じの髪型で、目をランランと輝かせて、手にはメモ用紙とペンらしきものを持っている。
年の頃は……20代だろうか?
「スリーサイズって何?」
「バスト、ウエスト、ヒップのサイズの事よ!あ、もし良かったら私が測るから大丈夫よ、ここにメジャーも」
「いや待て待て!そんな個人情報教えるわけないだろ、ライラも答えなくていいからな!お前は誰だ?」
「えっ横暴!なに、アンタ彼女の何なのさ!ワタシは冒険者ギルド1の情報通!情報屋のヴィヴィアン!冒険者に関することで、私の知らないことはないわ!」
うわ、メンドくさそうなのきたなぁ……
ついそんなことを思ってしまった。
「あっもちろん、あなたの情報も欲しいの、新人なんでしょ、奥の部屋に呼ばれて大丈夫だった?冒険者にはなれたの?魔力検査はどうだったのかしら?」
「……俺は何も答える気はない」
突然現れたヴィヴィアンとやらの勢いにやや押されていた男達も、俺の気分が下がったのを好機と見てか、また近づいてきた。
「なぁ、ライラっていうんだろ、そう呼ばれてたもんな、その男はルカだっけ、どういう関係かな?兄弟とか?」
「確かになんか似てるな、雰囲気が。髪も黒だし。そうか、お兄さんなら失礼したなぁ。俺たち悪気はないんだ、ただちょっと話したかっただけで」
「そうか、兄妹かあ!」
「いや、兄妹じゃない。だけど彼女は俺の大切な」
「私はルカだけが大好きだし、一生ルカのそばにいるってもう決めてるし、ルカとしかパーティは組まないから、案内もお誘いもいらない。ごめんなさい」
うわぁライラがズバッと言い切った。
男達がショックを受けている。
「な、なんだよそれ」
「羨ましすぎる!あんな美少女にそんなこと言われてぇ!」
「イケメン爆発しろよまじで3回くらい爆発しろっ……」
「そういうバッサリ切り捨てるところも……イイ……」
なんか変な奴がいるな!ライラに近寄るなよ!
「えっ、それって2人でパーティ組むってこと?それとも、2人のほかにももう決まった仲間がいるのかなぁ?ライラちゃん、ルカくん、教えて!」
ペンを片手にグイグイ来る。
うわぁ、嫌な人に名前を覚えられた気がするなぁ……なんなんだこのヴィヴィアンって人。
「俺たちは2人でパーティを組むし、今のところ他のメンバーを入れる予定はない。それに、しばらく他国に行く予定だ」
とりあえず言ってもいいか、というところだけ伝えると、ヴィヴィアンはガリガリメモを取り、周りにいた男達は騒ぎ出した。
「他国に行くだって?!そんな女の子を長旅に連れ出すなんて何考えてんだよ!」
「全くだ、なぁライラちゃん、そんな気遣いの足りない男について行くの大変だろ?俺たちとここで暮らそうぜ!」
「そうだ!俺たちが見極めてやるよ、その男が他国に行ってもライラちゃんをちゃんと守れる強さがあるかどうか!魔力検査受けたんだろ、何ランクになったんだよ?」
「……ランクはまだ未定だ。魔力検査は石が壊れて受けられなかった」
「はっ!魔法使いなのにFランクからかよ、頼りねぇなぁ!」
「だからランク未定だって……はぁ」
まぁFランクからでもいいとは言ったけど、こんな感じで絡まれたり侮られるのは面倒だし、ある程度冒険者ランクは上げておいた方がいいかもしれないな。
しかし、見事にからまれてしまった。
明日もこのギルドに来るし、ずっと絡まれているのもうっとおしい。
ここはサクッと黙ってもらおうか。
「あんた達が俺を見極めてくれるって?どうやって?」
「ふん、そうだな、この裏にある鍛錬場でちょっと手合わせでもするかぁ?」
「それいいな、力不足だってわかったら、ライラちゃんとパーティ解散して一人で他国に行くってことで」
「手合わせして俺たち何人かを納得させられたら、認めてやってもいいけどなぁ」
集まっていた男達の中でも強さに自信のあるらしき何人かが言い募る。
「いいだろう、ただし、俺に負けたら2度と絡んでくるなよ」
「はっ!こいつ勝つ気だぜ!」
「そんな細っこい腕で何言ってんだぁ?」
「こりゃしっかり指導しないとな?」
「鍛錬場の使用申請してきたぜー!」
「よし、こいつがビビって帰る前にやっちまおうぜ!」
見学者も含めてぞろぞろと、鍛錬場に移動する。
「ごめんなライラ、すぐ帰れなくて」
「ううん、大丈夫だよ!」
「すぐ終わらせるから」
「うん!」
「おいおい、すぐ終わらせるってなんの冗談だあ?」
「もちろん自分が負けて終わるって意味だよな?ああ、ペナルティがつくからな、殺しはしねぇが……」
「鍛錬に多少の怪我はつきものだよな?」
しつこく絡んでくるなあ……
さっさと終わらせよう。
「誰が参加するんだ?」
「もちろん俺はやるぜ」
「俺も」
相手になるのは6人ほどのようだ。
「じゃあ一気にやろうか、その方が早く終わるだろ。魔法使いは居ないみたいだから、俺も魔法は控えておいてやるよ」
ざっと相手の男達のステータスを見る限り、魔力が高いやつはいない。それにそんなに強いやつもいない。かなり手加減しないとな……
「テメエ、ナメてんのか!」
「調子に乗ってんじゃねえ!魔法使いが魔法を使わないだと?!バカにしやがって!」
どうやらキレさせてしまったようだ。
煽った自覚はある。
「もういいから、早くやろう」
「こいつ……!やってやる!」
「ルールは、魔法なし、そのほかは何でもありだが相手を殺すのは無しって感じかな。じゃあ、誰か開始の合図してくれ」
「はぁーいっ!ワタシが!やりまーす!」
しっかりついてきたヴィヴィアンが手を挙げた。
「よーい……スタートォ!」
開始の合図と共に、いかつい男達が襲いかかってくる。
えーと、施設を壊さず、相手を殺さず、気絶か動けない状態にするにはどうするのがいいか……
とりあえず近づいて剣を振りかぶる1人目の腕をサッと掴み、剣を横から叩いて壊す。
「はっ……?!」
そのまま掴んだ腕をもって、できるだけ優しく壁に向かって放り投げる。
2人目、できるだけそうっと足を払い、バランスを崩したところを3人目に投げる。
「うわっ……!」
「ぎゃあ!危ね、ぐふっ」
3人は起き上がってこないようだ。
残り3人か。
「い、今剣折らなかったか?素手で?!」
「折ったっつーか粉々になってねぇか?!何だお前!!」
「お、おい、なんかヤバくないか」
残った3人は驚き戸惑っている!
しかしこのままだと終わらないし、さっさと帰りたいし。
「来ないならこっちから行くぞ」