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第3話 竜の巣は人間向きじゃない

後半、黒竜ライラ視点です。

 竜の巣ってどんなところだと思う?

 洞窟とか、湖底や海の底にあったり。

 天空にある場合もあるだろう。


 ゲームでも、竜はどんなところに住処を作るか検討した。

 結果としては、洞窟をはじめ湖底にも海の中にも天空にもあるということになった。

 旅する中で要所でバリエーションに富んだ形でエリアボスとして出しやすいし。


 そして、この魔の森は、まあ森にある竜の巣といえば洞窟だろうということになった。

 ゲーム内に出てくる時には、もっと荒廃した状態だったが……


 何が言いたいかというと。

 なんで洞窟にしたんだ俺!

 もっと人間にとって住み心地の良い場所にしておいたら良かった……!!


 考えてみてほしい。

 赤子の俺が、子供の竜に世話されて、洞窟で暮らす様を。

 不自由しかない……!


 魔の森で黒竜ライラに拾われた俺は、その後ライラの住む巣に連れてこられた。

 ライラは予想通りまだ幼い竜で、本来竜は親である竜とその血族たちとともに暮らすという設定だった。

 だが、ライラの親竜は亡くなってしまったのか、ライラは1匹で暮らしていた。

 元は親竜とともに暮らしていた洞窟にそのまま暮らしているらしい。

 竜という生き物は、平時はそんなに多くの食物エネルギーを必要としない。

 とくに古代竜は、魔力あふれる土地であれば、水や少しの果物だけでも、あまり魔力を使わずに暮らす分には生きていける。

 そんなわけで、比較的近くに住む竜たちと交流しながらも、幼いながらに巣である洞窟に1匹で暮らしていたライラ。そこに突然加わった人間の赤子(俺)。


 竜の血を濃く宿すといいつつも体感的には普通の人間、しかも赤子な俺が暮らすには、この洞窟には問題が多数あった。


 まず、明かりがない。竜は夜目がきくのでとくに明かりがなくても問題ないのだ。

 次に、寒い。鍾乳洞とかにいくと大抵外よりも寒いけど、ここもそんな感じだ。

 幸いカラリと乾燥していてジメジメと湿り気がないのはよかったが、寒い。もう冷たいレベルだ。ちなみに、水晶の柱がガンガン出てるものすごくきれいな洞窟ではあるのだが、日中でもあまり光が入らないし景色がいくらきれいでも寒くて死ぬ。


 というわけで、まずは明かりと暖をとるために、たき火を試みてみた。

 奥でやると酸素なくなりそうだったんで、とりあえずは入り口近くで。

 なんとかバブバブ言いつつも魔法の助けで意思疎通して、ライラに枯れ木を集めてもらい、炎の攻撃魔法で火をつけた。ライラが集めてきた枯れ木が数メートルある巨木だったり生木だったりして場所はとるわ煙は出るわ、温まる前に死ぬかと思った。

 が、とりあえず明かりと暖房となるたき火は確保した。

 明かりに関しては魔法の光をずっと出しておくこともできたかもしれないが、寒いのでたき火が最適だろう、うん。


 まだ問題はある。食料だ。

 一応水はある。近くの泉に。黒竜であるライラはのどが渇いたら飲みに行くというスタイルだ。巣に水をためておいたりしない。

 しかし赤子である俺は一度に飲める量が少ないため、こまめに水分摂取する必要があり、いちいち泉に移動するのは無駄すぎる。ちなみに移動は浮遊魔法を使っている。本当にこの魔法があってよかった。


 とにかく水が巣に欲しい。せめて巣の中に貯水できればと、巣にある水晶の柱を風系の攻撃魔法でズバっと切って、土系の攻撃魔法で大きな水晶に穴を作って貯水場を作った。

 その穴に水系の攻撃魔法をどばーっと入れて、完成だ。

 食器が欲しい……できれば水差しとコップとか、いや哺乳瓶とか?ストローとか…贅沢は言うまい。後々手に入れるか作るかするとして、現状はのどが乾いたら浮遊魔法でいい感じの位置に飛んでいき、飲んでいる。


 補足しておくと、一応水魔法で水を出すことはできるのだが、入れ物がないため飲もうとしてうっかり間違えるとびしょぬれになる。一度やってみた。寒いうえに濡れたら死ぬ。火を起こした後に試して良かった。ちなみに濡れた服の着脱は、リアルに動いても脱げそうだが、赤子な俺は自力で着替えるのが非常に困難なため、メニュー上の装備欄で脱いでみたら脱げた。着替えがないので裸になるだけだが。

 さらに俺の名誉のために言っておくと、おむつは使っていない。いやパンツ代わりにつけてはいるのだが、ちゃんとトイレを使っている。

 これまた竜の生態的には、そもそも排泄自体がほとんどなく、トイレなどというものがあるはずもない。なので、トイレも作った。下水処理などできるわけもないので、浮遊魔法とマップ機能を使って洞窟周辺を探り、洞窟の中から崖につながる穴をあけて、排泄物が崖の下に落ちるような形にした。そして崖の下にはライラに頼んでスライムを集めてもらった。周囲の自然環境にも優しい…はずだ。これらの作業で、浮遊魔法と土魔法とマップ探索にかなり慣れた。

 浮遊魔法には本当に感謝している。本来の用途では全くないが。


 さて、一応暖かい家と水は用意できた。

 食料は、ライラが取ってきてくれる果物は俺でも食べられるものがある。桃やブドウみたいな柔らかめの果実とか、リンゴのようなものは風魔法をせっせと当ててすりつぶしたりすると食べられる。(まだ歯が生えそろっていなくて硬いものは食べられない……)


 だがまだ欲しいものがある。

 着替えもないし(一応着ていたものを大事に使っている、汚れたら洗っているがその間裸でつらい)、布団も欲しいし(夜はライラに抱き込まれるようにして寝ているので凍えることはなさそうだが……毛布くらいは欲しい)こういう日用品は魔法で出せるものではないので、どう調達したらよいのか考える必要があるな。


 そんな感じで、日々住処を改造していく俺を、黒竜ライラは機嫌よく眺めており、食料を取ってきては俺に渡してくれる。住処を改造しても許してくれるし、毎晩寒くないように包み込むように眠り、たまに頬ずりしたり、スキンシップしてはにこにこと笑う(多分…竜のにこにこの表情は読み取りづらいけど、多分笑っている気がする。)

 訳も分からないままとりあえず生き延びようとしている俺だが、ライラに拾われてよかった、と思うようになっていた。



 -----


 私はライラ。この地の古代竜の中で一番若い黒竜。

 この地の長である銀竜と母との子。


 私の母がいなくなってから、私は孤独だった。

 私の母竜は死んだわけではない、ただ、人間について行ってしまったのだ。

 ほかの竜たちは、母が人間に騙されたのだという。

 私にはわからない。

 ただ、残された私は、親類からも敬遠され、孤立していた。

 私に罪があるというわけではないが、人間についていった母のことが理解できず、その子である私に同情はするが深くかかわりたくはない、という思いなのだろう。


 父である銀竜はこの地の長であり、かなりの高齢で、ほとんどの時間をじっと動かず、地脈のエネルギーと同調し正常化することに時間を使っている。

 竜はつがいを大切にするものだが、父と母が一緒にいるところをほとんど見たことがない。

 だから二人の関係がどういうものなのかはわからないが、少なくとも、父は娘である私には無関心なように見えた。


 母が人間とともに出て行ってしまった時も、父は地脈と一体化しており、動かなかった。

 その後、おいて行かれて孤立した私にも、生活に不自由がないことを確認した後は、会っていない。


 毎日ただ生きているだけで、でも、どうしたらいいかわからず、ふらふらと散歩するのが日課だった。

 そんなある日、いつもの散歩コースで、森の番犬たちが騒いでいるのを見つけた。

 そこには、人間のような、でも竜のような、不思議な気配のする小さな人間の赤ちゃんがいた。

 それが、ルカだった。


 気になって、番犬からその赤ちゃんを渡してもらった私は、すごく驚いた。

 赤ちゃんが、急に魔法を使ったから。

 魔法が使える人間の赤ちゃんなんて聞いたことがない。

 竜の赤ちゃんでも、初めての魔法……飛ぶための飛行魔法が使えるまで数年かかる。

 しかも、意思疎通の魔法!

 母のところに人間が通ってきていた時、同じように人間が意思疎通の魔法を使っていた。けれど、その魔法を使えるのは、大魔導師と呼ばれていた人間だけだった。

 こんなに小さな、まだ自分で動けない赤ちゃんが、高度な意思疎通の魔法を使うことができるなんて!息するように魔法を使うとされる古代竜種の私だけど、まだ幼いこともあって、繊細な魔法はそんなに得意じゃない。私にも使えない魔法を、こんな小さな赤ちゃんが。

 驚いて、でもその魔法の気配がとっても優しくて、赤ちゃんの動きもかわいくて、声もかわいくて。

 それから、ルカが笑ってくれて。

 私もうれしくなって。

 その時気づいた。もうずっと、こんなうれしい気持ちになったことなかったって。


 本当は、母が出て行ってから、ものすごく寂しかった。

 生まれてからずっと住んでいる洞窟も、母がいなくなってからはとても広く感じて、古代竜にはあまり影響しないはずの寒ささえ覚えるほど、

 だけど、どうしようもなかった私に、ルカは温かい気持ちをくれた。

 今も、一緒にいて、もうこの洞窟は寒くない。寝るときも、とてもあたたかくて、幸せ。


 だから、私がルカを育てる。私が守る。絶対にひとりにしたりしない。置いて行ったりしない。私が感じた孤独は、この子には必要ない。


 人間は、私から母を奪っていったけど。母を連れて行った人間たちは、嫌いだけど。

 人間すべてを憎んでいるわけじゃない。

 それに、ルカは人間だけど、人間じゃない。ルカの中に、強い竜の気配を感じる。私よりも強いかもしれない。金色に輝く竜の力を感じる。

 だから、ルカを私の仲間にしても、大切にしてもいいはず。


 ……でも、ルカを見ていると、絶対この子は普通の人間じゃないってよくわかる。

 意思疎通の魔法もびっくりしたけど。


 今では、赤ちゃんなのに魔法でふわふわ飛んで、洞窟のいろんなところを住みやすく改造している。高度な魔法を無造作に使って。

 どうして赤ちゃんなのにこんなに魔法を使えるんだろう?人間の魔法と竜の魔法は使い方が少し違うけど、ルカの魔法は普通の人間の魔法の使い方とは少し違う気がする……


 ルカは、すこし変わってる。ううん、だいぶ、変わってる。

 昔、地上に降り立った、神竜みたいなものなのかも。

 だけど、私は、ルカのそばにいるって決めた。

 ずっと、一緒にいて、わたしもルカにもらったのと同じくらい、幸せな気持ちをルカに返すんだ。


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