第23話 王様が死んでしまったらしい
王弟は、少なくとの実の子であるこのフェリクスには優しいらしいな。
甥である俺には容赦なく抹殺命令を下していた訳だが。
自分の子供だけは可愛い、って事だろうか?
それとも何か理由があるのか?
「いいお父さんなんだな」
「うん!」
これは王弟を返り討ちに暗殺!とかやりにくいな。もともと、その手段は避けたかったが。何故なら人殺しが嫌なのと、あとあとものすごく面倒そうだし。
「フェリクス様、もうよろしいでしょう。そろそろお部屋に戻りましょう!あなた方は……もし本当に竜だというのなら……どうするつもりなのですか?王城に入り込んで……」
侍女のサーシャが俺と王子の間に立つ。
「ルカを睨まないで!」
侍女と俺の間にライラが立つ。
「ルカ……気になっていたのですが、その、ルカというのは、この国の王子殿下と同じ名前では?偶然ですか?」
「ルカはルカだよ!」
「えーと、ライラ、庇ってくれる気持ちはありがたいけど、とりあえずこのサーシャさんの質問に答えるから。えーと、俺たちは友達である王子の願いでここに来たんだ。名前は……偶然一緒なんだ。それで気があって友達になったんだよ。で、王子は、自分を狙った犯人がまだ捕まっていないから、王城は危ないと思っている。その通りだろう?だから、俺たちが先に様子見に来たんだ。本当に安全なのかってね」
「そんな!竜にそんな頼みをするなんて聞いたことがありません!それに、王子はまだ生まれて1年も経っていません、そんなに話せるはずがありません!あなた達、適当なことを!」
「いや、王子は竜の血が強く出ているためか、今ですもすでに意思の疎通はできるんだ。限られた相手とはね」
「信じられません、そんなこと!」
「ねぇサーシャ、けんかするのやめてよ!ぼくも、イトコのおうじさまがさらわれたってきいて、、びっくりしてしんぱいだったんだよ。おうじさまがあんしんできるように、たしかめてもらうのは、いいことなんじゃない?」
「そ、それは……そうかもしれませんが……私では判断できません!少なくとも無断で王城をうろつくことは許されません!」
「まあ、そりゃそうか。じゃあ俺たちは出て行くから、この事は秘密にしてくれると嬉しいな」
「な、なんですって、出ていく?」
「お話しできて楽しかったよフェリクス、じゃあまたな!」
「えっ、もういっちゃうの?」
「また会えるといいな、じゃあな!」
「え、もう行くのルカ?待って!」
ライラが来るのを待って、窓から屋根へひょいと飛び乗る。
さらに次の屋根の上へ。
城の屋根の上をサクサク移動していくと、あっという間にフェリクスの見送る声も、侍女サーシャの声も聞こえなくなった。
「うーん、話の流れがまずくなってきたから逃げてきちゃったけど、これであの侍女さんが騒ぐと、見つからずに調べて回るのは無理かな……」
「なんだか騒がしくなってきたね」
屋根の上から見ていると、急に王宮の一角か騒がしい。しかし、俺たちが降り立った塔とはかなり離れている、王城の中心部分が何やら人の出入りが多く、何人かが走っていたりと慌ただしい。
「離れてるし、俺たちを探してる風でもないし、俺たち関係ないんじゃないかな?あの王城の真ん中が一番騒がしいし……まさか……」
「まさか?」
「もう、王に何かあったんじゃないか?近くに行ってみよう」
人目を避けて、王城の裏側の壁伝いに庭の木陰へ降りる。そうだ、メニュー画面からボイス音声マックスにしてみよう。
「王のご容態は!」
「先程、すでに息をしておられないと、侍医が!」
「医療魔法使いは!」
「すでに幾人かは向かっておりますが、すでに息がない状態でできる回復魔法は無く……」
騒がしく出入りする人々の間から、そんなやりとりが聞こえてきた。
「やばい、もう王の呼吸が止まったそうだ」
「えっ、死んじゃったってこと?!」
「そう、なるな……」
まさか、一目見る前に亡くなるとは……どうしたらいいんだ?!
いや、まだできることはある。
俺がこれからどうするか、決めるまで勝手なことをしてもらっちゃ困る!
「ライラ、これから王のいる所まで強行突破する。もしかすると、まだ蘇生魔法が効くかもしれない」
「そっか!わかった、私もついてくからね!」
「堂々と進んでいけば近くまではいけるだろう、あとは適当に気絶させたり眠らせたりして進む。そうだ、着替えておこう。この中を歩いてる人間みたいな、ドレスとか貴族の服みたいなものを着ておけばそんなに目立たないだろう」
メニューから、比較的一般的と思える貴族っぽい服を選び着替える。ライラの服もパーティーメニューから指定したら着替えさせられた。竜の時は出来なかったんだが、人間の形をしているからかな?
「よし、行こう」
「うん!」
いつでも睡眠魔法を使えるようにしつつ、堂々と庭から城内へ入っていく。
マップで確認すると、人が多く出入りしている部屋がある。その辺りに王がいる可能性が高い。
すれ違う人は慌てている者が多く、こちらに強い注意を向ける者はいない。
どんどん歩いていき、まさにここと思われるフロアまで来たところで、フロアの入り口で警備に当たっている騎士に呼び止められた。人通りが少なくなった瞬間をついて眠らせ、目立たないよう柱の陰に寝かせておく。
「あんまりたくさん騎士がいると厄介だな……」
「まずは王様優先で、みんな眠らせちゃえば?」
「……最悪それかな……」
お仕事中申し訳ないが、王が生き返った方が彼らにとっても良いだろう、多分。一応王に仕えているわけだし。
その調子で呼び止められてはさりげなく眠らせ、さらにそれを目撃されたら眠らせ、と眠らせているうちに、このフロアの見える範囲の人すべてを眠らせる羽目になった。
これなら初めに全部睡眠魔法かけても同じだったな……とにかく急ごう。
「多分この部屋か、その奥の部屋だな」
「中にたくさん人がいるの?」
「10人ちょっとかな……入ろう」
大きな扉を開けると、中の人物が一斉にこちらを見た。
「何だ、お前たちは、今はここには……」
「陛下に蘇生魔法をかけに来ました、陛下はこの奥ですか?」
俺は蘇生魔法をかけに来た魔法使いだ。
……ということにしてみよう。
「なに!王宮魔法使いか?」
「見覚えがないが……」
「蘇生魔法を使える者がいたのか!」
「ごく最近来ましたもので。早くしなければ間に合わないかもしれません、どちらですか」
「おお、おお、こちらだ、急いでくれ!」
「おい、見知らぬものを陛下に……」
「これ以上どう悪くなると言うのだ!」
「むう……」
「あまり時間が開くと蘇生魔法が効かなくなっていきます、一刻を争いますので、失礼します」
本当にそうかどうかは知らないが、そんな気がするし、実際に完全心肺停止からあまり時間が経つと蘇生は色々無理があるだろう。そんなに時間が経っていないこと良いんだけどな……
やや強引に奥の部屋に入る。
手前の部屋が執務室、奥の部屋は休憩室の様なものなのだろう、そう大きくはないが上質な寝台があり、そこに王らしき人物が寝ている。
王の上には、ステータス表示が見えない。本当に死んでしまっているようだ。
メニューから蘇生魔法を選ぶ。
「【蘇生魔法】!」
ギャラリーも多いし呪文名を唱えつつ。
……よし、かかった!
「【完全回復】!」
ついでにこれもかけておこう。
これで早々死なないはずだ。
ん?ステータスに毒状態があるな。
これも治しておこう。
「【状態異常回復】!」
よし、これで完璧だろう!
若干ギャラリーの沈黙が怖いが、王は回復した、はずだ!
「う……?」
「陛下!」
どうやら王が目覚めたようだ。