第13話 正当防衛を主張したい
護衛15人のうち8人がやられたってことは、こちらの護衛の残りは7人と、アレンたち3人。あとは侍女さん2人、ニーナ、あと2台の馬車の馭者2人か。馬車二台を方向転換して逃げる時間はないだろうし、とりあえず非戦闘員は馬車で待機かな。
「サミュエル、とりあえず、強力な防御系魔法かけるから、非戦闘員は一つの馬車に集めて」
「はっ!」
赤子な俺が指図できないので、サミュエルに指令をだしてもらう。もともとサミュエルはこの一団で一番地位も年齢も上だし自然な流れだろう。
サミュエルの指示で集められた、馬車に乗るメンバーにマックス防御魔法をかける。これで大抵のことでは怪我もしない、多分。
「サミュエル様、あの、殿下をお預かり致します!」
ニーナの声に、侍女たちもうなづく。
そうか、確かに一番守られるべき赤子で王子な俺が陣頭指揮とってるサミュエルに抱かれてるのも変だけど。任せっぱなしで馬車に籠っているのは嫌だな。相手は30人ほどいるし、先に襲われた護衛たちも早く治療してあげたい。死んでないといいけど……もしかすると初めて、復活の呪文かアイテムの出番かもな。でも本当にそれで生き返るかなんてわからないし、欠損はどうなるのかわからないし、死んでから生き返るまでのタイムリミットがある気もするし、できる限りのことをやるしかない!
前世でもわりとインドア派だった俺は実際の戦闘なんて怖い……ような気もするが、初っ端から竜のブレスなんかで鍛えられたのか、大抵のことでは死なない感覚があるし、今のところ恐怖感はない。行けそうだ。
俺は離れない!という意思を示すべくガッチリサミュエルに抱きついてみた。
「俺はサミュエルと行くから!大丈夫だから大人しく待っているように!」
馬車のメンバーには、ニーナ以外にはバブバブとしか聞こえていないだろうが、とりあえず俺の意思表示は出来ただろう!
「……殿下はわしが必ずお護り申し上げる。そなたらには強い魔法防御がかかっておる。そこで安全が確保されるまで待たれよ」
「そ、そんな!心配……いえ、大丈夫そうな気もしますが、ダメですよ、あっ!」
ニーナが何か言っている途中でサミュエルが馬車の扉を閉めてしまった。まあ、今は時間が惜しい。
「来ました!」
近くに来たヴィクターが告げる。
谷の奥へつながる道から確かに襲撃者らしき者たちが此方へ走ってくるのが見えた。向こうにいた護衛たちを戦闘不能にしてこちらに移動して来たのだろう。
「サミュエル様、殿下を馬で遠方に逃がされては?!」
「俺は行かないからな!」
「今からでは遅いわ!敵に集中せよ!」
「はっ!」
俺をただの赤子な王子だと思っている護衛たちは不安げにサミュエルに抱えられた俺を見ている。
普通に考えると確かになぜ王子を危険な場所に連れて行くんだって感じではあるが。
さて、敵が近づいて来る前に!
さっきかけたのは通常バージョンの補助魔法なので、全員にマックスの防御魔法をかけておく。
攻撃系をマックスにするのは、さっきのアレンやヴィクターの様子をを見る限りやり過ぎて危ないかもしれない。
あまり彼らに直接戦闘させるつもりはないので、防御だけしっかりしておけばいいか……
「よし、ちょっと離れてるうちに、攻撃魔法入れとくから!」
とりあえずまだ遠くにいるうちに攻撃しておこう!サミュエルがやったって事で!
そして魔法の効力を変えられることがわかったからな、マックスで……炎系は谷の木々に燃え移ると危ないから……足止めするか!土魔法!
ゲーム中で軽い地震を起こしてダメージを入れつつ足止めする魔法を彼らの前に放つ。
「はっ、殿下、それはどのような、アァァァァァァァー?!」
軽い地震……が局地的に起き、地割れして何人か隙間に落ちたな。
サミュエルの叫びが聞こえたが、敵や魔法に気を取られて味方は此方をみていない。よし、今のうちだ!
動けなくなったところに、さらに土魔法、今度は地面が沼のようになるタイプだ。これまた効力マックスで。
局地的に地割れしたり沼になったりする道に足を取られて脱落していく敵。うんうん、半分くらい足止めできたかな!
「じゃあ、次は基本の氷魔法かな!」
「殿下、畏れながら!一体それはどんな魔法ですか?!」
初期の氷魔法、小さなつららを降らせてダメージを与えるものにしてみようかな。威力はマックスで。ちなみに、ここまで魔法名とか言っていないけどもちろんゲーム中の魔法には名前が付いている。特に魔法名を叫んだりしなくても発動モーションが無くても何の問題もなく使えているから、特に言っていなかったが。
サミュエルが、俺がどんな魔法を使うのか知りたそうなので宣言してみるかな!
「【氷柱の雨】!」
ズドドドドドドドドドォォン!
う、うぎゃ……
シーン。場を沈黙が支配した。
敵は全て殲滅され、味方は無言で、そろりそろりとこちら、魔法を使ったと思われているサミュエルを見た。アレンとヴィクターだけは俺を見ている。胡乱な目で。
「ごめん……魔法の選択を誤った……あんなに沢山降って来るとは………思わなくて……」
まだ距離があったため、ハッキリ見えないが、間違いなく地獄絵図が出来上がっていた。なんか……赤くて人の形を保っていないような……
いや、避ける隙間もなく広範囲にビッシリとものすごく鋭いつららが降って来たらどうなるか。
串刺しどころではなく、何の拷問かって感じに……
無言でそっと敵に、蘇生魔法をかけてみた。
……回復魔法ではない。遠目に見た感じアレで生きてるわけないって感じだったからだ。すると。
……瀕死ながら、生き返ったようだ!!
よ、良かった、思いがけず惨殺犯になるところだった。いやこちらも命を狙われていたんだろうから正当防衛かもしれないが、ちょっと過剰防衛って気がする……
最近のゲームは過剰な表現もあるけど、リアルなのは勘弁して欲しい!今のは俺のせいだけどさ!ごめんなさい!
「殿下……今のは絶対にアイシクルレインではありえませんし……これを儂がやった事にするのは少し無理があるかと……」
「えっ、いや今のアイシクルレインだから間違いなく!」
「儂の知るアイシクルレインは、多少ダメージは受けるものの即死するような強力な魔法ではありません」
「……俺ら力強化された意味あったのか?」
「……」
痛いほどの沈黙の中、ヴィクターのつぶやきが大きく響いた。
その後、沼や亀裂に埋まっていたり、瀕死だったりする襲撃者たちを拘束した。
瀕死な奴らも、遠目にはヤバかった気がするが、今は欠損部位もなく無事に人の形を保っている。図らずも、欠損部位が魔法で復活できそうだということはわかった。しかしもうあんな光景は見たくないので、使う魔法は気をつけたいと思う。
冷静な今思えば、効果最大にした睡眠魔法で良かったんじゃないか?
……次があったら、そうしよう。うん。
拘束した人数を数えたところ25人。足りない。
マップを見ると、まだ奥の谷間に5つの点がある。
「まだ奥に残ってる奴がいる。どうにかしないと進めないし、先に行った護衛のことも確認したい。行こう。俺も行く」
「……わかりました、殿下のお力であれば、滅多なことはないと思いますが、谷間は岩場も多く危険です、先ほどの地震などは……」
「ごめん、わかった、使うなら睡眠か気絶にするから」
「ありがとうございます、お願いいたします……」
サミュエルとボソボソ確認しつつ、俺とサミュエル、アレン、ヴィクターで谷の奥へ行ってみる事にした。他の護衛たちは、捕えた敵の見張りとして残す。
手負いとはいえ25人もいるため、護衛をある程度の人数残すのは当然ではあるが、王子を連れて行く事に反対もされなかったので不思議に思っていると、アレンが横でボソリと呟いた。
「あの様な魔法を目の前で見せられては何が来てもこちらが負けるとは思えませんしね……サミュエル様が相当な伝説になりそうですが……」
「自分でやってもいない事で伝説になりたくない!殿下、儂は嫌です」
「う、うーん……」
そうか、俺も結構トラウマな感じだが、みんなにも衝撃だったようだな、あの魔法……
俺たちが離れた後にまた暴れられると困るので、捕えた25人に効果マックス催眠魔法をかけておいた。全員きっちり寝た。ほんと、これで良かっただろ最初から……
そんなわけで、俺とサミュエル、アレン、ヴィクターで谷の奥に進んでいるのだが。
「なあ、俺たちが行ったら、味方が負けたと分かって逃げるんじゃないか?残りの奴ら」
「確かに、可能性はあります」
「うーん、気づかれずに近づいて眠らせたいな……あ、そうだ。ちょっと浮かんで上から様子見てみないか?」
「浮かんで……まさか」
「そう、浮遊魔法で高めに飛んで行けば良いかなって」
「高めにと行っても、浮遊魔法の最大値は視線の高さ程度とされていますが……」
「大丈夫、俺はある程度調整できるから!」
不自由な赤子洞窟生活で浮遊魔法は鍛えたのだ!
「調整とは一体、むううっ?!」
「うわ!」
「なんだ浮いたぞ?!えっこれどこまで上がるんだよ!!」
「とりあえず木の上くらいの高さで様子見つつ進んで行こう、敵を見つけたらすぐ睡眠かけるから」
「この微妙な高さスゲー怖えーんだけど!」
「そうか?慣れると気持ち良いよ」
「お、王子殿下、普通の人間は空を飛ぶことなどありませんので、これは、なかなか、慣れないかと……」
「大丈夫大丈夫!さて、進むから静かになー」
浮かんだ拍子にサミュエルの腕から抜け出てしまったが、浮いているので問題ない。
ふよふよと先へ進む。そんなにスピードは出ないが、全く音は出ないしそうそう木の上を注視しないだろうから気づかれにくいだろう。
マップを見つつ、残る点に近づいていく。だいたいこの辺りだな。やや離れた上空から下をそっと覗くと、いた。5人いる。話を聞きたい気はするが、前もこっそり話を聞こうとして失敗したしな。それに倒れて縛り上げられている護衛たちも見える。早く助けないと。よし、効果マックスの睡眠魔法!っと。
無事に睡眠魔法がかかり、倒れ伏して眠る彼らの横に降り立つ。
「っああ、気持ち悪かった、俺浮遊魔法は苦手っす」
「そんな事よりヴィクター、まず彼らを拘束しますよ」
「はいよっと……」
寝る5人をサクサクしばり上げるアレンとヴィクター。ちなみに縄は馬車に積まれていた物を持ってきた。何かと役立つためある程度常備されているらしい。スペアタイヤ的な感じか?
「あの異様な補助魔法のおかげで、妙に縛るのが楽ですね……」
「あっ、役立ってる!こういう意味があったのかこの魔法!」
「何か違う感じがします……」
うん俺も何か違う感じはする。
それから、いた、護衛たち。全員気絶しているのか、グッタリとして、縛り上げられて、転がされている。死んではいない……かな?
とりあえず回復魔法を全員にかける。うん、ちゃんと8人いるな。まだ気を失っているが、そのうち目覚めるかな。縄を切りたいが……魔法は外れたら怖いし、ナイフで切るのが確実か。
「アレン、ヴィクター、そっち縛り終わったら護衛たちの縄切ってあげて」
「わかりました!」
「もう終わるからすぐ行きます!」
ふう、とりあえずこれで終わりかな。
……しかし、捕まえた奴ら30人もどうすればいいんだ?それに……こいつらはやっぱり、俺を狙っていたんだろうか。
……聞きだせるかな?
年末年始の更新は未定です。
うっかりここまで読んでくださってありがとうございます!良いお年をお迎えくださいませ。