Germinal Platane 昼前─英雄─
作者:「まだストックできてませんが、一回更新します」
その女は俺に手を差し伸べるでもなくそこに突っ立っている。
「上がるけどさ、そう言うなら手伝ってくれてもいいんじゃないの?」
「え~ヤダ。だって君に触ったら僕の手が汚れるじゃん」
立ち上がった俺は一先ず頼んでみる事にする。
「タオルとか持ってない?」
「はい、タオル」
「あっそれは貸してくれるんだ…」
「貸してないけど?」
「じゃあこれは?」
「出世払いでいいよ」
なんてヤツだ、どさくさに紛れて売り付けてきやがった。
「それで?僕に何か聞きたいことは無いの?無いなら僕は帰るけど」
「じゃあ1つ目、ここは何処だ?」
「ここは池だね」
「そうじゃなくて、地名を教えろ。日本の何処だ」
「日本じゃない、いやもう君のいた地球上所か天の川銀河の中ですらないんだ」
「じゃあここは何処なんだ?」
「そうだね、君たち風に言えば異世界だね」
「パラソルワールドだっけ?」
「パラレルワールドね。でも平行世界とも違うんだ。平行世界はあくまでも一つの起点から派生した異なる可能性の世界であり、その性質はあくまでもその起点となった世界に依存する。今君がいる異世界は平行世界ではない。今君がいるのは、君の世界を作った世界、一世代前の世界が作った数多の世界の一つだよ。ある種のパラレルワールドと考える事も出来なくはないけどあまりにも違いすぎるからね」
「んじゃ二つ目、なんで俺がここにいる?」
「一世代前の世界の人間、君からしたら神に当たる集団の暇潰しに巻き込まれたからだね」
「なんで俺が巻き込まれなけりゃならない」
「それは単に君が一番面白そうだったからじゃないかな?」
「面白そう?」
「そう、面白そう」
「何処が」
「君のそのいまいち不安定な所とか」
「何処がだよ」
「あっ自覚なし系?あっそうそれならそれでいいや」
「んじゃ三つ目だ、お前は何者だ?」
「君は頭も悪そうだね」
「それについては薄々解ってるから言うな。もう一度訊く、お前は何者だ」
「君たち風に言えば神かな。例の暇潰しに巻き込んだ、いや君を暇潰しの対象に選んだ神だね」
「お前かよ!」
俺は怒りに任せて手頃な石を投げつけた。
だが石は神をすり抜けてむこう側に飛んでいった。
「すり抜けた…」
「バレちゃしょうがないか。これホログラムなんだ。それで?もう質問はない?」
「俺の服はどうした?ARgleは?俺の財布は?」
「えーとね、本体ごと池で伸びてるね」
「本体?」
「君の魂だけを抜き取ってきて、この世界の管理区に残ってた体に入れただけだよ。暇潰しが終われば元の体に戻してあげよう」
「暇潰しって?」
「ちょっとしたRPGをプレイしてもらうだけだよ」
「RPG?ゲームか?手榴弾か?どっちだ」
「ゲームの方だよ。ルールは簡単、君が勇者として魔王の脅威からこの世界を救えばゲームクリア、君は元の世界に戻れる。もしも君が何らかの事象で君が死んだらその時点でゲームオーバー。君はこの世界で死んで、元の世界に残してきた本体も凍死する」
「他にルールは?禁止事項は?」
「無いね。魔王の脅威からこの世界を救えれば何をやってもいい、ただし死んだらそれまでだからね?」
「RPG的なステータス画面とかはあるのか?」
「あるよ。左手で下に向かって線を引いてごらん?君がARgleを使うときみたいに」
俺は言われた通りに左手で下に向かって線を引く
するとARgleのウインドウと同じ感じのウインドウが出てくる。
ステータス
name:Shian・Fkase
gender:male
age:19
job:common people
Lv:1
STR:16
VIT:14
AGI:15
DEX:16
INT:14
equipment
・Plain Clothes
・Plain Pants
・Plain Shoes
一応ゲームはやってたからこのステータスは読める。
正直言ってこんなんで世界を救える訳がない。
最初に出てくる青いプルプルにも苦戦しそうだ。
「職業:コモンピーポーとか君はいきなり笑わせてくれるね」
「俺、魔王倒すんだよな?」
「そうだよ」
「なんで職業:一般人?」
「せめてもの餞別だよ。だって実際君は今「無職」なんだから」
「なあ、なんか武器ないの?」
「う~ん、この国の法律で一般人は刃渡り6cm以上の刃物を持ち歩いちゃいけないことになってるからな~」
ガサゴソガサゴソ
「あっ良いものあったーこれを君にプレゼントしよう」
「なにこれ?」
「檜の棒だよ」
「要らねぇよ」
「もっといいヤツがいいの?仕方ないな~」
ガサゴソガサゴソ
「じゃあこれをあげよう」
「おいでかいな、なんだこれ」
それはかなり大きな大砲だった。
「46cm三連装砲だよ」
「持ち運べねーよ」
「えー注文が多いなー」
ガサゴソガサゴソ
「これならどうだ」
それは筒上の何かが袋に入ったような形をしていた。
「なにそれ?なんの役に立つんだ?」
「これはブラックジャックって言うんだよ。特殊警棒と同等の威力を発揮してくれる」
「ブラックジャック…ミリタリーな雰囲気が凄いな」
「えーこれもダメなの?もう仕方ないな~のび夫くんは~」
「のび夫誰だよ」
ガサゴソガサゴソ
「これならどうだ」
こんど取り出したのは鈍い銀色で刃渡り6cm程の小さな剣だった
「それは?」
「Common People's Swordって言うんだよ」
「一般人の剣?」
「そう君にピッタリでしょ?この剣は所有者に合わせて変化してくれる筈だからゲームをクリアする頃にはきっと逞しい剣になっていると思うよ」
「まあそれを貰っておくよ。たぶん一番マシだから」
「檜の棒はお勧めだったんだけどな~」
「それはないな」
「それじゃあ僕はもう行くよ。頑張ってね」
神を名乗った女は消滅した。
「とりあえず人里を探すか」
そうして俺は人里に関連するものを見つけるべく歩き出した。
そして今、俺はゴブリンに囲まれている。
その経緯をこれからザッと流そうと思う。
とりあえずなんでもいいから人里に行く手掛かりになるものを探していた。
あるのは地平線まで広がる草原と、池と、その池に流れ込む沢。
そして何とか見つけた木の車輪
そしてなんだかんだ色々あって(ホントは何にもなかった)轍を見つけて、その轍を辿って行ったら、緑色の肌で、背が低くて、妙に前傾姿勢で、粗末な布切れを纏った人型の何かと遭遇した。
と言うのが約二時間前のことで、あの後その緑の何かの中で長い棒の先に石を蔦で結わえ付けた物を持ったヤツがその棒で殴り付けて来たから、棒を蹴飛ばして、一般人の剣を額に突き付けて言ってやった。
「長い棒を振り回すと危ねえだろうが!」
すると、殴りかかってきた緑のヤツが急に萎縮して謙り始めて、なんだかんだしている内に片方車輪が付いてない荷車に乗せられて、森のなかに拉致られた。
って言うのが約一時間前のこと。
そして何故俺がゴブリン(緑のヤツ)に囲まれているのかと言うのはこのあとの一時間で解る。
他の緑のヤツは地面に座ってこっちを見ている。
「なあ、お前らも食わない?」
緑のヤツらはビクッと震えて、キョドキョドする。
「言葉通じてますか?」
「オデ オマエ シモベ 。オマエ ツオイ 。オマエ サキ タベル 。オデタチ アト タベル 。」
「あっそう。じゃあお前らは人間?」
「チガウ ニンゲン コワイ 。ニンゲン オデ ヨブ ウスギタナイゴブリン 。」
「あーお前らはゴブリンなのな。この辺に人間は来るのか?」
「ニンゲン タクサン クル 。ニンゲン オデタチ コロス 。オデ ナカマ コロサレタ 、ニンゲン キライ 、ニンゲン コワイ 。オマエ ニンゲン 、デモ オマエ ツオイ、オデタチ コロス ナカッタ。オマエ ボス 。」
「ふむ、そう言うことか。とりあえず果物食おうぜ」
俺は一般人の剣を抜いて桃色の果物を適当な大きさに切った。
切れ味は市販の果物ナイフよりちょっと良いぐらいだ。
「ボス スゴイ 。」
俺は適当な大きさの果物を口にする。
「お前らも食えよ。ウマイぞ」
「ウマイ ?」
「ああ、ウマイ」
「コレ ウマイ ヤツ 。」
そして俺はゴブリン達と交流を図りながら、人里に関する情報を聞き出していた。
そして今に至る。
俺は木の棒に一般人の剣をくくりつけていた。
「んじゃちょっと肉を狩りに行きますか」
現代の今時大学生に獣が狩れるのかって?
はっきり言って無理だよ(ヾノ・∀・`)
確かに実家は地方だけど、そんなに野生の動物が出るような所じゃないしね。
でも俺でも出来る狩猟と言うのが世の中には有るわけで
その名も「フィッシング」
餌と棒と糸があればバカでも出来る狩猟方法だ。
じゃあなんで棒に一般人の剣をくくりつけたって?
・・・・・なんでだろう
まあ、それはさておき
そこら辺に落ちてた布の服を解体して糸を用意して、紐を棒に結び付けて、先端に布の服と一緒に落ちてた返しの付いた刃物の破片を糸の先端に括り付けてさっきの池で足らすだけ。
そして十数分
あれ?
あれれ?
おかしいな?
釣れないな…
さて、ここで問題です。
魚が釣れないのは何故でしょーか。
これまでの文章中の言葉を用いて答えなさい。
「貧栄養湖だから」
と答えたあなたは50点、読解能力は有るけど知識が足らないね。
答えは「餌が付いてないから」でした。
バカでも出来るって言ったけど訂正します。
バカでは無理です。
ちゃんとお勉強しましょう。
そしてちゃんと俺の話を聞いていたゴブリン達は謎の腐敗した肉を餌にして、何匹か釣っていた。
もしかしたら俺よりもゴブリン達の方が学習能力が高いのかもしれない。
俺は餌を付けて竿を投げる。
暫くしたらそんなに大きくない魚が釣れた。
俺はそれの頭を落として、切り身にして針に括り付けて竿を投げた。
釣った魚でもっといい魚が釣れたらいいな~なんて思ってやった作戦
名付けて「藁しべ長者作戦」
そして待つこと十分弱。
すると急に強い引きがかかる。
「おっ来た来た来た来た」
竿がミシミシと音を立てる。
「げっ、竿が限界だ」
俺は素早く糸を掴み手に巻き付けて棒を捨てる。
「暇なやつ、ちょっと手伝ってくれ」
「ボス オデタチ ナニスル?」
「ちょっと糸持っててくれ」
「ワカッタ イト モッテル」
俺は糸をゴブリン達に任せて一般人の剣を抜く
そして近づいて来た魚をめった切りにする。
運よく背鰭を深く切りつけることができた。
「よし、もう外さない」
俺は狙いを定め、刃を魚の肋骨に平行にして、切っ先を背骨に向けて突き刺した。
以外と背骨が固かったのか刃は背骨の横に滑って魚の左側を深く切りつけた。
透明な水が瞬く間に赤く染まった。
「オオー ボス ヤッパリ ツオイ」
元リーダーが糸の先に付いた大きな魚を持ち上げる。
「うん、悪くない大きさだな。素人の集団でやったにしては上出来か。んじゃ、戻って晩飯の準備をするか」
俺はゴブリン達を引き連れてゴブリン達の森に向かって歩き出した。
とこんな感じで初っ端はゴブリン達の協力を得たんだよな。
仮にも魔王を倒す勇者だとは思えないよな。
と考えながら俺は再び空中に白い息を吐き出した。