Germinal Morille午後 ─魔王─
作者:「思いたったが吉日なりー」
と言うことで…
やってきました城下町!
普段は上から見てるだけ、着たとき馬車で通過したものの窓から見ただけだったわけで、こうして自分の足で降り立つのは初めてだ。
別に普段の格好でも問題ないと思うけど念の為と言うことで、少し質を落とした貴族用の服を着て質素な外套を羽織っている
「ここが貴族街です」
「貴族街?」
はて、そんな名前だっけ?
確か資料には…
「資料に書いてあるところで言う第四防衛区画に当たります」
「ああ~魔甲壁の設置区画か」
「その通りです。ここは中産市民階級から上流貴族階級の魔族が居住している区画です。比較的治安は良くて我々のような城住まいの人間には過ごしやすい区画です」
「うん、店の並びとか品揃えとか見ても解るけど凄く上品な感じだね」
「あのお店に入ってみましょう」
私はミカに連れられて大きめの店に入った。
そこは、貴族向けの洋服店だった。
「ここ?普通のお店じゃないの?」
「ええ、ごく普通の貴族向けの仕立て屋です」
「ここに何の用なの?」
「すぐわかりますよ」
「?」
用件もよくわからないまま、私たちは奥の部屋に通された。
少し豪奢な(城の応接室に比べれば大したことない)部屋には初老の男性が居た。
「ご無沙汰しております、ミカエラ様」
「暫くぶりですね、ホルク殿。紹介します姫。こちらはこの仕立て屋の主人のホルク殿、ずっと昔はウィリトニア家の仕立て屋でしたが私が隊に入ってからこちらに拠点を移して今までこちらで営業しています。歴代魔王陛下の初陣の衣装を仕立てた実績のある老舗なのできっと姫も気に入って下さると思いお連れしました。ホルク殿、こちらが今代魔王のマキ陛下です、貴方に限ってないとは思いますがくれぐれも陛下に粗相のないようにお願いしますよ」
「お初にお目にかかります陛下、ミカエラ様が魔王陛下を連れていらっしゃったと言うことは、初陣の衣装ですな?」
「それともう一つ、ここに書かれているものをお願いします」
ミカエラはメモ書きをホルクに渡す。
「うむ、後者の方は私の愛弟子のイグルがやりましょう。では陛下、私の弟子達が採寸いたしますので彼女達に着いていって下さいませ」
複数の女性がお辞儀して入ってくる
「よろしくお願いします」
「陛下、こちらへ」
私は彼女達について部屋を出る。
そしてここ数日の間に何回か採寸されることもありスムーズに採寸は終わり、私は元の部屋に戻ってくる。
「姫、お疲れ様でした。ホルク殿、物が出来次第城に届けてください。代金は置いていきます」
「本日はご来店ありがとうございました。今後もご贔屓下さい。私はマキ陛下とミカエラ様の更なる繁栄を祈ります。」
「ありがとうございました」
私は出際に挨拶して店を出た。
「うん、衣装を作りに来てた訳で。それもかなり確りした生地のやつ」
「いえ、それは物のついでです。では次に行きましょうか」
私はミカエラの後をついていく。
次にやって来たのは主に下級貴族と中産市民階級と労働者の多い区画である第三防衛区画、通称:庶民街に来た。
「ここのクレープは美味しいですよ」
「クレープがあるの?」
「はい、九代目魔王陛下が発案された料理でその種類の数は既に数えきれないと報告が上がっています。魔族領域における最もポピュラーなお菓子の一つです」
そっか、歴代魔王陛下も異界人だから向こうのお菓子とかが広まっててもおかしくないんだ
「姫、どれになさいますか?」
「え、っと、ミカエラのオススメは?」
「そうですね、魔蛇莓と乳母牛のクリームは定評があります」
なぜ魔蛇莓?普通に魔蛇苺でいいじゃん
「じゃあ、それにしようかな」
そして出てきたのがこれ。
毒々しいレベルで鮮やかな赤色の莓をふんだんに使った普通のクレープ。
強いて言えば少し大きいぐらい。
そして私にこれを薦めたミカエラが頼んだのは、「骨抜き魔鶏の燻し焼きを魔キャベツで包んで~」というらしい。
言いにくいし長いし、なんでもかんでも「魔」って付ければいいと思ってる節があってなんかヤダ。
それは骨抜きの鶏肉を赤紫のキャベツで包み更にクレープの生地を巻き付けてあるというちょっとした巻物というかブリトーに近い感じだ。
「うん、やっぱりブリトーにしか見えない」
「姫、実際に違いは微々たる物ですよ。本来は生地の材料が違うそうですが、ここではどちらも同じ材料で作るので違うのは見た目ぐらいです」
「そうなんだー」
私達は会話しながら緩やかな坂を下っていく。
そうして庶民街を抜けて、第二防衛区画、通称:工房通りに着た。
ここは余り人通りは多くない。
あるのは工場と少しの民家だけで、居住者も生産職が多い。
ここは重要な区画でもあるため城に繋がる隠し通路が多く、迷路のように入り組んだ路地と建物の一軒から辻の一つに至るまで設置された魔導隔壁と物理隔壁が守りを固めている。
第一防衛区画との間の城壁は一際頑丈に作られており、唯一「魔法反射機構」という過去の魔王が作成した絡繰りが組み込まれている。
もちろん設計したのはあの冠だろうが
この絡繰りは未だに稼働しており、これを破壊する魔法は存在しない。
(物理的な破壊工作で動かなくなった事は度々あるようだが…)
「で、ここには何をしに?」
「あるモノを受け取りに行きます」
今までの流れからあるモノというのは私に関連する物だろう
そうしてやって来たのは、こぢんまりとした工房だ。
「例のモノは?」
「はっ!既に仕上がっております隊長閣下」
「よし!出来栄えを確認する。持って来い」
「はっ!」
「ミカ?ここだけさっきまでの店と違うみたいだけど、もしかして親衛隊の工房?」
「そうです。正統魔王親衛隊の兵装は基本的に隊内で作成しております。この理由はお分かりですね?」
「罠とか小細工を防ぐためだよね?」
「その通りでございます。我々の装備は全て隊内で作成した物を使用しております。それは魔法具一個、装飾品一個に至るまで徹底されており、その製造方法は部外秘となっております。今回は姫へのお守りを作らせました。我々の最先端技術を駆使して作らせましたので効果は折り紙つきです。ただ何分男ばかりなモノで、デザイン性に欠ける場合があるので工房の方の指揮も執っている次第です」
「ミカも大変だね…」
「ピラミッド型組織は最下層の負担が大きそうに見えますが、実際は上へ行くほど負担が大きくなる逆ピラミッドのようになっている…と総隊長が言っていました。とすれば、姫にかかる負担はどうなるのでしょうね」
「支えてくれるでしょ?」
「もちろんですよ。そのための親衛隊です」
「閣下お持ちしました!」
親衛隊員は盆の上に青い布を敷き、その上に赤い宝石の嵌め込まれた金色のペンダントを乗せて持ってきた。
「ふむ、上出来だな。効果は確認したか?」
「はい、問題なく稼働しました。レベル3までの魔法及び物理スキルの拒絶及び反射に成功しまた」
「レベル3か…まあ上等か。よし良くやってくれた。下がってよし」
「レベル?」
「親衛隊内でのみ扱われる魔法やスキルの危険度の指標です」
「レベル3はどのぐらいの威力なの?」
「人擬態級魔族が跡形もなく消し飛ぶレベルです」
「うわぁ、それってアレ、魔刃閃より強いでしょ?」
魔刃閃は前にミカエラが馬車から男を吹っ飛ばす時に使った刺突スキルの名前だ。
「そうですね。魔刃閃よりもう少し威力が高くなればレベル3ですね」
ミカエラはそれをそっと私の首に掛ける。
「え、今?」
「ええ、早い方がいいと思いまして。突然魔法が飛んでくるかもですし」
「いや、それはないよ。魔冠と協力して魔玉と魔鏡の合わせ技で城内の間者は一掃したから」
この緊張状態の親衛隊を突破できる兵士はそうそういない。
さらに突破してもそんな事が起これば警報装置が装置が作動して、魔宝が動く。
二重の防壁でこの城は守られている。
「マキ様自ら手を下されたのですか」
「まあ、必要悪だからね。別に魔剣の錆びにはしてないよ?ここだけの話、例の大砲を作るときにちょっと魔力が必要だったからそうなってもらったの」
非人道的だって?別に人じゃないし、それで帰還に近付くなら幾らでもやるよ
なんとも言えない雰囲気のまま私達は工場を出た。
「姫、確かに間者の始末は必要です。ですが、喩え間者とは言っても同じ魔族です。来るべき英雄討伐には必要な人材です。あまりそう言った使い捨てる様な事はしない方がよろしいかと…出過ぎた発言をしてしまい申し訳ありませんでした。忘れてください」
「次からはもう少しやり方を考えるよ」
私達は夕焼けの町の上り坂を着実に上っていった。
『はぁ…早く拾いに来てくれんかの…』
魔冠はテラスでそう呟いた。
『ふひひ、トップは大変だな。こんな時間まで外で日なたぼっこか』
床が盛り上がりそれに魔玉と魔鏡が乗ってきた。
『魔王がここに置いてったのだ、仕方あるまい、勝手に城を弄るのは不味いんじゃないのか魔玉よ。それをそそのかしたのは魔鏡か…』
『ふーん、それで愛しの魔王陛下はどちらへ?』
『毎度恒例のミカエラの町案内中だ』
『ほーん、けしかけたのか』
『初陣前の息抜きには調度いいだろ?』
『まあ、今回は例のお守りの件もあるしね』
『いよいよ初陣だ。来るべき勝利への第一歩なのだ、是が非でも勝って貰わなくてはな』
『この面子と城と親衛隊が付いてるのに負けるとしたら相当なヘッポコだわ』
『だな、このまま順調に成長してくれれば英雄も塵芥でしょ』
『だが、油断は禁物だ』
『じゃあトップはこのまま星でも眺めてな。俺達は部屋に戻るから』
『おい、待て。お前らもワシを置いていくのか!』
魔玉と魔鏡は盛り上がった床に乗って戻っていった。
『この時期の風はやたらと内側に響くから嫌なんだが…』
日は沈んで、西の空に一番星が輝き、徐々に風も強くなってきた町をミカエラとマキは城に向かって歩いていた。