Germinal Tulipe 午前 ─英雄─
本日、最後の更新です。
俺はディックとサラに連れられて、とある建物にきた。
ある建物と暈したのは「作者が考えるのがめんどくさかった」とかメタい事情が有るわけでは決してない。
「ここが昨日話した職人の工房だ」
「大きい」
「そうか?普通より一回り小さいぞ」
「煙突だな」
「確かに煙突だけは大きいな」
その建物は頑丈そうな石造りの一軒家だ。
その建物の中央から巨大な、建物自体の倍は高さのある煙突が立っている。
玄関扉は無く、窓もない。
あるのは複数の換気扇だ。
この超ファンタジーな街並みでまるでラーメン屋かと思わせる勢いで熱気を排出している。
「はあ、雰囲気の欠片も無いな」
「どうかしたか?」
「いや、あの換気扇が気になっただけだ」
「確かに多いよな」
扉のない玄関?から中に入ると凄まじい
「熱気がヤバイな…」
凄まじい熱気
「ジャン爺さん、また鎧の手入れをお願いしたかったんだが…留守か」
「ワシゃおるぞ?」
「なんだ下に居たのか…」
「ワシの事はいい、仕事か?また鎧だろ?」
「いや、今日はそれ以外にもう一つ頼まれてくれ」
「なんだ盾でも直すのか?」
「こいつは仲間のシアン、こいつにマントを作ってやって欲しい。素材はコレで」
「ん?こりゃファントムハウンドの毛皮か?鞣しがまだ終わっていないようだが…」
「ああ、昨日獲れたばかりの物だ」
「次の仕事はいつだ」
「二日後」
「わかった、なんとか間に合わしてやろう。シアンとやらこっちにこい、採寸してやる」
俺はガッシリ腕を掴まれて、さっきこの爺さんが登ってきた階段の下に引きずり込まれた。
サラがさっきまでと打って変わって嬉々としている。
そんなに俺が邪魔なのか…
と心の中で傷付いた演技をするが、実際はたかが同居人から目の敵にされただけだから特に何とも思ってない。
ああ、同居人じゃなくてパーティーの仲間か…
と言い直して見たものの、このパーティーに長いする気は毛頭無いからどっちしてもどうでもいいか。
下の階は物置の様だった。
全身鎧、部分鎧、兜だけに、その他衣類と数多くの物がそこには押し込められていた。
「こっちじゃ」
俺は掴まれた腕を引っ張られて奥の部屋に連れ込まれる。
奥の部屋は綺麗に片付いていた。
「どうかしたか?手前の部屋が散らかっとったから驚いたか?」
その後、俺はされるがままに採寸されて地上に放り出された。
「終わったか…以外と早かったな」
「もう終わったんですか(もっと遅くても良いのに…いや寧ろ)」
なんか、仲間に対して言うような事ではない言葉が聞こえた気がするけど気にしない気にしない
「いい感じに作って貰えればいいんですけどね」
「じゃあ次行くか」
「次は何処に?」
「とりあえずギルドだな。一先ずお前の冒険者…地域によっては討伐者とも言うんだった。何にしても登録をしないとだし、序でに修練場も借りてくるつもりだ」
「修練場?」
「正式名称は多目的広場だが。殆ど戦闘訓練と模擬戦にしか使われていないから俺は修練場と呼んでいる」
「ふーん」
いっそうサラの目付きが悪くなったのは他所に置いておく。
「お前程の才能があるなら戦闘訓練に興味を示すと思ったんだがな…読みが外れたらしい」
「確かに戦闘訓練は必要だ。間違いない。だが、興味があるかと言われれば微妙だ」
魔法の練習は結構好きだけどただ剣を振り回すのはそんなに好きじゃない。
「そうか…」
「だが、魔法の練習は嫌いじゃないぞ」
「俺は魔法は苦手だ…魔法関連はサラに頼んでくれ。だが槍と剣と盾の使い方や戦闘での立ち回りや動き方と言った事なら教えられるからバンバン訊いてくれ!」
「まあ、剣も槍も使えるようにならないとだし今度教えて欲しい」
「あぁ、お安い御用だ。と言いたいところだが俺程度でお前に教えられることが幾つあるか…」
「残りの事は、他の奴に頼むなり編み出すなりすればいいだろ」
「あまり力になれなくてすまないな」
「泊めて貰ってる身だし、基礎だけでも十分有難い」
「まぁ何にしても武器がソレだけって言うのは不便だろうし、とりあえず一般人から抜け出さないとな」
「そうだった」
「それも兼ねてのギルドですし」
「ギルドで冒険者になってしまえば、刃渡り6cm以上の得物も持てるようになる」
「そう言えばそんな法律もありましたね」
サラは不機嫌な顔を一瞬で切り替えて会話に参加してきた。
「そう言えば杖に関する法律は聞いたことがないんですけど」
「一応あるぞ?十歳以下の子供は杖を持ってはいけないって言うのがあるが…殆ど機能してないのも現実だな」
「杖なんて魔法を使わなければ只の杖と見分けが着きませんからね」
「実際違いあるのか?」
「ありますよ。ちゃんとした杖の方が魔法を発動させやすいですよ」
「詠唱する魔法をまともに使った事がないからよくわかんないな」
「ギルド着いたら、普通の魔法の使い方を教えましょうか?」
「是非教えてくれ、いやください」
今のやりとりで一気にギルドが楽しみになった。
踊ればいいって?
やっぱり呪文も唱えたいじゃん。
そういうのってロマンだろ?
そして時は流れて、ギルドにて。
俺は空欄だらけの書類を書いている。
ギルドにきて二つ驚きがあった。
一つ目、何と公用語が日本語だった。
ステータスは英語、暦はフランス革命暦なのに、何故か公用語は日本語だ。
神様が手配してくれたのだろうか?
だとしたら感謝だ。
二つ目はこの世界の通過に関してだ。
この世界観だし、科学全然発達してないしだからてっきり通過は貨幣だけかと思ったが、紙幣もあった。
だが、やはり発展途上なようで紙幣はそこまで普及していないらしい。
「はい、登録完了です。こちらは身分証明書の勾玉です。」
「勾玉ですか…」
またも世界観ぶち壊しのアイテムが…
普通、カードとか腕輪とか紋章じゃないの?
「はい、勾玉です。ステータスを書き換える魔具にもなっていますので肌身離さずお持ちください」
「これは持ってるだけでいい感じ?」
「いや、装備しないと意味をなさないぞ。俺は無くさないように腕輪に編み込んだぞ」
「私はネックレスにしました」
「ご希望でしたら、勾玉をストラップ、腕輪、ネックレス、ピアス等に加工致しますよ」
なんと勾玉の加工もギルドでやってくれると言う。
是非お願いしよう。
「よろしくお願いします」
「はい、どのように加工しますか?」
「じゃあストラップで」
「では少々お待ちください」
受け付けのお姉さんはささっと勾玉をストラップにした。
茶色の革紐で結わえられた白い勾玉は黄色掛かった光を発する魔具に照らされてキラキラと輝く。
「加工がいたしましたので、何処か常に身に付けられる所に結んでおいてください」
ひとまずベルト(腰紐)に着けておく。
「それで、多目的広場を借りたい。後ろの二人の分も含めて幾らだ?」
「銅貨6枚です」
「出すか?」
「いやいい」
ディックは懐から銅貨を7枚取り出す。
「一枚はチップだ。さ、行こうか」
ディック曰く修練場、正しくは多目的広場に来た。
そこはギルドの裏に建てられたちょっとした広場で。
広さはだいたいバスケットボールコート二枚分ぐらいだ。
なぜ建てられたと表現したかと言うと実はこの広場、屋内なんです。
ちょっとした円形の体育館の中に作られた広場で、これと同じ大きさの広場が地上に二枚、地下に一枚で合計三枚ある。
建物の構造もかなり頑丈に作られているが、魔法による強化もされているらしい。
普通に対人戦を行う程度ならびくともしないしないらしい。
現代技術では難しいことをなんなくやってのける魔法とは…と少し考えたが直ぐに考えることを止めた。
「じゃあ先ずは準備運動がてら俺と一戦しよう、面倒だから二人同時で構わない」
そう言ってディックは借りてきた刃のない槍を構える。
サラは既に杖を持っている。
俺は右手に一般人の剣、左手に借りてきた刃のない短剣を持っている。
実は刃のない直剣も借りてきているが一先ずは隅に置いてある。
サラの杖がこっちを向いている。
「称号:水魔法使い、蛮族魔術師の弟子、ゴブリン魔法の使い手、水の剣士、踊る魔法剣士、職業:魔法使い、冒険者、スキル:魔法剣舞か発動しました」
俺も踊る
清水を湛える湖のように、鏡のような水面のように。
奇しくも俺が踊り終えるのとサラが唱え終えるのはほぼ同時だった。
俺の作った水球は幕の様に広がる
サラの作った水球は分裂し棘の様に鋭くなり、当然のように俺に向かって飛ぶ。
別に慌てる必要はない
あらゆる物を反射する様に踊ったから。
それにあっちも自分の使った魔法の対処ぐらいできるだろう。
続けて踊って、両手の剣に氷の刀身を纏わせる。
今回は模擬戦だから刃はなく、どっちかって言うと棒に近くなっている。
水の棘は幕に弾かれて作成者に向かって飛ぶ。
サラはギリギリの所で避ける。
その間にディックに接近して右手の一般人の剣を振り下ろして、左手の短剣突く。
ディックは右手の振り下ろしを回避して左手を槍で防ぐ
「二度同じ手は食わなっ」
俺は右手で逆袈裟に切り上げる。
氷の棒は鎧に防がれて、喧しい音を響かせて砕けた。
直後俺は後ろに飛び退る。
さっきまで俺が居たところを炎球の行列が弾丸のように通りすぎていった。
水の幕の方を見やると、水の幕には無理矢理ぶち破ったような穴がデカデカと空いており。
それをやった張本人は少し焦げていた。
「派手にやってくれちゃって…」
「サラがやる気らしい。これもシアンのお陰か」
そうですね
としか言いようがなくて困る。
なんか色々吹っ切れたのか、俺に向かって恐ろしい勢いの魔法の嵐が襲ってきてる。
それをとりあえず避けて、切って、弾いてと対処しながら隙をみて舞う。
不可視の何かを焼くように、溢れる気力を燃やすように、青く静かに揺らめくように
両の剣に青白い炎が灯り短剣の方は氷を侵食するように燃やしてその勢いを強め、一般人の剣は空気中の魔力を燃やして静かに刀身を伸ばした。
しかし、それだけでは終わらない。
青白い炎から出た火花は空気中の魔力に引火して、火の玉のように空中で怪しく燃え上がる。
「なんでもアリだな、おい」
「どうせ今朝の魔法と同じでしょ」
サラは魔法障壁を展開する。
「無駄」
俺は駆け出して魔法障壁を斬りつける。
斬りつけた所から魔法障壁が燃え上がる。
そして、そこから魔法障壁内外の魔力を燃料にして燃え広がる。
すると後ろから槍が突き出される。
「忘れて貰っちゃ困る」
「そうだったな」
俺は辺りの魔力を燃やしながら距離を取る。
「この炎のトリックはわかっている。魔力だけを燃やしているんだろ?その証拠に地面や壁は燃えても焦げないし煙も出ていない」
ディックは槍を持って距離を詰めてくる。
俺は動じることなくディックを青い炎で焼く。
青い炎がディックに燃え移り、激しく燃える。
「ふっ、俺は焼かれて困る程の魔力も持ってないか…?なんだこの微妙な倦怠感…は…」
ディックが地面に倒れ伏して暫くすると青い炎も消えた
「こいつが燃やすのは魔力だけじゃない。この炎は魔力と一緒にやる気とか闘志とか気とか呼ばれる目に見えない物を燃やして」
いい終える前に俺の前を青い炎の塊が通り抜けていった。
「まだ動けるだけの力が残ってたのか、流石だな」
サラは杖の先端をこっちに向けて地面に倒れていた。
「じゃあ二人を移動させて、俺は自主練するかな」
「熱心なこったね」
「ダン、見てたのか」
「いや、ついさっき来たとこだ。水の障壁でサラの魔法を跳ね返した辺りから見てるな」
「殆ど最初じゃないか」
「まあ、そんな事はどうでもいいだろ?なんでもいいから第二回戦と行こうぜ」
「二対一でタコ殴りにしてあげる」
「昨日四対一で負けて得物折られたやつがなに言ってんだか」
「そういうことは勝ってから言うことね」
「じゃあやるか」
俺は両手に持った青い炎の剣を構えて舞った。
更に少し経つと修練場は静かになった。
「ふー、いい運動した」
俺は額の汗を拭い自分の功績を眺める。
先ず、床に転がった四人が目につく。
次に目立つのは聳え立った氷柱だろう。
他にも壁を這う氷の茨とか空中に停滞する青い炎とか修練場の一角を占拠して、壁に沿って枝葉を伸ばした氷の薔薇とか、片付けが大変そうに見えるぐらいに戦闘の痕跡が残っていた。
だが、実際は大した事でもない。
青い炎で焼けば全て消える。
まあ、抉れた地面とか壁の傷は治らないけど。
俺は水を纏った剣に青い炎を灯して、部屋の中の魔法の痕跡を燃やして回った。
「はあ、四人が起きるまで舞うか…」
俺は再び舞い始めるのだった。
そして暫くの間好き勝手に魔法を炸裂させ、剣を振り回した。
四人が起きてから俺達はギルドを出た
町中に立てられた駅前の掲示板みたいなのに兵士が張り紙をしている。
「あれは何だ?」
「あれは御触れだ、国王とか教会が主に張り出す方針みたいな物だな」
「みたいな?」
「大概遠回しな表現で書かれてるからよくわからないんだよ」
「遠回しか…確かにその通りだな。市民に解りにくい難解な文で書かれている場合が殆どだな」
とりあえず掲示板を見てみる。
『And was calling on those who have information relating to the discovery of the proof of the following who have proof of the following heroes according to the heav'nly place were told by the oracles of God's Word, and that as soon as possible Church. It'll those who rebelled, ready to pay reasonable compensation to coworkers, and we』
その下には例によってロトの紋章みたいなが書かれている。
「うむ、読めん!」
「長いし解りにくいしつまらん、最低な文章だな」
「直訳するとこうだ『此度の神託の儀により告げられたありがたき神の御言葉によれば、英雄は下記のような証を所持しているとのこと下記の証を持った者の発見又はその者に関する情報を持つ者は至急教会参上されたし。なお、協力者には相応の報酬を支払う用意が我々にはあり、反逆した者には神罰が降るであろう』って書いてある。要するに、この紋章みたいな証を持ってるヤツを探せってことだな」
「よく読めるな」
「いや、貴族としては当たり前だ」
うーむ、今から教会に行くのは得策とは言えないか…
もう少しこの世界を楽しん…じゃなかてこの世界に順応してからの方がいいか。
なによりあの神様の思い通りになるのがなんかイヤだ。
「そのうち読めるようになったらいいな」
「すぐなるさ」
「だといいけど」
「じゃあ俺らはこの辺で」
ダンは唐突に言う
「ああ、またな」
ダンはミアを連れて中世ヨーロッパ風な町並みに消えていった。
「うむ、これからどうするかな」
「とりあえず、お昼にしませんか?」
「そうだな、運動したら腹減ったな」
そうして俺は初めて中世ヨーロッパ風な異世界で近代日本風な醤油ラーメンを食べた。
「志庵?大丈夫か?」
「少しボーっとしてました」
「今日は疲れたんだろ?折角だし家寄ってけよ、なんか食わしてやるよ」
俺と違う点その四、顔がいい上に料理もできる。
ここまで圧倒的な差が開いてたらそりゃ周りに居る女の人数も変わるはずだな、と内心納得する。
「じゃあお言葉に甘えて」
俺達は池を回って先輩が住む小さめのマンションに向かって歩いていった。