Germinal Asperge 夕餉─魔王─
とりあえず、追加でーす
『お前、ワシをここに置いてくのか?』
「誰があんたみたいな性悪冠なんか被るもんですか」
『でもワシ、叡智を授ける偉大な魔冠様じゃぞ?ワシが居るか居ないかで勝率は天と地の差が出るんじゃぞ?なのにワシをこんな埃っぽい悪趣味な空間に置いてくつもりか?』
「ええ、その通りよ」
『ワシ、ここで百年も新しい魔王が来るのを待ってたんじゃぞ?』
「だから?百年待ってたならもう百年ぐらい待てるでしょ?」
『さっきの開通五年物の中古女がいかんかったんか?謝るから!謝るから!ワシを外に連れ出しちくり!』
「ん~、ヤダ」
服装を整えた私は荷物をもって部屋を出る。
「お怪我はありませんか?」
「大丈夫、何ともないから」
「魔笛と魔冠はどうなさったのですか?」
「置いてきた。今は必要無いかなって」
一同呆然
「別に要らないの、特にあの冠は要らないの!ほら儀式は終わったから、夕食の準備しよ」
「では準備に取り掛からせます」
「あっ、それとこの城を管理を親衛隊の皆に任せるのは無駄が大きいから、使用人を募集して。夕食の次点での最優先でね」
「了解しました」
「あっそれと色々相談したい事があるから今日晩、時間作って」
「わかりました。お前たち、職務を開始しろ」
親衛隊の人が蜘蛛の子を散らす様に解散して各々の仕事を始める。
閑散としていた魔王城が一気に騒がしくなる。
さて、私も一日でも早く帰還する為に英雄討伐の準備を始めよう。
『で、さっき要らないって言ってた割りに早く戻ってきたな』
「期待の魔王が冠と相談してるって言うのは士気に関わるでしょ。だからなるべく内密にしとくの」
『ほーん、で何が知りたいんだ?』
「ぱっと指針を決めちゃおうと思って」
『指針?』
「とりあえず他の偽魔王を一掃するんだけど何処から攻めるか迷っててさ」
『なんだそんな事か…それなら』
「あっ待って、やっぱり先にこの壁を壊してからにする」
『なに!?壁を壊すじゃと!』
「うん、だって邪魔じゃん。その為に魔剣も持ってきたし」
私は魔剣を抜き魔力を纏わせる。
「称号:ルーンナイト、三流剣士、職業:魔法剣士、スキル:光刃閃駆が発動しました」
『おい、お前!?まて早まるな!』
私は剣を肩で担いで更に魔力を注ぎ込み、振り下ろす。
床を斬りつけた剣は黒い大理石に深々刺さり、放出された魔力は剣の鋭さをそのままに斬撃となって床を走って床ごと魔法陣を切断して、炸裂した魔力は床を砕いてその破片も砕いた。
魔法陣が破壊された事で結界は跡形もなく霧散した。
一連の行動のせいで床の埃が舞い上がり、完全に埃っぽい空間になってしまった。
そんな中でサクッと服装を整えた私は魔笛と魔冠と魔剣を持って部屋を出た。
そして夕食の後
私は自分の部屋(一時的に勝手に決めた)でラサールと相談していた。
「また無理を仰有られる…」
「ラサールには政務とか親衛隊の統率とかお願いすることになるから、私の教育係りは他の人にお願いした方がいいでしょ、で教育係りはミカエラにお願いしようかなって」
「確かにミカエラは忠臣で、実力もあり、教育係り向きですがマキ様の教育係りとなれば話は別です」
「確かにミカエラと居ると自分が魔王だって忘れかけるけど、それは彼女から学べる事が数多く有るからだと思うし、彼女と居た方が有事の際に安全じゃない?」
「確かにそうですが…ではミカエラだけではなくメルも教育係りになさるのであればいいでしょう」
来たコレ!
「じゃあ明日メルにもお願いしとくね、それと英雄討伐の準備を始めようと思うの」
「ええ、勿論です。ですが魔王と違い英雄は出現場所が毎回変化するため、後手に回らざるを得ないのも事実です」
「だから、後手に回わる準備を始めるの」
「一体何をなさるつもりですか?」
「当然の事だけど偽魔王を一掃する必要があるでしょ。次に攻城兵器の開発でしょ。魔族領域を統一したら統治機構を確立しないとだし、その為の資財を獲得するためにも多大な労力が必要だし、とりあえずここら辺の偽魔王を一掃しちゃいましょう」
「といいますと?」
「この辺で一番勢力が大きいのは勿論私達で、次点がホールン・カラビレン、カラビレン地方を領有してる家柄で元は将軍職を数多く輩出した名家。カラビレン地方は農業と鉱業が盛んな地域で比較的魔族人口も多くて狙い目でしょ?」
「確かにそうですが…何故そのような事を?」
「魔冠にこの辺の話をちょこっと聞いたの。で、何をするにしても力を示す必要が有るから標的を絞った訳」
「ですがいきなりカラビレン地方を攻めますか…」
「そうだな~、魔冠からの入れ知恵で色々教えて貰ったからね。誰が魔王かってことをハッキリさせてかつ反乱を起こせない様にすればいいなら手っ取り早い方法あると思ってね。それで親衛隊を百人ぐらいカラビレンに入り込ませて欲しいんだけど」
「はい?」
その後、ラサールは驚き続けた上に最後に苦笑いしながら退出した。
さて、私も明日から準備を始めよう。
『なに、勝手に〆に入ろうとしてるんじゃ?』
「あのさぁ、私疲れてるんだけど?てか、なんで被ってないのに声が聞こえるの?」
『そりゃ、ワシは魔王の頭脳とも呼ばれた言わばナビゲーションシステムだぞ?そう簡単に切り離せる物では無いのだ』
「ふーん」
『なんだ以外とあっさりだな』
私は魔冠を無視して、魔玉を手に取る
『おい、それはさっきも言ったが城を動かす玉じゃぞ。そんな物を持ってどうするつもりじゃ』
「え?この雑音を消すの」
私は玉に念じる。
『ちょまっ─・・・─・・・・・・』
「よし、静かになったしおやすみなさ~い」
そして月が真上に上がった頃私は眠りについた。