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Germinal Asperge アフタヌーン─魔王─

作者:「お久しぶりです」

マキ:「ホントね」

作者:「いや、遅れたの半分ぐらいは君のせいだからね?」

ラサ:「作者の分際でマキ様を愚弄するとは恥を知りなさい」

作者:「いや作者の分際って…」

日が高く登り、少し降りた頃

 

私は、止まった馬車の中で待っていた。

 

馬車の中の面子は変わっていない。

ただ全員武装しているだけで。

 

現在、私たちは本日五回目の襲撃を受けています。

 

外からは金属同士がぶつけられる音と、悲鳴と、轟音が響いてくる。

 

「少々長いですね。総隊長は何をしているんでしょうか」

 

「そうですね。やはり私の魔法で一掃してしまっては?」

 

この大司教様はさらっとこういうことを言う。


「いえ、大司教様が出られては魔王陛下に危険が及びますゆえ」

 

「ならいっそのこと私とミカで出れば」

 

「姫、それこそ本末転倒です。事が収まるまで待ちましょう。有事の際は私が陛下と大司教様をお守りしますゆえ」


そうして待つこと数分。

断末魔を最後に外が静かになった。

 

「終わったようですね」

 

「不快にさせてしまい申し訳ございませんでした。これより出発しますのでもう暫しお待ちください」

 

「とりあえず安全運転でよろしく」

 

そしてまた十数分後

 

「六回目かー、ここまで来ると慣れてくるね」

 

「そうですね。慣れるというのもどうかと思いますが」

 

「姫、慣れて頂いては困ります。いつ英雄が攻めてくるかもわからないのに魔族同士の対立などしていては拉致があきません」 

 

勢いよく馬車の扉が開かれる。

 

「偽魔王の首を頂く!」

 

入ってきた筋骨隆々な男はそう言いながらミカエラに剣を向ける。

 

だよね、やっぱり私よりミカエラのが魔王っぽいよね。

 

ミカエラは白刃を鞘で防ぐ


鞘の中身は既に抜かれて男の腹部に鋒を向けて白く発光している。


そして次の瞬間にはそこに男は居らず、馬車が大きく傾いていた。

 

「流石は百人隊長様、容赦ないですね」

 

「一応、手加減と言うことで腹部だったのですが。姫と大司教様をあの者の血で汚しては総隊長に叱られますゆえ」

 

馬車から何らかの強大な力で弾き出された男は、外の少し離れた所でまるで壊れた人形のように転がっている。

 

両手足があらぬ方向に曲がっており、腹部も右側が消失している。

 

「少し狙いがずれましたね」

 

「十分でしょ。むしろあの威力で馬車が無傷なのが不思議」

 

「私の攻撃で姫に傷をつけては元も子もありませんから」

 

念のため私も抜き身の剣を直ぐに持てる位置に置いておく。

 

「姫様のお手を煩わせる事はありませんのでご心配なく」

 

仕方なく私は剣を鞘に納める。

 

「陛下は私が守ってるから貴女はこのゴタゴタを片付けてきて」

 

「ですが」

 

「私は大司教様よ。こんな所でやられるとお思い?」

 

「では、もう暫くお待ちください」

 

ミカエラは馬車を降りると、騒々しい戦場で白銀を煌めかせながら確実に敵兵に死をばら蒔く。

 

それはまるで交響曲の流れる舞踏会で踊る姫君の様であり、姫君を踊らせる王子の様だった。

 

「いくら百人隊長と言っても、やはり元は貴族ですね。戦い方が泥臭くないですね」

 

「私の教育担当ミカエラにお願いしようかな」

 

「ラサールが五月蠅いと思いますよ」

 

「やっぱり?」

 

そのあと数秒も経たない内に外は静かになった。

 


そして更に一時間ちょっとで馬車は平原の上にポツンとある巨大な壁を抜けてその内側の一際大きな建物に向かっていた。

 

「あれが魔王城…」

 

「いえ、我々は既に魔王城に入っています。この城下町も含めて魔王城なのですから」

 

「それは民は皆、家族的なってこと?」

 

「いえ、城下町も魔王城の城壁の一部なのです」

 

「それって攻め込まれたら、地の利を活かして市街戦に持ち込むとか?」

 

「町の各所に仕掛けた罠や隔壁を城から遠隔操作で動かしたり、町の各所を城から確認したり出来るんですよ」

 

「それにいざとなったら、城自体を使って敵を一掃することも」

 

「待った、凄い物騒な城だね。そこまで城を強化してどうするつもりなの?」

 

「記録によれば何代も前の魔王陛下のご意向とのことです。彼の魔王陛下はこの城を使って人類領域を恐怖に陥れただけでなく、大国の首都を幾つも吹き飛ばして魔族領域を急激に押し広げたそうです」

 

「攻防共に完璧な兵器なんだね」

 

「まさに魔王陛下に相応しい城です」

 

「魔王に相応しいって、単に物騒な城じゃん」

 

「いえ単に物騒ではございません。優美さと荘厳さも兼ね備えています」

 

そうして私たちは白いレンガで作られた城の中心に辿り着く。

 

「大変お待たせいたしました。こちらが魔王城こと逢魔刻の城です」

 

「なぜ逢魔が時…」

 

「城を建設された第六代魔王ソウスケ・ゴトウが名付けたそうです」

 

「第六代魔王は日本人なんだ」

 

「ニホンと言う国に関しては幾つか文献が残されていますよ。多くの魔王陛下がお話しされたと記録に残されています」

 

「メル、もしかして魔王の記録を全部覚えてるの?」

 

「いえ、申し訳ありませんが正確な数字までは覚えておりません」

 

そして私たちは所々歯車や水晶が配置された城内を移動する

 

「この城凄い絡繰りっぽい」

 

「多種多様な仕掛けがありますので」

 

「それも歴代魔王が作ったの?」

 

「ええ、どれもその時代の技術力では再現が難しい物ですよ」

 

「やっぱり私もこういう仕掛け作らなきゃダメかな?」

 

「いえ、既存の仕掛けのみで英雄と戦った魔王陛下も大勢いらっしゃいます」

 

「でも、考えるだけ考えとくよ」

 

「考えることはまた後程にしていただきたいのですが」

 

「なんか他に予定がある?」


「目的地に到着いたしました」

 

「目的地?」

 

「魔宝継承の間です。これよりマキ様には先の魔王陛下が創られ、代々受け継がれてきた魔王の宝、すなわち魔宝を継承していただきます」

 

その部屋はこの世界で最初に見た部屋に似ていた。

磨き上げられた黒い大理石の床にはうっすらと魔法陣が刻まれており、何故か魔法陣の外側にだけ埃が積もっている。

魔法陣の外縁と接する様に描かれた五芒星の頂点にはこれまた黒い大理石の台座があり、その上にはそれっぽい雰囲気を纏った宝?が鎮座している。

 

「入らないの?」

 

「私共が入ることは初代魔王陛下と魔神の名の下に禁じられております。ですのでここから先はお一人での儀式となりますがマキ様ならば無事成し遂げられると信じてます」

 

ラサールは静かに敬礼する。


「まあ、やるだけやってみるけど」

 

魔法で照らされた部屋は明るい。

 

私は埃の積もった床に踏み出す。

 

一歩歩く毎に長い年月をかけて堆積した埃が舞い上がる。

 

靴に埃がつくのはこの際気にしない。

そして魔法陣の内側に踏み出そうとすると爪先が何かに当たった。

 

「ん?」

 

そこには何もないあるのは埃によって表された境界線だけ。

 

試しに足下の何かを手で触れようとするが何もない。

そして魔法陣の内へ踏み出そうとすると見えない壁に阻まれた。

 

見えない壁に手をついて体勢を立て直そうとするが、見えない壁に触れることは出来ない。 


「わわわわっ」


手と頭はどんどん壁の向こうに入っていくが、足と胴は少しも入らない。

 

そして私は肩を壁にぶつけて、そのままズルズルと斜めに壁の表面を滑り、埃だらけの床に倒れた。

 

「あーあ、埃だらけ。少しは掃除したがいいんじゃない?」

 

とりあえず服についた埃を払う。

 

「無理っぽいけどどうしたらいいの?」

 

「いえ、私に言われましても。この部屋には魔王しか立ち入ることが出来ないとされてまして。歴代魔王陛下もこの部屋の事を事細かに話さなかったので、詳細は解らないのです」

 

「この部屋の結界について第13代魔王陛下が『本当に魔王しか通さない結界だ』とだけ仰っていますが、たかが従者に過ぎない我々には到底解りませんでした」

 

「魔王しか通さない、頭と手は良くて胴と足はダメ……とりあえずドア閉めるね」

 

私はラサールが喋り出す前に扉を閉めて鍵をかけた。

そして足元の埃を

 

「……女は度胸よ」

 

私はマントを脱ぐ。

 

次に髮紐を解き、指輪を外し、手袋を取って、軍服風な黒い軍服(それもうただの軍服じゃん)を脱いで…

スルスルと装備を解除もとい着衣を脱いで、あっという間に一糸纏わぬ姿となった。


「私の読みが正しければこれで入れるはず」

 

私は再び埃と魔法陣の境界線を越えようと踏み出す。

 

今度は見えない壁に阻まれる事なく魔法陣の内側に入れた。

 

「それでどうすれば良いのかな…」

 

とりあえず中心に立ってみる。

 

「何も起こらないと」

 

とりあえず五つの台座を見て回る。

 

「鏡?にしては何も写ってない」 

 

それは白銀で縁取られた黒い鏡、磨きあげられた鏡面は驚くほど暗く一点の光も写していない。


いや、暗い中に一部だけ明るい場所がある。

そこをじっと覗き込んで見る。

そこには白く輝く球体が写っていた。

 

「なんだろうな」

 

鏡はそのままに次に行く

 

それは金色のホイッスルだった。

特に何の変哲もない。

強いて言えば、振るとカラカラ言う。

中に球体が入ってるタイプらしい。

でも魔宝というからには何らかの意味があると思うから吹くのは止めた。

 

次は禍禍しいオーラを纏った剣

宝石が散りばめられてる訳でも金銀で作られている訳でもなく、刀身が黒いことを覗けば特に変わった所はない。

強いて言えば唾に大きな紅い宝石が嵌め込まれているぐらいだ。


私は試しに持ってみる


「わぁっ!この剣凄い」

  

剣は昨日特訓したし、振りまくったからなんとなく解る。

 

この剣は凄く使いやすい。

 

重すぎず軽すぎず、しっくりくる重量に、振りやすい長さ、少し細身だがそれ自体の重量で撓らない硬さ、それらは直ぐにでも何かを切ってみたいと私に思わせる程だった。


流石に物を切るわけに行かないので、少し素振りをして、台座に戻した。

 

次はソフトボール大の水色の水晶玉だ。

何これ?占いの真似でもするの?

とりあえず下のクッションごと手に持ってみる


「ん?なんか写ってる」


水晶玉の中にはソワソワと扉の前で歩き回るラサールが居た。それをみっともないとメルが注意して、ミカが苦笑している。

 

「これって外だよね?どうなってるんだろう」

 

よくわからなかったから台座に戻して

 

次に行く。


最後の台座の上には金色の王冠が置かれていた。


王冠には色取り取りの宝石が使われている。

ただ一つ気がかりなのはなぜセンターに嵌め込まれているのがエメラルドなのかだ。

 

「まあいっか」

 

一先ず冠を被ってみる。

 

『やっと被ったか、待ちくたびれたぞ』

 

「えっ誰!?」

 

反射的に胸と恥部を隠す

 

『誰もお前なんかに興味はないわい』

 

謎の声は続ける。

 

『お前みたいなクラスで上から7番か8番目に可愛いやつ等誰も気にも止めんわな』

 

「失礼な奴ね!これでもクラスで5番目に可愛いっつうの!」

 

『5も8も1じゃなければさして変わらんわ』

 

「まあ確かに…でも男性経験はそれなりに積んできたつもりだし」

 

『今、自分で「私はビッチです」って言ったようなもんだぞ?』

 

「ビッチじゃないし、そんなにたぶらかしてない」

 

『えーとなになにふむふむ、初体験が中二の奴は少なくとも清純とは言わんな』


「なっなんで知ってるの!?」

 

『ほーん、隣のクラスの翔くんとヤったんだの~、それも自分の部屋で』

 

「そっそんな事まで!」

 

『ヒィフゥミィヨォイツムゥ…成人前で8人は食い過ぎじゃないか?』

 

「うるさいうるさい!人の事に口出ししないで!」

 

私は踞り耳を塞ぐ

 

『無駄じゃて、脳に直接話しかけてるからのw』

 

謎の声は更に続ける 

 

『ふーん、まあ予想通りだな。最近の彼氏にはヤり逃げされた様じゃな。まあ、お前みたいな開通五年物の中古女じゃの』

 

「グスッ…中古じゃないもん…グスッ…まだ現役だもん…」

 

『www、百年間放置された分くらいは楽しんだな。ワシは魔冠。魔王の魔王たる証の一つにして、魔王に偉大なる叡智を授ける冠じゃ』

 

「───────」

 

『いつまで泣いとるんじゃ。なんなら魔玉とつるんで城中に放送するぞ?』

 

「…どうせ私は中古女のクソビッチですよ!」

 

『まあ、そう言うな。言ったのはワシじゃが…別に向こうで彼氏が出来なくても、こっちで王子を婿にすれば良いだろ?向こうの三下平民男なんかよりも異世界系美形王子のが良かないか?玉の輿じゃぞ?(…既にそこらの王子が格下になるぐらいの地位じゃが(ボソッ)』

 

「ん~~~ん」

 

『なに?愛がなきゃ嫌だって?そりゃ難しい相談だ。地位が上がればそう言った物よりも状況が重視されるようになるからな~』

 

「んーー!!」

 

『どうしても?あっ今、外でウロウロしてるラサールなんかどうじゃ?お前の記憶の中の彼氏と比べれば異次元並の美形だし、ああ見えて正統魔王親衛隊の総隊長だし元はシュメール地方の領主の一族だし、何より王佐兼宰相兼魔王育成係りだぞ?魔王の次に権力を握っとるようなもんじゃろ?』

 

「ーーーー」

 

『え?育成係りはミカエラ・フォンウィリトニアに任せる?それでもラサールも結構権力持っとるだろ?』

 

「ーーー!」

 

『権力の問題じゃない?でもラサールならお前の望みの愛もあるぞ?(まあお前が言えば誰とでも結婚でも心中でもするだろうがな(ボソッ)』

 

「ーーーーー」

 

『もっと、純粋な愛が欲しいねぇ…(こいつめんどくさい女だな)』

 

『あっ、ワシが魔玉と魔鏡とつるんで相手を惚れされるってのはどうだ?これならお前の言う純粋な愛を持った超絶美形王子も作れるぞ?』

 

「───」

 

『そんな作り物の愛は要らない?いや、逆に作り物じゃない愛ってなんだ?』

 

「それはこう、柔らかくて、甘くて、フワーって幸せになって、脳が蕩けちゃいそうな」

 

『マンゴープリンじゃな!』

 

叡智を授ける冠は大した叡智も授けずに人の傷口に辛口の現実を塗り込む冠でした。

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