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Germinal Asperge イレブンシス─魔王─

作者:「更新でーす」

「ふぁ~あ」

 

目の前に広がっているのは見知らぬ天井ではなく、見知らぬ天蓋だ。

 

コンコンコンコン

 

朝からノックが多い。

 

「どーぞ」


「おはようございます、マキ様。昨夜はよく眠れたようですね」

 

「お陰さまで…」

 

「寝起きの所すみませんが、お召し替えを」

 

ラサールはいつの間に用意したのか、黒い衣装を持っている。

 

「あー、その辺置いといて。着替えとくから」

 

「いえ、そういう訳にはいきません。魔王城に入場された後、マキ様には身辺だけで軽く百人を超える召し使いが仕えますので今から慣れて頂きたいのです」

 

「はあ、でも着替えぐらい自分でやるよ」

 

「ああ、なんと言うことでしょう。マキ陛下はいたいけな更衣係りの首を跳ねると言うのですか!?さすがは魔王陛下、自らの民に対しても残虐無道ですね!」

 

「いや、そこまで言ってない…」

 

「では、お召し替えのお手伝いを受け入れて頂けますね?」

 

「え?ラサールがやるの?」

 

「僭越ながら現状は召し使いが居ませんので私が代わりをさせて頂こうかと」

 

「メル、呼んできてくれる?」

 

「メルは朝の礼拝に」

 

「何を勝手に他人の予定に口出ししているので?ラサール王佐殿?」

 

「もうお戻りですか。流石は大司教様、仕事が速いですね」

 

「メル、悪いんだけど着替え手伝ってくれる?」

 

「ええ、勿論ですとも。じゃあ、ラサールは邪魔だから出てって。朝食の準備でもしてきなさい」


「お願いね」


「はっ慎んでお受けします」

 

ラサールは急ぎ足で部屋を出ていった。

あの調子で準備して、朝からフルコースとか作らないか少し不安になる。

 

「陛下、王佐の扱いがお上手ですね」

 

「そうかな?普通にお願いしただけなんだけどな」

 

「でも、あの変態王佐も困ったものですね」

 

変態王佐は言い過ぎでは?

と思いつつも私は笑って誤魔化す。

 

「ラサールの癖に乙女のお召し替えの手伝いをしようとするなんて、ほんとにどうしようもない変態ですね。ね?マキ様?」

 

既に王佐も付かなくなった。

 

「う、うん。そうだね」

 

思わず言っちゃった…

 

「大丈夫ですよマキ様、この事はラサールには言いませんから。もし盗み聞きしてたら、それこそあんな変態打ち首にしてしまえばいいのですから」

 

この二人、妙に打ち首って単語を出すな~

 

「でも、それだと王佐は誰が?」

 

「誰か適当な人をマキ様が選べばいいんですよ。なんなら私を選んで下さってもいいんですよ」

 

「あははは、そっそうだね」

 

もう笑うしかない。

 


そして食堂に来ると、案の定ラサールは寸胴を五つも並べて待っていた。

 

「やっぱり…」

 

「朝食の準備は既に完了しています。マキ様の為に腕によりをかけて作りました。どうぞ、ご賞味ください」

 

「えっと、それ全部?」

 

「ええ、勿論です。時間が足りなかったので少々少ないですが…ご容赦ください」

 

「いや、多すぎるって言うか」

 

「すいません。作る前に確認を取れば良かったですね。以後注意します」

 

「うん、次からは寸胴も要らないから」

 

「寸胴も要らないと仰有ると言うことは、寸胴ではなく大釜で煮ろと言う事ですね。了解しました。至急、最高級の大釜を用意いたします」

 

「いや、普通の片手鍋でも多いから、もっと少なくていいよ」

 

「寸胴一口も必要ないと?」

 

「そうそう」

 

「いや、これは予想外でした。魔族は皆、片手鍋ぐらい容易く飲み干すので、てっきり魔王陛下ならその三倍の寸胴一杯飲み干すのかと…」

 

「じゃあ、その考えは今すぐ上書き保存して。今どきの魔王は低燃費だからそんなに食べない。わかった?」

 

「ではそのように諸書物も書き換えさせます」

 

「うん、そうして」

 

「それでは、どうぞ召し上がって下さい」

 

長机の上に並べられたのは白いシチューと黒いシチューと黄色がかったクリーム色のスープと濃い鼈甲色のスープと多種多様にパンと少々のサラダ。

そしてこんがり焼かれた肉、見た感じ鳥っぽい

 

「これ、なんの肉?」

 

「アサトッタバカリの新鮮な肉ですよ」

 

「朝、何を取ってきたの?」

 

「アサトッタバカリです」

 

「何それ?」

 

「毎年冬になるとアサトッタバ地方に集結する雁です。この時期になるとこの辺を通過するので、それを今朝確保しました。」

 

「お疲れ様です」

 

うん、なんでかな~スープが多い

 

「何かお気に召さないことでもおありですか?おありでしたら私の全力を持って修正致しますが?」

 

「いや、なんでもないよ」

 

私はとりあえずパンを手に取る

 

少し固いから白いシチューに浸して食べる。

 

味は家庭料理レベルで見れば美味しい

 

ラサールもなんだかんだ言っても王佐だから盛りつけは宮廷料理っぽい。

宮廷の料理を食べたこともなければ、見たこともないからなんとも言えないが…

 

ただ一ついちゃもんを付けるなら、視線がうるさい。

 

別に何か特別なことをされてる訳ではない。 

ラサールは昨日のメルと同じく後で見ているだけ。

 

それでも現代日本人の感覚だからか、食べてる姿を後ろから見られているのは耐えられなくはないが気持ち悪い。

でも、これを言うとまたなんか有りそうだから食べることに集中する。


そうして、二日目の朝食はほとんど無言で食べた。


そして今、私は馬車の中で紅茶を楽しんでいる。

これまでの所はサクッと説明すると、朝御飯食べて、魔王城に行くことになって、初めからスタンバってたかのようにラサールの部下が出てきて、馬車に乗ってレッツゴー。

って感じかな。

 

かなり揺れるから、カップから目が話せない。

 

「もうしばらく揺れますから注意してください」

 

私の前でティーカップ片手にそう言うのはメルだ。

 

「もうすぐ街道に出ます。街道に出れば少しはマシになるので、それまで我慢してください」

 

と言っているのは御者台で馬を繰っているラサールだ。


そして私の隣には、見た目は私より少し年上で超絶美形なお姉さんが座っている。

彼女はミカエラ・フォンウィリトニア、ウィリトニア地方を領有している一族の出身らしいが、今ではラサールの部下こと「正統魔王親衛隊」の一員らしい。

私と同じカップで紅茶を飲んでいるのに、立ち居振舞いは私よりよっぽど王族っぽく見える。


「はぁ」

 

「姫どうかなさいましたか?場合によっては総隊長(ラサール)を八つ裂きにしますよ」

 

「いや、ただ自分の庶民らしさを噛み締めてるだけです」

 

「姫、私に敬語を使われるのはお止めください。それから、姫に庶民らしさなどございません。大変高貴な雰囲気に満たされて居られます」

 

とありもしない事を褒め称えられるのもまたこしょばい。

 

と私の乗っている馬車の現状を説明し終えた処で、外の現状を説明しようと思う。

 

外は今、断崖絶壁に挟まている。


いや、馬車がギリギリ通れる広さの崖の隙間を私たちは進んでいる。

 

実はここ、まだ呼魔の神殿(昨日から今朝まで私が過ごした建物)の中なんです。

 

呼魔の神殿は小さい山を丸ごと頑丈な岩で出来た超高い塀で囲って、その中を所々刳り貫いたり、その上に建物を建てたりして造り上げた、自然と魔族が一緒くたになった城砦なのだ。

 

所々山(川も流れてるし地下水も流れてる)で、所々城(地下が大部分を占める)、そして極一部神殿という、なんともちぐはぐな難攻不落の城砦なのである。

 

私たちが今いるのはその城砦の入口付近

 

外側を囲っている塀が内側に入り込むようになっており、超頑丈かつ滑らかに磨きあげられた壁が長々と続いている。壁を登ることを許さず、上から一方的に敵を攻められるように考えられているらしい。

最悪、壁を崩して入り口を塞いでしまえば侵入不可能な山が出来上がる。

 

そして私たちが乗っている馬車の前に馬に乗った兵士が四騎、後ろに八騎、その後ろに馬車が一台、更にその後ろに四騎居る。

 

後ろの馬車には、かなりシブイ顔付きのザッ魔王陛下(偽)が乗っている。

 

そんなアメリカ大統領の移動のような形で私たちは魔王城を目指している。

 

魔王城

曰く、魔王のみに従属する絶対の要塞

曰く、数多の英雄を迎え撃ってきた歴戦の城塞

曰く、有事の際は一都で大国を1個、小国なら5~6個焼き尽くす最終兵器になる

曰く、呼魔の神殿と並んで双璧をなす城砦

 

どうも、魔王城もここと負けず劣らずの防御性能とここ以上の攻撃性能を誇る城らしい。

 

かなり物騒で不安になってくる。

 

「姫何かお悩みで?」

 

「ちょっと自分の未来について…って姫って呼ぶの止めてくれない?」

 

「ご命令とあらば…」

 

「命令じゃないけどさ」

 

となんともやりづらい空気の馬車は神殿から出ようとしていた。

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