1/13 夜─英雄─
はい、改めまして新規投稿です。
至らない点も多いと思いますが、その都度ご指導頂けるとありがたいです。
1/13 22:30
深夜とは言い難いが街灯の少ない公園は相応に暗く、真冬故にかなり寒かった。
そんな寒空の下
俺、深瀬 志庵は一人、公園のベンチに腰を下ろしていた。
公園には自分の他に人影はなく、雲一つない、黒インクを溢した羊皮紙の様な空に寒月が浮かんでいる。
「今日も明るいな…」
一定間隔で街灯が立っているとは言え、その間はそれなりに開いておりお世辞にも明るいとは言い難い。
だが少し前まで大きな町でなければ街灯もない所に居た俺からすれば確かに明るく感じる。
すると俺の視界の端に手紙のマークが点滅する。
「ん?メールか…」
俺は右手を前に出し、そっと振り下ろす。
すると俺の指がちょうど触れるか触れないかの位置に白い板、いやウィンドウが出現する。
ウィンドウには幾つかのアイコンが表示されており、さっきの手紙のマークもある。
俺は少し躊躇いつつその手紙のマークを指先で触れる。
差出人は『 』となっている。
俺は今まで凍っていた血が急に溶けだしたような感覚を覚えた。
俺は焦る気持ちを抑えつつメールを開く
「『シアン様、我らが英雄様、そちらでいかがお過ごしでしょうか。きっとあなた様は私共がいなくても何不自由なくお過ごしのことでしょう。しかし我らはあなた様無しでは生きた心地がしません。あなた様の無事とお早いご帰還を遠い異世界より祈ります』だってさ。君もすっかり英雄じゃないか、彼らのテレパシーじゃ君の町まで届かないから僕が代筆しといたよ。まあ、君は精々今のうちに堪能しておくといいよ。君が望んだ、過ぎ行く何げない日常ってやつをさ…」
メールなのになぜか三点リードで終わってる。
何処までも厨二臭いヤツだと思って俺はニヤつきながら指先でウィンドウの右上のバツ印をタップしてウィンドウを閉じる。
「あれから半月ちょっとか」
そう呟いた俺は真っ黒な寒空に向かって白い溜め息を吐き出し、過ぎ去った過去に思いを馳せることにする。
12/24 20:38
ここ最近では珍しく雪が積もり、数年ぶりのホワイトクリスマスとなった。
俺はコンビニのバイトでサンタの格好をしながら路上でケーキを売っている。
これが売れ残ると残った分を買い取らされるから一個でも多く売らないとと声を張り上げるが、クリスマスイブの
夜八時それも雪が降ってる中で態々コンビニにケーキを買いに来る人は多くなく、疲労と雪がしんしんと積もっていく。
そして人が途切れて仕事が終わり、俺は何をするでもなく雪で道と芝生の境い目がわからなくなった公園を歩いている。
別に何か目的があってここにいる訳じゃない。
この時の俺は無意識の内に、意味もなく「変化がない」という結果を残して過ぎ行く日常から抜け出したいと、思ってしまっていたのかもしれない。
俺の視界の端に手紙のマークが点滅した。
俺の右腕は自然と前に翳され、下に向かって線を描いた。
差出人は『 』となっている。
どうせイタズラだろうと思ってウィンドウを閉じて、再び歩き出した。
すると間を置かずにメールのマークが点滅する。
俺はウィンドウを開く、差出人は『 』だった。
俺は一度ため息をついてから、メールを開く。
メールには一言、
『右向け右』
と書かれていた。
俺は無視しようとウィンドウを閉じるとまたもメールのマークが点滅する。
俺は仕方なくメールの言う通りに右を向く。
右には凍りついて雪が積もった池があるだけだ。
俺は池に不審な点が無いか凝視する。
そして何もないと言うことにして歩き出そうと一歩を踏み出した。
積もったばかりの雪が心地よい音を立て、その下のアスファルトが俺の体重の殆どを支えてくれ──なかった。
「んなっ」
俺は間違えて芝生に踏み込んでしまったのだ。
この公園は緩やかな傾斜で下の池もさして深く無いからということで道と斜面の間に柵が設置されていない。
そして俺は体勢を崩して、滑るとも転がるとも言えない形で斜面を滑落して、氷の張った池に落ちた。
バイトの後で疲れきっていた俺は水面に張った氷に突き破った衝撃と寒さの前で意図も簡単に意識を手放してしまった。
目が覚めると俺は池の畔に打ち上げられていた。
水温は少し低めだが、そのせいか暖かな春の日だまりが非常に心地よい。
ん?春!?
12月から3月末まで池の畔で倒れてるとか、春眠暁を知らずも程があるだろ!
と起き上がると、そこは俺の知っている公園ではなかった。
池はとても透明度が高く貧栄養湖であり、公園の池よりもかなり深い。
俺が打ち上げられている畔も綺麗に整備された芝生ではなく、大小様々な石がありまばらに雑草が生えている、自然感が半端ない水辺だった。
「なんだこれ」
俺は時刻を確認しようと右腕で下に向かって線を描くがウィンドウは出現しない。
「衝撃で壊れたか?」
俺は右耳に装着していた超小型ARウェアラブル端末「ARgle」を外そうと右耳に手を伸ばすがそこに有るべき電子機器はそこになかった。
「無いっ!?いや、アレ高いんだぞ!ちょっと待てよ、そりゃないって…」
よく見れば、服装まで変わっていた。
何このいまいちな肌触りの服、ダッサってかなんで俺着替えてんの!?
「言いたい事が尽きないかもしれないけど、とりあえず水から上がったらどう?」
俺は体を反らせて声がした後ろを見ると、そこには俺を見下ろす偉そうな女が立っていた。
あと、更新は基本不定期とします。
理由はウインドの方の更新で手が回らないからです。
なので、ストックが1話出来たら1話更新するようにします。
長期間更新がストップすることもあると思いますが、気長に待っていただけるとありがたいです。