俺、靴下を盗難される &ゲームを購入する
タンスの中には先輩の服が畳んで置いてある。
ワタシはその中の一着をためらうことなく自分の身にまとった。
さらに右手には先輩の洗い立ての下着。
そっと鼻に付け一気にその香りを吸引する。
あぁ、ワタシは今先輩に包まれているのね。
そのかつてないほどの快感に身体が熱く火照りだした。
そしてそっと左手を自分の太もものほうへ━━。
「何してるの?」
「わっぷ! しぇ、しぇんぱい!? いつからしょこに!?」
「「タンスの中には先輩の服が畳んで置いてある」くらいのところから」
「最初からじゃないですかっ!」
「それで、なんなの? 俺の家は君達の巣かなにかなの? 何で学校から帰って来たらもうすでにいるの?」
「ち、違うんでふ先輩! 学校にいたら先輩のタンスから下着が落ちる音が聞こえたので急いで駆けつけたんでふ!」
「そしたらいつのまにか俺の服を着て、あげくのはてにはパンツの匂いを嗅いでいました、と?」
「そうなんでふよー! 全く困ったもんでふ!」
「そっか。あのね、もうツッコミが追い付かないんだよ。頼むから俺にツッコむ暇をくれよ。というかもう何からツッコめばいいかもわからないよ」
「やだ先輩、突っ込むだなんて……」
「……」
「……ごめんなさい先輩。そんな目で見ないでください。あぁ、でもその冷めた目で見下されるのもいいかも……」
「薄々もう手遅れなんじゃないかと思い始めてきたところだよ。あとその制服のポケットからはみ出してる俺の靴下は置いていってね」
◇
「先輩お願いします! 今履いている下着をください!」
土下座した西園が開口一番そう言った。
「娘さんを僕にくださいみたいなノリでとんでもないもの要求してきたね。絶対反省してないだろ? あと固くお断りするよ」
「そこをなんとか! もう洗ったのじゃ満足出来ない身体になってしまったんです!」
「何かの中毒者みたいな事言うなよ。というかポケットからはみ出てる靴下の量がさっきより増えてるのはどういう事なんだよ」
「このままじゃワタシ……ワタシ……!」
「話を聞けよ」
霧島さんの事件があってからというもの彼女達の奇行はますます熾烈さを極めていった。
最近ではもうツッコミを入れることすら面倒くさい。
ツッコんでいるのはこっちなのに逆に俺の胃のほうに穴が開きそうである。
「しぇんぱい……」
「そんな捨てられた子猫みたいな目をしたってダメだよ」
「こんなに頼んでるのに……?」
「うん」
「こんなにこーんなに頼んでるのにぃ……?」
「ダメ」
「こんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんにゃくこんにゃくこんにゃく?」
「くどい」
「うぅ……分かりました……今日のところは帰ります……」
「西園」
しょんぼりしながら部屋を出ていこうとする西園を俺は引き止める。
「……はい?」
「靴下は置いてけ」
西園は逃げた。
◇
「西園のやつ、俺のタンスの靴下全部かっぱらっていきやがった」
翌日、俺は靴下をわざわざコンビニで買ってから学校に行くこととなった。
「タクヤン! ついに! ついにこの日が来たぞ!」
俺が最初の授業の準備をしているといきなりサラダが俺の机の上に立ってそう叫んだ。
「いきなりどうしたんだよ?」
「タクヤン! 忘れたのかよ!? 今日が何の日なのか!?」
「今日? 何かあったかな?」
それに対してサラダは机の上で地団駄を踏む。
「お前、タクヤン! 今日は【ドラゴンクエスチョンⅨ】の発売日だろうが!」
「あーそうだったな」
【ドラゴンクエスチョンⅨ】
それはあの有名なドラゴンクエスチョンシリーズの最新作である。
俺とサラダはずっと前からこの日を心待ちにしていたのであった。
「やべぇよタクヤン……俺は今、楽しみ過ぎて手が痙攣して全身はズキズキと痛み、頭は鈍器で殴られたような感覚を味わっている……」
「それ絶対違うから、今すぐ病院行けよ」
「うおぉぉぉぉっ! 帰ったら俺はすぐにドラゴンクエスチョンをやるんだぁあああっ!」
「佐良田! お前授業が始まるというのに何してる! 廊下に立ってろ!」
「……はい」
その放課後、いつものメンバーで店へと赴く。
「私、こういうお店に来るの初めてだわ」
「あまり縁がなさそうだもんね」
「むっ、どういう意味よ?」
「佐藤先輩! 早く早く! ワタシ佐藤先輩といろんな意味で通信プレイがしたいです!」
「西園、もう俺は何も言わないよ。ただ一言言わせてもらうならば靴下返せよ」
「あぁ、しぇんぱい! 放置プレイだなんてそんな!」
「だから話を聞けよ」
「タクヤン! 俺も軽く禁断症状が出てきたから早く買いに行こうぜ!」
「お前は病院行けよ」
そうしてお目当てのゲームを購入した俺達は早速遊ぶことになった。
もちろん俺の家で。