俺、ラノベ的展開に巻き込まれる
「おはよう拓也君、よく眠れた?」
「うん、おはよう」
あ……ありのまま
今起こった事を話すぜ!
『俺が朝目を覚ますと布団の上に女の子が乗っていた』
な……何を言っているのかわからねーと思うが
俺も何が起こっているのかわからなかった……
頭がどうにかなりそうだった……不法侵入だとかヤンデレだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。
「よし、もう一回寝るか」
「ちょっと、現実を受け入れたくないからって二度寝はひどくない!?」
俺の上に乗っていたのはもちろんというべきか、霧島さんだった。
「だってこれが現実なわけないだろ。朝起きたら同級生が上に乗ってましたなんてどこのラノベだよ、神様仏様が認めても俺は絶対認めないよこんなの。あとそのバッグから溢れんばかりにはみ出している俺の下着はちゃんと置いていってね」
「あら、こんなに可愛い女の子が朝起こしてくれるなんて最高のご褒美じゃない……ほらぁ、ここ? ここがいいんでしょう?」
「……」
「……謝るわよ。だからお願い、そんな目で見ないでくれる? 本当に、お願いだから」
◇
「それで、君は俺の家の場所が分かったから早速家に侵入した、とそう言いたいんだね?」
「正確にはすでに尾行して家の場所は知っていたけど拓也君に教えてもらえるまで我慢していた、よ」
「サラッととんでもないこと言うの止めてくれる? え? 君病んでるの? 君は会話という名のカレーにいちいち特大の糞を放り込まないと気がすまないの?」
「もう拓也君ったら……今は食事中よ?」
俺はそれに対して聞くなら今しかないと思い箸を置いた。
「そう、それだよ。さっきから言おうと思ってたけど、どうして君は当たり前のように俺の家で朝ご飯食べてるんだよ」
すると霧島さんの隣で新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた俺の父親、一也が話に割り込んでくる。
「おい拓也。わざわざお前の事を起こしにきてくれたこんな可愛い同級生にむかってその口の聞き方はないだろう、お前のために朝ご飯も食べずに来てくれたこんなに可愛い同級生にむかって。謝りなさい、この可愛い同級生に」
「親父は黙っててよ。まずあんた朝にコーヒー飲みながら新聞読むようなキャラじゃないだろ。あと可愛い同級生って何回言うんだよ」
「ばっ! お前! 父ちゃ……お父ちゃんさんはいつもこんな感じだろう、何を言っているんだ」
「取り繕ったつもりかもしれないけど全然出来てないからね。なんだよお父ちゃんさんって」
「うふふ、拓也君のお父様ったら面白いですね」
「うほっ! お、お父様だなんて……照れるなぁおい……!」
「凄い、女の子はこんなにも猫を被れるんだと俺は今感心しているよ。そして出来れば自分の父親が自分の同級生に鼻の下を伸ばしているのなんて見たくなかったですマル」
◇
そしてその後、親父が仕事に行き俺と霧島さんは二人で玄関先に立った。
「それで、今から俺達は学校にいくわけだけど。さっき教えたことは覚えてるよね? まぁ一つだけだから忘れるはずないとは思うんけど」
「ええ」
「本当に? ちょっと心配なんだけど。一回復唱してみてくれる?」
「疑ってるの? ……わかった、いいわよ。「一緒に玄関を出ること」はい、これでいいでしょ?」
「もうね、俺は驚くよりも先に君の将来が心配だよ。物忘れが激しいとかいう次元じゃないよ? わざと? わざとやってるの? 俺が言ったのは「別々に玄関を出ること」なんだけど。頼むよ本当に、確かに思春期の学生は覚えることがたくさんある。それは分かる、分かるよ? でも覚えるのほんのこれっぽっちじゃない。何? 君の脳みそはもう容量いっぱいなの? コンコン、霧島さんの脳ミソさん容量いっぱいなんですかー?」
俺は霧島さんの頭にノックして問いかけたが彼女はすぐにそれを振り払う。
「細かいわね、同じようなもんじゃない」
「君、控えめに言って馬鹿なんじゃないの? いやマジでばっかじゃねーの? ばーかばーか」
「……ばかばかうるさいわね」
「いいかい? まず第一に俺が別々に玄関を出ようって言ったのはそれが学校の誰かに見られた場合、大騒ぎになる可能性を考えてなんだ。「あ、あいつらもしかして同棲してんじゃね?w」「あいつら学校来る前から盛ってんな(笑)」なんて噂が広まったら君も困るだろ?」
「いいえ全く」
「そこは困ってくれよ。わかった、じゃあそんな噂がもし君の両親の耳に入ってみろ。流石に困るだろ? 困るよね? 困らないと俺が困るんだけど」
「いいえ、あなたとの事はもう両親に話してあるから全く困らないわ。ノープロブレムよ」
「何でだよ。おかしいよそんなの」
「というわけだから一緒に出ましょう。大丈夫よ、最初は誰も嫌がるけどだんだんと癖になっていくから、ね?」
「一体何の話をしてるんだよ? ちょっと押すのやめて」
霧島さんに押されるようにして玄関から飛び出る俺達。
そして玄関の外には二人の人影。
「おはようタクヤ……ん?」
「あっ! 佐藤先輩! 今日一緒に学校いこうと思って誘いにきたんですけ……ど……」
━━サラダと西園だった。
あわあわと必死に口を動かし何かを言おうとしている。
きっと動揺で上手く喋れないのだろう。
前に聞いたことがある。
こういう時、一番最初に場を乱したヤツが自分のペースに持ち込めるのだと。
言ってたの誰だったかな?
おばあちゃん? いや、おじいちゃん?
はたまた隣の家の山田さんか?
まぁ、今それはどうでもいい。
出来るだけインパクトのある発言でこの場の主導権を俺が握るのだ。
俺は一人の人間の前に立ちこう告げる。
「俺はお前が好きだ」
その場の全員が突然の事に驚いた顔をする。
まぁ、当然か。
俺だって逆の立場ならビックリするね。
なんたって俺が告白したのは━━。
「タ……タクヤン……お前……」
「好きだ、サラダ」
━━サラダだったのだから。
◇◆◇
なんてやぶれかぶれの作戦を実行したものの、乗り切れるはずもなく結局一部始終を西園達に話し事なきをえた。
が、その後からサラダと話す時の距離が少し縮まった気がする。
やったぜ。