俺、告白される
屋上に取り残された少女は先ほどゴミクズと罵った少年の言葉を思い返す。
━━所詮、君も他人を上っ面で判断していたってことだよ。
男なんてみんな同じものだと思っていた。
━━自分の容姿に全ての男が付いてくるとは思わないほうがいい。
男なんてそういうヤツばかりだと思っていた。
でも彼はちゃんと私の間違っているところを指摘してくれた。
私をちゃんと「見てくれた」のだ。
生まれて初めてだった。
こんなに動揺したのは。
「これが……恋……」
そんな少女の呟きは何もない青空へと消えた。
◇
「おー! おかえりタクヤン! どうだったどうだった!?」
教室に入るといきなり一人の男子生徒に肩を組まれた。
コイツの名前は佐良田葉。
みんなからはサラダバーと呼ばれている。(俺はサラダと呼んでいるが)
そして俺の親友である。
「何が?」
俺はサラダの質問が分からずに聞き返した。
「っ!? タクヤンお前とぼけんなよ! あの茨姫に告白したんだろ!? どうなったんだよ!」
「あぁその事か。別に何にもないよ」
それを聞いたサラダは真顔になる。
「は? 何にもって……もしかしてダメだったのか……?」
「うん、振られたよ。凄いボロクソに罵倒されてね」
「……怒ってるよな……タクヤンに教えなかったこと、何で霧島美奈が茨姫って言われてるのか……アイツすげぇモテるけど、でも告白したやつ全員に暴言吐くからそれを皮肉ってトゲトゲの茨姫って……だけど俺タクヤンに……」
「全然怒ってないよ。むしろ俺のためを思って黙っててくれたんだろ? 今まで一度も告白したことのない俺が躊躇しないようにさ。ありがとなサラダ」
「……タクヤン……なぁ今日はパーッと飲もうぜ」
そう言って缶を大量に鞄から取り出すサラダ。
「おい、俺達まだ未成年だろ。しかもここ学校だぞ……って」
机に置かれていたのは大量の「缶」コーヒーであった。
俺の勘違いだった。
「カン」だけに。
うるせぇぶっ殺すぞ!
「さぁ、パーッとやってパーッと忘れよう! そして明日になったら全部よくなってるさ!」
サラダが俺を席に座らせ、缶を開けた。
缶コーヒーを開ける時の炭酸とはまた違った「カコン」という音が鳴る。
「そうだな、明日の事は」
「明日の俺達に任せろってな。今日に乾杯!」
そうして俺達二人は互いの缶をぶつけ、乾杯した。
そのまま二人で弁当を食べ始め、馬鹿話をしはじめる。
するとサラダが急に俺の顔を見てこんな事を言いだした。
「なぁ、タクヤン。お前さっきからちょっと変じゃねぇか? ……もしかしてまだ振られた事引きずってるのか?」
「え?」
俺はそれを不思議に思い箸を止める。
その頃にはもう俺は自分が振られた事などすっかり忘れていたからだ。
「なんかタクヤンいつもと違うんだよな。どこがっていうとわからないけど。うーん……」
「何言ってんだ。あと顔近いよ」
そんな会話をしていた時だった。
教室が急にザワザワと騒がしくなる。
「ん? あれ茨姫じゃね?」「え? 何でウチのクラスに茨姫が……」「相変わらずの美少女だなオイ」
見れば教室の入り口に彼女が立っていた。
「佐藤拓也という人はこのクラスにいますか?」
「おい、今タクヤンの名前呼ばれたぞ。アイツまだタクヤンのこと馬鹿にしようってのか……許せねぇ、文句言って……タクヤン何で止めるんだよ?」
そう言って立ち上がろうとしたサラダを俺は止め、首をふった。
「自分の事だから自分で話を付けるよ」
そしてゆっくりと彼女のもとまで歩いていく。
不思議と恐くはなかった。
もう何を言われても大丈夫。
そんな不思議な自信があった。
俺を見つけると彼女は途端に笑顔になる。
あの日、子猫にご飯をあげていた時のとても優しそうな笑顔に。
そして一言こう言った。
「拓也君、私あなたの事気にいった。私と付き合って」
「「「「ええええぇぇぇぇぇっ!!!!」」」」
その瞬間、クラスメート全員が驚愕の声を出した。
俺も何を言われたのか一瞬分からなくなり唖然としてしまう。
「あれ? 周りとは違って全然あなたは驚かないのね? もしかして疑ってる?」
そう言いながら腰に手を当て、怒ったようなあざといポーズをする彼女。
何だって?
俺が驚いてないだと!?
逆に驚き過ぎて顎外れそうだわ!
上唇から上の部分が後方へ投げっぱなしジャーマン食らってるわ!
そんな俺自身の心の声は置いといて、霧島さんは話を続ける。
「でもこれは本当。拓也君、私あなたとなら付き合ってもいい……ううん、あなたじゃなきゃダメなの」
「「「「嘘だろぉおおおおっ!!!」」」」
絶叫が再び巻き起こる。
もう俺の教室は人類滅亡するが如く混沌と化していた。
「霧島さん、少し外に出て話そうか」
俺は人目を気にしてそう提案する。
「私は別に構わな」
「いや俺が構うんだけど」
しかし悪びれもせずにそんな事を言うもんだから食い気味に俺はそう言って彼女を外に連れ出した。
◇
「拓也君ったら大胆……」
「それで、一体何のつもりなの?」
彼女がなかなか話を始めないので俺は単刀直入に尋ねた。
「何って、え? 告白だけど?」
頭にはてなマークが見えるくらい首をかしげる彼女に俺は呆れた。
「いや、だからついさっき俺を振ったのになんでその君が告白してきてるの? 馬鹿なの? 新手のツンデレか何かなの?」
「馬鹿とはひどいわね、私は本気よ」
一体どういう心境の変化だよ!
まだ振られてから10分もたってないよ!?
乙女心と秋の空とは言うけど流石に秋の空でもこんなに激しく変化しないよ!
もはや朝と夜ひっくり返ってるよ!
「おはよーございます奥様」
「あらやだ田中さん、今は「こんばんは」ですわよ」
「あらいけない私ったら……オーホッホッホッ」
みたいな感じだよ!
そうだよ、もう自分でも何言ってるか分かんないよ!
「それで、返事は?」
気付けば霧島さんが俺の顔を覗きこんできていた。
そんなに顔を近づけられたら動揺しすぎて心臓が止まって……あれ?
そこでようやく俺は自分の違和感に気づいた。
━━あれ? 俺、全然動揺してないじゃん。