佐良田、異世界に行く
さぁ、あなたはどこまで突っ込まずにいられるかな!?
「なぁタクヤン、俺異世界に行きてぇ」
昼、俺が弁当を食べているとサラダが突然そう切り出した。
「異世界? なにそれ?」
聞き返すとサラダは「まさか知らねーの? え? マジでありえねぇ、うわぁ遅れてるわー」みたいな顔をする。
顔を斜め上に傾けてこちらを見下すような、そんな顔だ。
今すぐにでもコイツの腋をコチョコチョとくすぐってやりたいと思った。
耳に息をフーッと吹きかけてやりたいとも思った。
俺のそんな恐ろしい内心も知らずサラダはピッと指を立て、異世界についての解説を始める。
「いいかタクヤン、異世界ってのはなぁ……異世界ってのは……なぁタクヤン、異世界ってなんだ?」
「知らないよ」
なんだコイツ。
そんなんでよくさっきの顔ができたな。
俺が呆れて弁当に視線を戻すのを見て慌てるサラダ。
「ま、まぁ聞けって。最近俺はとある小説投稿サイトにハマってるんだよ」
「小説投稿サイト?」
「おう、【小説家になるまで止まるんじゃねぇぞ】っていうサイトなんだけど、そのサイトには今俺が言った異世界というのが頻繁に登場するんだよ。これがまた最高の世界でなぁ……グヘヘ」
「へぇ、そのサイト名は気にしたら負けとしてどんな世界なんだ?」
俺は仕方なくサラダの話に付き合うことにした。
「なんとハーレム作り放題! 最高だろ!?」
が、やっぱりやめることにした。
サラダのこういう系の話は付き合うと大体ロクなことにならない。
だがサラダは勝手に喋り続ける。
その綺麗な唇をどう塞いでくれようか?
「もう一回言うけど異世界に行くととにかく女の子にモテまくるんだよ! これはもう行くしかねぇだろう!? あああああああっ! 俺も異世界に行って女の子にモテまくりてぇっ! 奴隷少女にケモ耳少女、金髪ドリル娘等様々な属性の美少女から熱烈なラブコールを受けてぇよぉぉぉっ! ……なんだよそこの女子! さっきから変な目で見やがって! 俺が何かおかしいこと言ってるかっ!? あぁん!? 言ってねぇよなぁ!? なんたってハーレムは男の夢だからなぁっ! グハハハハハッ!」
「……」
「……なぁタクヤン、露骨に態度に出してシカトするのはやめようぜ。傷つくから、なんか俺だけこの教室の異物みたいで傷つくから」
「安心しろよ。異物みたいじゃなくお前は異物そのものだ」
「ひどくないっ!?」
◇
「というわけで俺は異世界に行こうと思う!」
「どういうわけだよ」
放課後一緒に帰っていたサラダがまたそんな事を言い始めた。
(ちなみに霧島さんは家の用事、西園にあってはこの前俺の家からシャツを窃盗していったため、罰として少しの間放置するということで不在である)
「そんで俺は部活休みだぜ! お前結構休み多いなとかそういうツッコミはタブーだぜ!」
「デッ●プールじゃないんだからナチュラルに地の文に割り込んでくんなよ。で? どうやってその異世界とやらに行くつもりなんだ?」
サラダは顎に手をあて少し考えた後、こう答えた。
「死ぬしかねぇな」
「今すぐやめろよ、リターンに対してのリスクが半端なくデカすぎるだろ」
「何でだよ!? あっちの世界はハーレムでおっぱいがいっぱいなんだぞ!? いや、おっぱいがおっぱいなんだぞ!?」
「最初ので合ってるよ、なんで言い直したんだよ」
サラダはスマホを取りだし、操作したあと俺の前に突きつける。
「見ろ! 異世界に行く大半の人間は必ずこういう過程を踏まなきゃいけないんだよ!」
そこには【イクイクベルサイユ】というタイトルの小説が書かれていた。
俺は携帯を受けとりその小説に目を通していく。
一通り読み終わると俺はサラダに携帯を返した。
「どうだった!?」
サラダが餌をもらう前の犬みたいな顔で感想を尋ねてくる。
なので俺は率直な意見を言うことにした。
「全く意味がわからん」
「え? どこが?」
「まずなんでいきなり主人公っぽいやつの尻に箒が刺さってんだよ」
「え? このサイトじゃ普通だけど?」
サラダが「当然だろ?」みたいな顔をする。
マジでこのサイトどうなってんだよ……。
こんなんで小説家になってもなにも嬉しくねぇだろ……。
俺は少しヤケクソ気味に言う。
「そうかよ、じゃあそれはいい。納得はできないけど百歩譲って尻に箒が刺さってるのは普通だとしよう、全く納得できないけどな」
「おう」
俺は一呼吸置いたあと最大の疑問をサラダにぶつける。
「なんで爆発するんだよ」
「え?」
読んでいるとき、俺はもうワケがわからなかった。
俺の感性がおかしいのか? とも思った。
だがいくら考えても納得できなかった。
「だから、なんでその尻に刺さってる箒を抜いたら主人公が爆発するんだって聞いてるんだよ」
今この瞬間、俺の周りに強調線が描かれたのはいうまでもないだろう。
こんな馬鹿な死因があってたまるかよ。
俺は心の中で懇願する。
頼むサラダ……これには、これだけには疑問を持ってくれ……。
お前はそこまでイカれてないはずだ……。
━━だが現実は無慈悲であった。
「え? 尻から箒抜いたら人間って爆発するんだろ?」
「もうどうにでもなーれ☆」
俺は天を仰いだ。
おぉ神よ……何故あなたはこんな人間に魂を与えたもうたのですか……。
サラダはそんな俺を不思議そうに見ていたがすぐに通常運転に戻る。
「まぁこれで大体分かったと思うけど、異世界に行くには一度死なないといけないらしいんだ」
「わからねぇよ、俺にはお前っていう人間がわからねぇ」
「つーわけで俺死んでくるわ!」
「待て待て待て」
俺は道路に飛び出そうとしたサラダの肩を掴んで引き止める。
ズルズルと5メートルほど引きずられてようやくサラダは止まった。
……コイツ意外に力強いのな。
「なんだよタクヤン! 俺は異世界に行かなきゃいけねぇんだ! 止めてくれるな!」
「トイレに行ってくるみたいなノリで死のうとしてんじゃないよ。大体お前、異世界が本当にあると思ってんのか?」
「……どういう意味だよ?」
サラダが真剣な表情で尋ねてくる。
「死んだら絶対異世界に行けるのかって言ってんだよ。もしも異世界が存在しなかったらお前無駄死にだぞ?」
「無駄死に……?」
「そうだよ。そしたらお前、もう二度と俺と馬鹿騒ぎ出来ないんだからな? 俺はそんなの嫌だ。だから俺はお前を止めてるんだ」
「タクヤン……」
「さぁ選べよ、俺とハーレム。お前はどっちをとるんだ?」
サラダはそんな俺の質問に対してすぐに口を開いた。
「ハーレ……そんなのタクヤンに決まってるじゃねぇか!」
「おい、お前今ハーレムって言おうとしたよな?」
「さぁタクヤン! さっさと帰ろうぜ! そんでまた明日も馬鹿騒ぎしようぜ!」
「お前は俺よりもハーレムが大事なんだな? そうなんだな?」
そうして俺とサラダが歩きだそうとした時だった。
「タクヤンあぶねぇっ!」
サラダが急に俺を突き飛ばした。
ビュンッ
その瞬間、俺の目の前をトラックが猛スピードで通過していく。
━━そう、俺達はいつのまにか道路に飛び出てしまっていたのだ。
そしてトラックが過ぎ去った後、気付けば俺を突き飛ばしたはずのサラダが消えていた。
周りを見渡してもどこにもその姿が見当たらない。
「……嘘だろ……サラダ、お前本当に異世界に行ったっていうのかよ……サラダアアアアアアアアッ!!」
道路にはそんな俺の絶叫だけが虚しく響きわたった。
◇◆◇
五分後、サラダが無傷で帰ってきた。
彼が言うにはトラックが通った際、サイドミラーに服が引っ掛かってそのまま宙吊りで運ばれていったのだとか。
……なんかもう、とりあえず無事で良かったよホント……。
ちなみに今回出たイクイクベルサイユという作品は作者が前に書いた短編作品のタイトルです
とても汚い内容なので良い子は見ちゃダメだゾ☆